第3章~久しぶりに注目の的~
放課後のこと。
「ねぇ、あずみ」
例によってサンガンピュールはあずみに不明点を質問した。
「どうしたの、ゆうこちゃん」
「レイクタウンTVって知ってる?」
「知ってるよ。あたし、土曜日、日曜日にいつも見てるよ。それでね、パパと一緒に映画をたくさん見るんだ」
あずみがそう答えると、誰かが近寄ってきた。
「えっ、レイクタウンTVの話?」
声の主はクラスメイトの今田愛美だった。
「あっ、愛美も見てるんだ」
あずみが反応すると、
「どんなの見てるの?」
サンガンピュールも質問した。
「うちは、アイドルかなぁ。嵐とかV6とか。超かっこいいし!」
どうやら知る人ぞ知るケーブルテレビ局らしい。そんな局からインタビューの要請を受けるなんて、おそらくすごいことになるに違いない。サンガンピュールはニパァッと、気色悪いような笑みを浮かべた。
その夜、Kが帰宅してから、サンガンピュールは具体的な話を聞かされた。
今回のインタビューの目的は、街中で発生する事件を次々と解決するスーパーヒロインとしてのサンガンピュールに対して、出自や趣味、大切にしていることなどを視聴者に紹介すること。
ケーブルテレビは原則として1つの地域に1局しか置かれないため、特定の地域の住民にピンポイントで情報を発信することができる。故に「地域密着」がケーブルテレビの最大の強みだ。レイクタウンTVの場合、霞ヶ浦に近い土浦市を拠点として、取手市、龍ヶ崎市、牛久市、つくば市、水海道市(当時)といった県南地域の自治体にローカルニュースやアイドルコンサート、洋画、海外アニメなどを積極的に発信していた。
サンガンピュールの「出るよ!」という強い熱意に押されたせいで、Kは早々とプロデューサーとアポを取った。インタビューの時期は意外にも早く決まってしまった。
6月7日、土曜日。
「おじさん、早く、早く!」
話を持ち掛けられて5日が経った。待ちに待ったインタビューの日ということもあって、サンガンピュールは朝から大はしゃぎだ。この日は学校に行くわけでもないのに6時起床だった。
「待てって!」
平日は毎朝5時半起床というKは、早朝に起きるのは慣れているものの、養子の元気さにはついていけないものがあった。たまの休日なのだから自分にゆっくりさせてほしいところだ。その時ばかりは「ああ、安易に養子にするんじゃなかった」とも思う。
サンガンピュールへのインタビューは、レイクタウンTVの本社事務所の会議室で行われることとなった。Kも保護者として同行する。千束町にある自宅を出たら千束町交差点を北東へ通り過ぎる。ここまではいつもの通学路と一緒だが、今回はそのまま直進する。右手に亀城公園や市立博物館を眺めた後は新川サクラ通りを横切る。この辺りは片側1車線ずつの道路の両側にガソリンスタンドや飲食店が点在する。どちらかというと面白くもない光景だ。しばらく歩くと、右手側に6階建てのビルが見えるが、それがレイクタウンTVの本社事務所だ。所在地としては土浦市真鍋1丁目だ。
正面玄関を入ったら、2人のスタッフがサンガンピュールとKを迎えてくれた。
「あっ、こんにちは。初めまして!」
元気な挨拶をしたのは、レイクタウンTVの小鳥遊彩華。インタビュアーを務める女性アナウンサーだ。また、Kに対しては
「本日はお休みの中お越しくださいまして、ありがとうございます」
と、かなりかしこまった挨拶をした。一方で、
「Kさん、初めまして」
男性の声がした。彼は小尻勇太。この局の情報番組担当プロデューサーであり、Kと連絡を取り合った人物である。お互いにこの時が初対面だった。
「あああ、電話では何度かお話させていただきましたね。本日はよろしくお願いいたします」
Kはにこやかに挨拶をした。
対面の挨拶もそこそこに、一行は3階の会議室へ移動した。
サンガンピュールは衣装準備のために楽屋に一旦入った後、トレードマークともいえる茶色の衣装で登場した。
「わぁ、改めてご本人の姿を見ていますが、実にかっこいいですね」
小鳥遊は驚嘆という表情だった。
「なんか『スターウォーズ』に出てくる、オビワン・ケノービみたいですね」
と評したのは小尻である。
これに対して、サンガンピュールは
「いやぁ・・・照れます・・・」
インタビューが始まる前から赤面してしまった。




