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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
16/81

16 姉 5


 

 私は、お兄ちゃんの手を引っ張って、お父さんとお母さんがいるキッチンに来た。


 「将来、お兄ちゃんと結婚する!」


 小さな私は、幼児の声で親に宣言する。


 「おい、どういうことだ?」


 お父さんがいつもより低い声で怖いので、私はお兄ちゃんの脚に抱き着いた。


 「お兄ちゃんをいじめないで!」


 私は目に涙が浮かべて、お兄ちゃんを守ろうとする。



 お母さんが膝をついて私の目線に合わせ、目にタオルあてて涙をふいてくれた。


 「お兄ちゃんが好きなの?」

 「うん。」


 お母さんの質問に、素直に返事をする。


 「お母さんも、お兄ちゃんが好きよ。」

 「お母さんも、好きなの?」


 私はお兄ちゃんの脚に抱き着いたまま、お母さんと会話している。


 「そうよ。とっても好きだから、一緒にいるの。」

 「でも、お母さんはお父さんと結婚してるでしょ。」



 お母さんは振り返ってお父さんを見て微笑んで手をとり、もう片方の手でお兄ちゃんの手をとって、繋いだ両方の手を私に見せた。


 「お母さんたちはね、お互いが好きだから、一緒に住んでいるの。

  お兄ちゃんは、私たちの家族なの。これは秘密よ。」


 お父さんもお兄ちゃんも、お母さんと私のやり取りをずっと黙って見ている。


 「秘密なの?」

 「そう。四人だけの、とっておきの秘密よ。

  お兄ちゃんが好きなあなただから、大きくなる前に、特別に教えたの。」


 「私、お兄ちゃんと結婚してもいいの?」

 「あなたが大きくなってもお兄ちゃんが好きだったら、お兄ちゃんに告白なさい。

  お兄ちゃんがあなたと結婚したかったら、結婚できるわ。」



 私はいつもと違う、子供の私に表現できない、私を子供ではなく大人として扱ってくれているお母さんを見ていた。

 私は目線をお兄ちゃんに移して、お兄ちゃんがお母さんを見ているのを見て、何となく理解した。



 私はお兄ちゃんの脚から手を離した。


 「お兄ちゃん、お母さんのことが好きなの?」


 お兄ちゃんが座って私の頭を撫でた。


 「そうだよ。私の、初恋の人なんだ。」

 「私のことは()らないの?」


 私は悲しくて、泣きそうになっている。


 「必要だよ。私の家族だから。お父さんもお母さんも、あなたも、赤ちゃんも、全員私の家族で、大切な人なんだよ。」

 「私のことも好き?」

 「家族として、大好きだよ。」

 「じゃあ、家族でいい。それなら、結婚してるのと同じだもの。」


 私はお父さんがため息をついたのに気づいたけれど、理由がわからなかった。



 「お母さん、あのね、私にも秘密があるの。」


 私がお母さんの耳に、こそこそと内緒話をする。


 「それも、四人の秘密にする?」


 お母さんが私に言うので、私はお父さんを見て、またお母さんを見た。


 「言っても大丈夫かな?」

 「この四人なら、大丈夫よ。秘密を守れるわ。」


 私はお父さんを見て言った。


 「お父さんとお兄ちゃん、両方と結婚したいの。

  お父さんとお兄ちゃん、両方が好きなの。でも、一人の人としか結婚できないから、困っているの。」


  お父さんは何も言わず、ずっと私を見てくれている。


 「お父さん、カッコイイもん。でも、お母さんと結婚してるから、私と結婚できないの。だから、お兄ちゃんがよかったの!

お兄ちゃん、綺麗だし、いつも遊んでくれるもん。」






 久しぶりに幼い頃の夢を見た。

 起きてみると、すこしだるい。昨夜のお酒が残っているのかもしれない。



 あの頃は、母の言っていた「好き」の意味を理解できていなかった。

 でも、小さな私は感覚としてわかっていた。お母さんは二人のことがとっても好きなんだと。



 何より「四人の秘密」がうれしかった。

 弟が生まれて、私は両親を弟にとられたような気がしていた。


 お兄ちゃんは私とたくさん遊んでくれた。

 私はお兄ちゃんを弟にとられたくなくて、お兄ちゃんと結婚したらずっと一緒に遊んでくれると考えていた。




 小学生になると、お母さんが二人とも好きと言ったのは、それぞれ違う意味で言ったのだと思った。

 お母さんとお兄ちゃんは、とっても仲のいい友達で、よく言葉遊びをしていた。

 二人が言っていることを真に受けると、「素直な子、大好きよ!」って、お母さんに抱きしめられてからかわれてしまう。



 お父さんとお母さんの二人でいるときと、お母さんとお兄ちゃんの二人でいるときは、雰囲気が違う。


 お父さんとお母さん二人のときは、とっても仲のいい私の理想的な夫婦で、穏やかな雰囲気がある。


 お母さんとお兄ちゃん二人のときもとっても仲がいいけれど、お互い言葉遊びが好きな気の合う友達で、楽しい雰囲気だ。

 趣味も食の好みもそのほかのことも、二人は驚くほど一致している。

 まるで姿が違う二人なのに、一人の人が二人に分かれたようだ。



 だから、私はお母さんとお兄ちゃんの仲を、冗談を言い合う、長年続いた友達だと思った。

 その考えで、私はずっとお兄ちゃんを好きでいた。



 でも、お兄ちゃんは「正式な結婚ではない」結婚をしていると言っていた。

 お兄ちゃんの「正式な結婚ではない」結婚相手は、まさか、お母さんのこと?!


 いや、ありえない。

 お母さんは、冗談を言うけれど、とても真面目で、不道徳なことなんて何一つしそうにない。


 だいたい、お父さんがそんなことを許すはずがない。

 お父さんはお母さんと私たちの前でいちゃいちゃしないけれど、二人が未だにバレンタインデーとホワイトデーにプレゼントをしあっていて、お母さんがお兄ちゃんにのろけて言っているのを、私は知っている。


 では、お兄ちゃんの「正式な結婚相手ではない」結婚相手って、誰?

 海外で、一緒に住んでいるの?



 私はお兄ちゃんにフラれたというのに、ショックも受けず、お兄ちゃんの私生活について考えている。

 私にとって、お兄ちゃんはとっくに本当のお兄ちゃんなのだ。

 家族に対して告白してフラれても、こんなものだ。





 私は実の弟に対する気持ちを、深く考えることを止めた。

 家族なのだから、どんな関係でも一緒にいられる。難しく考える必要がないのだ。

 


 私は体調の悪い身体を無理矢理動かして、リビングに出た。

 弟が私を見て、グラスに水を入れて渡してくれた。


 「お酒を飲むなら、家で飲みなよ。ぼくもジュースで付き合うから。」


 弟はお姉ちゃん思いの、可愛い男の子だ。

 水を飲んでグラスをテーブルに置いた。

 弟のそばに行き、弟に抱き着いた。


 お父さんとお母さんが、私たちを見ている。


 「ありがとう。」


 弟に感謝する。

 しばらく抱き着いてから、私は洗面所に顔を洗いに行った。




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