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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第2章
24/81

24 弟 9



 高校生になって塾に入り、僕はまた多くの女子と接する生活に戻ってしまった。

 大学教授の父さんは、「女の子には優しく接しなさい。」と、小さな頃に僕に教えてくれた。僕は父の教えを守り、今も丁寧に接している。


 夕飯のときに姉ちゃんが、塾の女子に困っている僕を心配して声をかけてくれたので、僕はわざわざ父さんと母さんの目の前で、姉ちゃんの頬にキスをした。

 これで父さんは、僕がどういう状態なのかわかってくれる。

 姉ちゃんが顔を赤くする。食事後、姉ちゃんが洗面所で鏡に映った自分を見ている。

 姉ちゃんを追いかけてきた僕は、後ろから姉ちゃんに抱き着いて、姉ちゃんの耳に息を吹きかける。

 びくんと揺れる姉ちゃんが可愛い。


 「嫉妬しなくてもいいよ。」


 僕は姉ちゃんを安心させたくて声をかける。

 姉ちゃんが鏡に映った、姉ちゃんより背の高い僕を見る。

 本当に、姉ちゃんは僕をどうしたいのか?

 姉と弟では、どうにもならないというのに。


 僕たちは、鏡映った自分たちの姿を見ていた。

 父さんに似て、落ち着いた容貌の姉ちゃんと、母さんに似て華やかな容貌の僕。でも、中身は反対だ。


 姉ちゃんは母さんのように奔放(ほんぽう)で、内側から輝くような強い光で僕を惹きつけて離さない。

 僕は父さんに似て、どうしても四角四面に物事を捉えてしまい、姉ちゃんとのことも煮詰まってしまう。

 

 「僕は姉ちゃんの弟だから。」


 姉ちゃんに言い聞かせるように、姉ちゃんの耳に唇を近づけて、息がかかるように言う。


 鏡の中の姉ちゃんがうっとりしている。

 どうやら、僕の「魔法の言葉」は兄さんの言葉と違って、「姉ちゃんの弟」、という言葉のようだ。


   

   僕は姉ちゃんの弟だから。



 全てはそこに始まりそこに帰結する。




 夜遅くに、珍しく母さんに呼ばれた。

 上の階のリビングではなく、下の階のリビングに呼ばれ、僕は少し反発心を持った。


 下の階のリビングでは、ソファーに座ってくつろいでいる母さんと兄さんの姿があった。父さんが上の階にいるのに、母さんは堂々と兄さんとの時間を楽しんでいた。

 母さんはそんな僕の気持ちを知っていて、僕をここに呼んだのだ。


 「気に入らない?」


 母さんの言うことに僕はまともに反応しなかった。


 母さんは、僕に見せつけるように、兄さんの頬にキスをした。


 「家族にキスしても、おかしくないでしょ?」


 僕は母さんを、少し(にら)んだ。

 これは、僕が姉ちゃんにキスしたことの当てつけだ。

 僕が姉ちゃんに不適切なことをしたから、こんなことをするのだ。


 母さんは僕の様子を見て、少し落胆したようだ。

 母さんは兄さんに後を任せて、同じ階にある部屋に入った。


 兄さんは僕を笑顔で見ている。

 僕はいらいらしながら兄さんに尋ねた。


 「兄さんも母さんにそういうことをするの?」


 兄さんは笑顔のまま、僕の質問に答えてくれた。


 「私は、あまりしないよ。かつてはしていたけどね。」


 今はしない、ということか。


 「父さんがいるのに、したの?」  


 兄さんは苦笑した。


 「それまでに、いろいろな事情があったんだ。そして、こうなった。」



 兄さんは真顔になり、僕の目を見た。


 「話をきこうか。」


 ぼくは気持ちを切り替え、姉ちゃんとのことを話すことにした。

 



 「姉ちゃんと、毎日しっかりとしたキスをしている。」

 

 僕は兄さんの眼力に負けないように、真面目に言った。

 ーーそれに、僕は、姉を、、、。


 「姉ちゃんは、僕のことが好きなんだ。」


 兄さんは少し苦しそうに眉を寄せた。


 「それは、二人ともそういうことをしたい、ということ?」


 僕は兄さんの目を見られない。

 少し(うつむ)き、(うなず)いた。


 兄さんは僕の隣に来て、ぼくの横に座った。


 「成人するまで、待ちなさい。」


 僕は顔を上げて兄さんを見た。


 「未成年では、どうしてもお姉ちゃんの方が弟を(そそのか)したことになってしまう。」


 兄さんは優しく(さと)してくれる。


 「成人まで待っても、どうにもならないよ。」


 僕は自分を笑った。

 

 「それは、姉と弟だから?」


 兄さんが当たり前のことを言う。


 「そうだよ。それ以外、何があるのさ。」


 僕は吐き捨てるように言った。

 姉弟(してい)での恋愛に、明るい未来などない。夢も希望もない。

 母さんと兄さんのように、他人だったら事実婚でもできるだろう。

 でも、血の繋がった肉親で、どう明るい未来を夢見れるというのか。



 「私とお母さんは、本当に欲しいものだけを選んで、この形におさまった。恋愛は、一人ではできないよ。

  お姉ちゃんの欲しいものと、君の欲しいもの、それぞれをよく考えてごらん。」


 兄さんは、僕の目を、導く者の目で見ている。


 「私は、欲しいもののために、あきらめたものがたくさんある。でも、本当に欲しいものを手に入れたくて、他はどうでもよくなったから、惜しくない。

  君にとって、譲れないものは、何?」


 兄さんは僕の目をのぞき込む。

 兄さんの目は、深くて底がしれない。圧倒的に大きな何かに僕の心の奥を探られ、僕は息ができない。

 

 息をつめていると、兄さんは目の力を(ゆる)めて、いつもの優しい笑顔になった。


 「君たちはもともと家族だから、僕たちと違った結末を迎えるかもしれない。

 お姉ちゃんの幸せを望むのはいいけれど、自分の幸せも求めないといけないよ。」




 僕はとうに、姉から幸せをもらっていた。


 

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