王都奪還作戦!(1)
先行する形で王都へ向かうユート達は…
「そうまでして戻らないといけない理由って一体何なんだ?」
最初は初めて体験する空の旅と高速で切り替わる景色に感嘆し、感動を顕わにしていたが次第に慣れてきたようなので、ついてきた理由を尋ねた。
危険を冒してまで戻らなくても、安全になったことを確認してからでも問題無いはずだ。
それなのに戻るという事は、王都に余程大事なものがあるのだろうか?
「聖女である以上、民を見捨てる事は出来ない…と言っても、今更だと建前にしか聞こえにですよね。
実は、あの大教会にある祭壇には光の女神の遺物があるのです。もしそれを失ってしまうと、王都でSSランクの冒険者を輩出することが不可能になります。
だからなんとしても、それだけは回避しなくてはいけないのです」
そういや、なんでわざわざ王都で儀式をやるのかと思っていたが、政治的理由以外にも、ちゃんとした理由があったんだな。
神の遺物、つまり"オーパーツ"というやつだ。
"オーパーツ"とは、現在の技術では作成出来ない高度な技術を用いられた物を言うが、この世界にもその概念はあるようだ。
「そんな大事なものがあったのか。…しかし、こう言っちゃなんだが手遅れなんじゃないのか?」
もう襲撃されて1日以上経っている。
とっくに街は占拠されているだろうし、気が付かれていないとは思えない。
そもそも、それが目的だった場合に真っ先に狙われているだろう。
「いいえ、そうとも言えません。王都の大教会にあるオーパーツは、光の加護を受けたもので無いと触れる事すら出来ないのです。
もしも魔族の者たちが触れば、たちまち灰と化す事でしょう」
一瞬で灰になるとかマジか?
思ってたよりも、危険な物なんだな。
幸いなことに、大教会の天井部分に取り付けられているため、一般人が触ることは出来ないらしい。
また、外からでは触れる事は出来ないし、見えない場所に設置されているということだ。
街の人々にもご神体として知られているらしく、特殊な神官しか触れてはいけないと教えられているのだとか。
「それなら戻らなくても、そう簡単に奪われないんじゃないか?だいたい光の加護を受けていないと触れないんだろ…そんな魔族いるのか?」
「いない…とは言えないですね。例えば天使族とかは光の眷属でもあるので、彼らの上位種族が奪いに来た場合なら、持っていく事が可能でしょうね。
ただ、天使の塔にしか生息を確認しておりませんし、魔王軍の魔族とは仲が悪いらしいので、天使族の魔族…まして上位種なんて、確認されたことがないんです」
可能性がゼロではないが、確率は低いって事か。
そもそもそんなものを奪っていっても、あまり魔族には恩恵を齎さないので破壊する事はあっても、奪っていく可能性は低いという。
「じゃあ、一番の懸念は破壊される事か…」
「そうですね、簡単に破壊する事が出来るようなものではないらしいですが、SSランクの魔物が出てきている時点で、その心配の方が大きいのです」
なんにせよ早く向かって状況を確認しないとだな。
『マスター!そろそろ王都に着くよ~』
『マスター見てください、遠目で見てもかなり酷い状況ですよ…』
ヘカティアとディアナに促されて外を見てみると、街のあちこちから火が上がり王宮にも火の手が上がっていた。
見たところ冒険者らしき者達が応戦しているが、住民の姿は見当たらない。
まさかもう…?
「・・・」
「まだ生存者はいるはずだ。まずはギルド職員たちがどれだけ生き残っているか確認してみよう」
「そう、ですね…。大教会の近くでもありますし、ギルド本部へ向かいましょう」
少なくないショックを隠し切れずに、それでも気丈に振舞おうとする姿はさすが聖女様だ。
ニケに指示を出してギルド本部の近くに飛んでもらう。
途中で数匹の魔物がこちらに気が付いて襲ってきたが、先行したヘカティアとディアナに返り討ちに遭っていた。
光のビームみたいな強烈なブレスで一撃だ。
「あの二匹のドラゴン…とても強いんですね」
「ああ、二人ともSSランクだからな。今日連れてきた4人ともSSランクだから、そこら辺の魔獣や魔物じゃ傷の一つも付けれないだろうな」
「そ、そんなに凄いんですか…。さすがユートさんですね。いざ味方になると、これ以上心強い方はいないかも知れないですね」
「お世辞は全て終わってから言ってくれ。これからどうなるかなんて、分からないからな」
天使の塔の事がふと頭を過った。
あんな事は二度と御免だ、気を抜かずに当たらなければ足元を掬われかねない。
ギルド本部前は、まだ魔物と人間の戦闘が続いているようだ。
アリアネルが逃げるときも戦ってたらしいから、ずっと交戦しているのだろうか?
魔族側の方は疲れを全く見せていないが、人間側の冒険者達は既に疲労困憊のようだった。
「お前たち!そこにいたら邪魔だ、建物内に逃げ込め。ここのやつは俺らが片付ける!」
「おおおっ!あれはユートだ!おい、ユートが帰って来たぞ! すまん、俺らでは歯が立たないんだ!任せるぞ!」
熟練の冒険者達らしく技量だけでなんとか防衛していたようだが、既に体力も尽きかけていたようだ。
俺の姿を見るなり頼んだというと、俺が言ったとおりに建物内に逃げ込んだ。
「カルマ!ここらの魔物を一掃しろ!」
「承知した、すぐに終わらせよう…グラビティフィールド!…<ソウルドレイン>!」
カルマが魔法とスキルを発動するだけで、辺りにいた魔物達は為す術なく地べたに這いつくばる形で動けなくなる。
みるみる生命力を奪い取りその体から生気が失われていった。
攻撃された魔物達は、そのまま力尽きて体が朽ちて消えた。
体が消えるなんて、あれらは悪魔系の魔物だったのかな?
どちらにしろ、Bランク以下の雑魚ばかりだったから素材も期待は出来ないけど少しだけ勿体なく感じる。
「主よ、我はここらの雑魚どもを一掃してくる。ギルド内の様子を見てくるといい」
「分かった、頼んだぞ!ニケ、下に降りてくれ」
『承知しました主様』
クイー!と鳴くと、滑空して降りていく。
あまりの急角度に一瞬アリアネルが悲鳴を上げたが、聞かなかった事にしておいてあげた。
───
ギルドの中に入ると、ロビーには負傷者で溢れかえっていた。
そこには冒険者だけではなく、街の人から兵士まであらゆる人がここに逃げ込んできたらしい。
「くそっ!王宮とまだ連絡が取れないのか! 陛下の無事は確認出来んのかっ!?」
ロビーの奥の方で、野太い声で騒いでいる人物がいた。
遠目でも分かるその人は、俺も知っている人物だ。
「ん?おお、お前はユートじゃないか!亡霊じゃないよな? …よしよし、ちゃんと実体はありそうだな。 おや、その隣の…!!?アリアネル様!!ご無事でしたか!!」
「声がでかいし、うるさいぞドルガー」
豪快なドワーフみたいな顔のドルガーが、大きな声で話しかけてきた。
「なんでもお前と一緒にいるんだ?お前は南大陸に向かっていたと聞いたが…」
「たまたま俺のところの使用人が彼女を助けたんだ。だから一緒にいるのは本当に偶然だよ」
ドルガーが驚いた顔のまま、頭をガシガシしていた。
まぁ、そんな偶然そうそう起こる事じゃないから、気持ちは分かるよ。
「なるほど、そういう事もあるんだな。 だが助かった、まだ俺らには運が残っているようだ」
「というと?」
「王族でもあり、聖女でもあられるアリアネル様が健在であれば、まだ士気を保てる。王宮と連絡が取れない以上は最悪を想定する必要があるんだが、それでも聖女様が生きているという事実は希望につながるのだ」
「なるほど。今は聖女様が人類の希望というわけか」
「そういう事だ。 それに先日SSランクになったお前が王都へ戻って来た。この事実は冒険者達にとってかなりの助けになるだろう。 正直、みな心が折れかかっていた。だが、お前が来たことにより、まだ持ち直せるという期待を持てるだろう」
もはや、これは魔王軍との戦争だ。
その中で圧倒的に不利な状況はでは、こういうアイコンになりやすい人物がいるかどうかでモチベーションがかなり違ってくる。
この絶望的な状況では、彼らも何かに縋りたいという事だろう。
みな、かなり追い込まれているみたいだ。
「皆、良く聴け!SSランク冒険者のユートと、聖女アリアネル様が帰還された!
ここからだ、ここから奪い返していくぞ!」
おおー!と鬨の声が木霊する。
俺は苦笑いしながらも、疲労を回復すために神聖術スキルを実行する。
「全てを癒やす光よ、この者達を照らせ…〈祝光〉!」
疲労困憊の体をポーション無しで回復するこのスキルは本来聖職者のスキルだが、本業の聖女を差し置いて回復する。
おお、流石聖女をお守りした英雄だ!とか聞こえてきたが、スルーしておいた。
そもそも英雄になったつもりもない。
そういうイメージは、カイト達に任せるつもりなのに勝手に思わないで欲しい。
「ユートさんは、神聖術も操るんですね。効果範囲だけで言えば私を越えていますよ」
「まー、最近良く使うからスキルが上がったせいだろうな。使ってみると色々と便利だよな」
「神の御業を、便利道具扱いにしないでください」
聖職者にとって、神聖術は神の御業という事らしい。
聖職者とは、神の代行者なのだという。
「へぇ、そういう教義で育ったの?お堅い考えだなぁ。でも、使えるものは何でも使う、それが冒険者ってもんさ」
「はぁ、そんな自由な発想出来るだなんて本当に羨ましいですよ。私達王族は嫌になるほど制限がありますから」
「なるほど、それは大変そうだな」
根っからの庶民の俺には分からない苦労があるんだろう。
若いのに大変な気苦労をしているみたいだ。
そんな事を思いつつ、ドルガーに気になったことを聞いてみた。
「なぁ、ドルガー。上空から見渡したが、街の人が見当たらなかったがどうしたんだ?…まさかもう?」
「まぁ、かなりの数が殺されてしまったが、今は各地で冒険者達が誘導して地下に逃げ込んでいる筈。あそこなら滅多なことでは魔族に見つからないからな」
「地下?つけられてたら、攻め込んでくるんじゃないか?」
「それは大丈夫だ。結界が発動しているから、入り口に人間以外が通れないようになっている。無理に入ろうとすればすぐに黒焦げだよ」
王都の地下にそんなものがあったとは。
王都であるこの街の地下には、前線が近いこともありいざという時のために地下に避難場所があるらしい。
そこではある一定の生活が出来るように最低限の物が用意されているみたいだ。
しかし、その結界はもってあと3日くらいだという。
食料の問題もあるし早く街を奪還しないと攻め込まれるか、餓死するかもしれない。
「緊急時にしか使えないが、今回発動してくれて良かった。そうじゃ無ければ今頃多くの民が死んでいたかもしれない」
「そうか、一先ず無事なのを聞いてホッとしたよ。早く戻って来れるように街の魔族と魔物を一掃しないとだな」
「頼めるか? 気を付けろよ、街の中心には得体の知れない顔だけの魔物がいる。
正直アレはかなりヤバいな。街の冒険者では手も足も出なかったからな。
もしも、お前がなんとか出来ないなら詰んだも同然だ」
「まぁ、任せろ。 そんじゃ、まぁ行ってくるわ」
買い物でも行くかの気安さで出ていく俺を見送る冒険者達。
俺の他にもユニオンの仲間が来ることと、南大陸から援軍が来ることを忘れずに伝えておく。
まずはこの街の中心から東までの制圧をする必要がある。
東側には港があるからだ。
ユニオンメンバーが到着したらギルドにいる冒険者も、もう一度戦闘に参加する事になった。
逃げ遅れた住民や他の地区で戦っている冒険者の支援に向かってもらうためだ。
それまでには、ある程度片付けなければいけないな。
「私も行きます!」
俺が外に出ようとすると、アリアネルが待ってと俺の腕をつかんだ。
これから激戦地区に向かうのに彼女がいては存分に力を発揮することが出来ない為、置いていく予定だったが…。
「アリアネル。正直に言うと邪魔だ。せめて街を制圧するまではここにいてくれないか?」
「しかし…」
「俺のペット達の攻撃に巻き込まれて死にたいのか?」
「これでも私もSランクのプリーストなんです。 攻撃力は無くても、回復ならかなり役に立つ筈です。」
「無理だな。俺らの戦闘に耐えれるなら逃げる必要なんてなかった筈だ。それに回復出来るのなら、ここにいる負傷者をどうにかしてくれ。彼らを復帰させてくれた方が幾分か助かる」
大物は倒していっても、小物がうじゃうじゃいるので人手がいくらあっても足りない。
戦力が多い方がいいのは明白だ。
「う…分かりました。でしたら他の冒険者達と一緒に出ます。それで問題ないでしょう?」
「わかった。好きにしてくれ…但し、せっかく拾った命なんだから死ぬなよ?」
「はいっ!」
俺の背中を見送るアリアネルを置いて、俺も戦場へと向かうのだった。
───
カルマはその頃、上空を旋回している顔だけの悪魔達と対峙していた。
広場に浮かんでいるやつよりも一回り小さいが、それなりの力を持っているようだった。
「とは言っても、所詮は雑魚。我を前にして固まっているなど愚の骨頂よな…消えろ!〈深淵の門〉」
空中に出した門は、ブラックホールかの如く全てを吸い込んでいく。
吸い込まれた瞬間に圧縮されて、悪魔達は瞬時潰されて塵になって消えた。
「こいつらは、あの魔物の眷属のようだな。あんなものは我が居た頃にはいなかった気がするが…」
さすがに全部は把握していないかと自傷気味に笑い、相変わらず無詠唱で魔法をどんどん繰り出しく。
出現した闇の槍で、次々に魔物達は串刺しされて絶命していった。
「そろそろ主も出てくるか。 その前にあの顔のやつは仕留めなければな」
そう呟きながら、魔獣の姿のままで珍しく詠唱を始めるカルマ。
力量では格下だと感じているが、何やら不気味な気配がするのだ。
なので、何かしてくる前に一気にカタを付けようと考えた。
だがしかし、カルマの詠唱に気が付いた魔物はすぐに攻撃を仕掛けてきた。
見えない殺気が迫ってくるのを感じて、詠唱を止めて回避を取るカルマ。
しかし…
「グッ?!」
カルマの体が無数に刻まれる。
その体のあちこちから血しぶきが飛び散った。
すぐに"自己再生"を施し傷を塞ぐも、新たな攻撃が次々と襲って来た。
「これは…空間を切り裂く魔法か?ちっ、まるで大魔王の魔法を食らっているかのようだな」
そういいつつ、段々相手の攻撃を把握しつつあるカルマ。
ネタが分かればどうという事もないという風に、攻撃を躱すことに成功する。
『!??』
自分の攻撃に耐えているだけでも驚きなのに、それを躱すなんて芸当をするものなど今まで殆どあった事がないその魔物は驚嘆の顔をしている。
「気色悪い顔で変な顔を見せるな。 …お前はもう終わりだよ」
そう言った瞬間に、魔物の周りを取り囲むように無数の魔法陣が現れた。
そのすべてから赤黒い槍が飛び出し、次々に魔物を串刺しにする。
そのうちの数本は見えない壁に弾かれたようだったが、全てを防ぐことは出来ないようで体(顔?)のあちこちに突き刺さった。
さらに、そこから生命力が急激に吸い出されていく。
「ふん、我の実験台に成れたことを喜べ。これは〈吸命の魔槍〉、お前の命を吸い尽くすスキルだ」
槍にすべての生命力を奪われた魔物はその場で息絶えた。
刺さっていた槍は霧散したかと思うと、そのままカルマに吸い込まれていきカルマを回復させた。
「あらら~? 変な魔獣が私の"デビルヘッド"を倒しちゃった~?あんた何なの?」
顔の魔物、"デビルヘッド"を倒したと思ったら、その後ろに魔法陣が現れて中から魔族の女が出てきた。
その魔力に覚えがあったカルマは、すぐさま距離を取った。
「あれ?…もしかして私を知っている~?ふふふ…、じゃあ、逃げるなんて無駄だって分かるよね?さあ、殺りあいましょうよ!!」
狂気に彩られたその魔族から、カルマは一方的に戦闘開始を言い渡されるのだった。
いつもご覧になって頂いている方々、本当に有難うございます。
日々、評価やブックマークが増えていき、皆様に応援されているようでとっても励みになっています。
是非よろしくお願いします。
次回も楽しみつつ書かせて頂きますので、一緒にお楽しみ頂ければと思います。




