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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第2章
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 僕たちは、大学を卒業し、修士課程に進んだ。研究課題に追われて忙しくなると、彼女は僕の家に来る回数が減った。

 それでも、恋人の行事として甘く過ごしたい記念日に、彼女は僕のそばにいてくれた。

 僕は彼女と性的な関係を進めていないけれど、精神的な結び付きは強くなっていると感じているので、満足していた。彼女の魅力は、性的な接触がなくても消えることがない。


 彼女はふらりと僕のところに来て好きなだけ滞在し、ときには僕の接触を受け入れ、先に進むかと思わせたところで言葉ではなく身体で拒否を示した。

 僕だって男なので、期待させられた後は身体がつらい。落ち込んでいる彼女を抱きしめてあげたいところだけれど、自分の気持ちを落ち着けないと彼女に危害を加えそうになる。

 彼女から離れて心を正常にしてから彼女の元に戻る。そして、彼女とまた語らうために、彼女に大丈夫だから、と言ってあげるのだ。


 



 修士過程に入った年の9月のある日、元気のない様子で、彼女が僕の家に来た。


 彼女は玄関に入って直ぐに僕にしがみついた。


 「私を抱いて。」


 僕は驚いて、彼女の肩を持って身体を離し、彼女の顔を見た。

 切羽詰まった様子で、彼女は僕のことを見ている。


 「どうしたの?」


 彼女は顔を(ゆが)めて笑った。


 「どうもしていないわ。今までと同じ。」


 彼女は目を伏せてこめかみを押さえた。

 

 僕は彼女を部屋に上げて座らせ、彼女がいつも飲んでいるお茶を出した。


 「あの人と、何かあったの?」


 過去の人に捕われている彼女を解放したい。

 僕がそばにいるのだから、もう、あの人は要らないはずだ。

 

 彼女はどこを見ているのかわからない目で、ただ座っている。

 僕は彼女の隣に座り、彼女の肩を抱いた。

 彼女が嫌がらないので、そのまま床に倒して、彼女にキスした。彼女の身体に触れても、彼女の抵抗がない。

 そのまま、彼女の服を脱がせていく。

 彼女の素肌に口づけながら、彼女の下着も取ろうとすると、彼女が身体をかたくした。


 彼女は、静かに泣いていた。

 僕は嫌がる女性を抱く趣味はない。

 僕は起き上がり、彼女に脱がせた服をかけて、頭を冷やすためにバスルームに入った。



 僕がバスルームから出てきても、彼女はまだ服を着ずに寝転んでいた。

 僕は彼女を起き上がらせて、服を着せた。

 彼女が「ふふっ」と笑った。

 彼女は視線をどこかにおいて、話し始めた。


 「私の弟も、服を着せてくれるの。私が脱いでも、着せるのよ。」


 彼女が何を言おうとしているのかわからないので、黙って聞く。


 「弟は、とてもモテるの。今も、女の子から熱心に誘われているわ。」


 中学生であのモテぶりだったのだ。高校生になった今ならなおさらだろう。

 

 「私、焦って、弟に無理をさせた。」


 彼女は、弟について何か言おうとしている?


 彼女が僕と目を合わせた。


 「私が好きなのは、弟なの。」


 僕は目を見開いた。


 「私は、他人を好きにならない。」


 彼女は僕をじっと見ている。


 僕は驚きのあまり、何も言えない。

 彼女は泣きそうな顔で、無理に笑顔を作った。


 「今まで、ありがとう。たくさん助けてもらったわ。」

 

 彼女は立ち上がって、部屋を出ようとしている。

 僕はショックから立ち直れなくて、何を言えばいいのかわからない。

 彼女が靴を履いている。

 

 彼女が振り向いて、僕を見た。


 「大学でも会うことがあるけれど、もう、気にかけなくていいからね。本当に、ありがとうございました。」


 彼女は深くお辞儀をして、僕を見ずに向きを変えて玄関のドアを開けて出て行った。

 僕は一言も言えず、閉められた玄関をしばらく見ていた。




 彼女が僕の前からいなくなったのだと理解して、僕は直ぐに追いかけた。僕はどのくらい、(ほう)けていた?彼女はもう、駅に着いたのか?

 走って走って、僕が駅までたどり着いたとき、ちょうど電車がホームに入って来た。

 大勢の人がいる中で、人一人を見つけることは、不可能に近い。

 僕はわかっていても、探さずにいられなかった。



 行かないで欲しい。

 僕の前から消えないで欲しい。

 もう、抱こうとしないから、お願いだから、僕の隣にいて。

 弟が好きでもいいから、僕から離れないで。

 あなたが僕の隣にいてくれるのなら、それだけでいいから。



 彼女はどこにもいない。

 彼女は僕のところからいなくなって、戻って来なかった。

 

 僕は、どうして動けなかったのだろう。

 どうして引き止める言葉を発せなかったのだろう。

 彼女は他人を好きにならないと言っていたけれど、僕は確かに彼女に好かれていた。

 恋人に向けるような情熱的な想いとは違っても、僕の心を十分温めてくれる想いだった。





 僕は大切なものを、無くしてしまった。

 後悔しても、しきれない。

 人との関係は、タイミングこそ重要なのだと思い知らされた。

 僕はあの日に帰りたい。



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