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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
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 僕の彼女は僕に連絡をしてこない。友達だからといえばその通りなのだけれど、ちょっと寂しすぎやしないか?


 僕たちは、9月の学祭にサークルで出店するための準備について話し合っていた。

 当日の当番、機材を借りに行く担当、テーブルや飾りつけ担当等。

 細かい打ち合わせをしつつ、楽しく準備をすすめていく。


 僕が彼女にキスをした夜から、まだ二人きりになっていない。

 僕たちの関係をここで止めるかどうか、僕は迷っていた。

 僕が、彼女が他の男と作業しているのを見ながら考えていると、彼女の告白を見たと以前言って僕をからかった先輩が、僕のところに来た。


 「彼女に浮気でもされた?」


 先輩は、また僕をからかおうとしている。


 「浮気なんて、されていませんよ。」


 僕は笑顔で答えた。


 「毎週、家で手作り料理を食べていたんでしょ?」

 「ええ。」


 毎週、楽しみにしていた。


 「もう、作りに来ないの?」

 「ああ、あれは、お礼に作ってくれていただけですから。」


 だから、家に来ないし作ってくれない。


 「お礼? 何の?」


 先輩の目が光る。


 「授業のノートを見せたり本の貸し借りのお礼です。」


 この先輩は、僕たちの交際を良くないと思っているふしがあるので、僕は適当な理由を言った。

 

 「彼女、他に好きな人でもいるんじゃない?」


 先輩は僕の目を見た。


 「僕に魅力が足りないせいですね。」


 僕は冗談だとわかるよう、軽く言う。


 「そんなに彼女が好き?」


 先輩が皮肉る。


 「好きですよ。付き合っていますし。」


 僕は先輩の目を見る。


 「裏切られていても、そう言える?」

 「彼女は大丈夫です。悪い子じゃありません。」


 彼女は、僕を裏切った、あなたとは違う。



 先輩は、高校の頃、僕と付き合っていた。先輩にとって僕は懐いてくる後輩にすぎず、付き合っているつもりはなかったようだけれど。


 「え? 私たち、付き合っていたの?」


 浮気を問い質したときに、先輩にこう言われた。


 僕はとても傷ついて、この後、誰ともまともに交際できなかった。

 どうしても、裏切られることを危惧してしまう。

 きちんと付き合っていると思わなければ、浮気されても気にならないかも知れない。

 好きになりすぎなければ、相手が僕の他に誰をみていても、僕は大丈夫だろう。


 彼女と友達のまま付き合うというのは、妙案だと思った。彼女だって、好きな人にフラれたからといって、すぐに僕に気持ちが移るはずがないのだ。

 

 僕が真面目な顔で先輩を見ていると、先輩が寂しそうな顔をした。


 「本気で彼女が好きなんだね。」

 「付き合っていますからね。」


 僕は理由を繰り返す。


 彼女が僕に振り向くまで、時間がかかるかもしれない。

 僕は、ゆっくりと振り向かない彼女の心に入り込んで、僕を好きになってもらうつもりでいる。

 今は、友達という安全な立場から、お互いをさぐっている段階だ。

 

 彼女は、また別の男と話している。

 付き合っていると情報を流した後も、僕がそばにいないときを見計らって、男たちが彼女に話しかけていた。僕がそばに行くと、一緒に話すやつもいるが、たまに、なんでもないという様相で離れていくやつもいる。


 全ての男が彼女を狙っているわけではないが、僕が彼女との交際をやめたら、この中の誰かが彼女に交際を申し込むと思われた。


 僕が彼女をじっと見ていると、彼女が僕の視線に気づいて僕のところに来た。

 

 「この前は、慰めてくれてありがとう。」


 彼女は僕に笑顔を向けて言った。


 「僕も楽しかった。また、一緒に飲もうよ。」

 「私、お酒に弱いみたいなの。私の分はジュースでよければ、一緒に飲みたいわ。」


 僕は笑った。彼女はそこまで弱くはない。家の誰かに言われたのだろう。


 「いいよ。あなたの分はジュースで、僕は飲みたい物を飲むよ。いつがいい?」

 「今晩は都合悪い?」


 彼女の要望で、サークルの飲み会を途中で抜けて、僕の家に行くことにした。


 家に着いたのは、夜7時を過ぎていた。彼女の家の人から連絡が入るのが、毎回夜9時過ぎ。

 それほどゆっくりしていられない。

 コンビニで買った惣菜をつまみに、僕はビール、彼女はジュースを飲んだ。コンビニのデザートも買った。彼女はそれを楽しみにしている。


 ビールを一本飲み終わったところで、僕は質問した。


 「友達のまま、僕とキスするのは、つらい?」

 

 彼女はジュースの入ったグラスを持ったまま、僕を見ている。

 僕は彼女の目をじっと見た。

 彼女が真摯な表情で、会話を始めた。


 「私には、好きな人がいる。」 

 「知ってる。」


 「私では、決して手に入らない人。」


 彼女が悲しそうな顔になる。


 「あきらめきれないの?」


 告白したのだから、ふっきれたのだと思っていた。


 「あきらめようがないの。」


 彼女の目が、遠くを見る。


 「僕が待っても、無駄だということかな?」


 僕の言葉で、彼女が僕のところに視線を戻した。


 「あなたが付き合ってくれているから、私は助かっているわ。

  他の男の人から、変に誘われなくなった。」


 彼女が微笑んだ。

 

 「僕は役にたってるんだね。」

 「ええ。だから、私をあなたの彼女にして。」


 彼女は微笑んでいるのに、目が強張(こわば)っている。

 先に進むのが、まだ怖いのだ。


 「無理をしなくていいよ。僕は待てる。」

 「待っても無理かもしれない。」


 彼女は僕に誠実であろうとしてくれている。

 僕も僕の誠意を見せたい。


 「僕があなたに身体を求めなかったら、あなたは僕と、本当の付き合いができる?」

 「一生かもしれないわよ?」


 彼女は僕の心の底を見るように、僕の目をずっと見ている。

 僕は一人の人に捕われている彼女のことを、美しいと思った。


 「今、あなたが想っている人だけなら、あなたが僕以外の人を見ていても構わない。

  でも、他の人は決して見ないで。」

 

 「他なんて、興味ないわ。」


 彼女は自嘲(じちょう)するように笑った。笑いながら、目に涙を浮かべていた。


 

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