勝利の後に。(原点回帰)
ケルベロスを倒して地獄の塔を抜け出したユート達。
ふと思い耽って思い出すのはあの日々の事だった。
【魔獣王ケルベロス】との激戦を終えて、"ポータルゲート"を使って【地獄の塔】から外に出てきた。
カミオ達はここまではお金を払って馬車で来たらしく、帰りは歩きだと言うのでショウタ達の馬に一緒に乗るようにさせた。
「あれだけあった素材やお金とか宝石とか何処にいったんですか?」
「ん?お前達は、ストレージ無いのか?」
「なんですかそれ?マジックアイテムかなんかですか?」
ライ達にはツッコまれなかったので気がついていなかったが、(ゲンブがいたので気にならなかったかも。)どうやらストレージ持っているのはLBO出身者や、ディナア達のような高位種族だけらしい。
ちなみに、手のひらに浮かび上がるステータス紋は、冒険者になった時に刻まれて使えるようになると言う事だった。
今まで気がついていなかったんですか?!と逆に驚かれた。
なるほど、そういう事だったのか。
俺は、まだまだこの世界の常識が分かってないようだ。
彼らの取り分は、巨大なリュックにパンパンになるまで詰めてある。
そのまま、背負ってると移動が遅くなるのでニケの両足に括り付けて運ぶ事にした。
帰りの途中、馬の群れがいたので『扇動者』スキルでおびき寄せてから『動物調教』スキルで人数分捕まえた。
これで来る時と同じくらいで帰れるだろう。
「いやー、テイマーさんがいると現地で調達出来て便利ですね」
「それが『調教師』本来の役割だからな。馬ならいくらでも捕まえれるぞ?」
馬は低スキルの時代から何度も捕まえているので慣れたもんだ。
蘇生術を覚えるまで何度も魔物に殺されてしまい、その度に凹んでたのが懐かしくもある。
まぁ、蘇生術を覚えた頃にカルマに出会っているので、それ以来は馬には乗っていないのだけどね。
それまでは、お気に入りの子達が死なないようにする為に、時には自分を盾にしてくらい大事にしてきたのだ。
おかげで戦闘スキルが上がり、今では最前線で戦えるほどのスキルを得たのだから、何でもやってみるもんだなと感慨に耽ってた。
「ユートさんは、何故テイマーになったんです?それだけ戦闘センスあるなら、戦士や騎士になっても良かった気がしますが」
カミオが馬に乗って並走しながら聞いてきた。
この世界の住人からすると、『調教師』になるのは引退した戦士か、力の弱い自力で戦う力を持たない者達くらいなのだという。
高位の魔獣を扱うような『調教師』は調教する過程で強さがいるために、それなりに戦闘も出来るものもいるが、自分が強ければ仲間ペットに頼る必要がないのでテイマーに転向する人は少数で、最初からテイマー目指すものは物好きしかいないらしい。
まさに俺はその物好きにあたるんだが…。
「いやぁー、好きなんだよ。動物がね。可愛いし、もふもふ出来るから癒やされるだろ?こんな風に触れ合えるのは『調教師』だけなんだぞ?」
そういいながら、ニケをもぎゅうっと抱きしめてからふもふする。
う~ん、相変わらず気持ちいいな。
「!!おじ様、今度私も乗せて欲しいわ!」
「あ、レーナちゃんズルい!私も〜!」
やはり、ニケは子供達に人気だ。
『ふふ、この手触りの良い羽毛だけはカルマにも負けません!』
とニケも嬉しそうに自慢の羽毛を靡かせいた。
勝つところ、そこだけでいいのか?
「なるほど。好きだからこそ、そこまで突き詰めれるんですね。自分達は生きるのに精一杯で、そういう気持ちすっかり忘れてましたよ」
「そうだねー、憧れて冒険者なった筈なのに、いつの間にか単なる仕事になってたよね」
カミオの言葉に、レオナも頷きながらそう言った。
まぁ、一般の冒険者なんてみな同じようなものだろう。
普通の仕事よりも稼げはするが、危険が多い仕事だ。
決して割に合うとは言い難い。
「お前たちも、もっと鍛えれば余裕を持つことが出来るだろうさ。せっかく知り合ったんだ、うちの智慧者を紹介してやるから、今後のことを相談したらどうだ?」
うちの智慧者とは、ライの事である。
彼は元々頭が良く、最近は商売を始めるための準備などもやってもらっている。
親がサニアの警備長というのもあり、町の情報はかなり把握してたりするので何気に優秀だ。
いっそ冒険者辞めて商人に転向したらどうだと言ったら、ユートさんと組むなら悪く無いですねと言っていたので割と本気のようだ。
若いわりにしっかり先を見据えている感があり、有能と言えるだろう。
「本当ですか!?それはともて有り難いです。是非とも宜しくお願いします!」
「流石は、英雄様は心が広いだねぇ」
「ああ、こんな人に会えて俺らにも運が向いてきたかもな」
カミオと俺のやり取りを聞いていたバーナーとデュークも嬉しそうにそんな話をしている。
「レオナ…、私ね、今回の事でかなり身に沁みたわ。私は向いている気がしない」
「ミリンダ…、そんな事言わないで。今の私達は、まだ未熟だけどこれから頑張っていけば…!」
「でも、今度こそ本当に死んでしまうかも知れないわ。ユート様が紹介していただける方と話をして、色々考えさせて欲しいの。私ね、二度と皆が死んでいく姿なんか見たくないよ」
「ミリンダ…」
ミリンダという少女は、今回一度死んだ事で心が折れた様だ。
仲間の亡骸に囲まれて、自分も魔獣達にかみ殺されてしまったのだ。
普通ならかなりのトラウマになるだろう。
まぁ、無理して冒険者やるのはお勧めしない。
それに、特別美人と言うわけじゃないが愛嬌がある顔をしているので、売り子でもやればコアなファンが付いてきそうだ。
なので冒険者引退するなら、うちで雇うのもアリだと思う。
よし、あとでライに言っておこう。
商売するのには物も必要だが、人材も集めないといけない。
特に人員は信頼おける相手じゃないとトラブルの元になるからな。
慎重に選んでいかないと売り上げ持ち逃げなど良くある話らしいのだ。
───
塔とサニアの中間地点に差し掛かった頃、馬を休ませる為に休憩を取った。
いつも通り、水と軽い食事と用意する。
今日は、宿に用意してもらった高級ベーコンと高級パンのサンドイッチだ。
高いお金を払っているだけあって、冷めても美味しかった。
あまり食べたことが無い事もあり、試しにヘルキャットの肉のスープを作ってみた。
ちょっと筋張っているが…うん、味は悪くはないな。
塩強めで、香料と乾燥野菜を入れれば美味しいスープになった。
せっかくなので、全員に配る。
「俺らも貰って宜しいのですか?」
「おう、いいぞ。若いんだから沢山食べるだろ?遠慮するな!」
はははと笑いながらリン達に食事を配ってもらい、俺は馬達に餌を与えていく。
人参や飼葉なんて持ってきて無いので、果物や野菜を与えた。
首を撫でながら食べさせてやるとブルルルッと震えてから懐いてきた。
こうやって触れ合ってるだけでも癒やされるのだから、動物というのは不思議なもんだ。
若いころにやっていたゲームでも、『調教師』という職業があったので、初めてLBOのログインした日には馬を探して手懐けていた。
その日のうちに、狼に追い掛け回されて馬をやられてしまい、本気で怒ったものだ。
スキルも育ってないのに、弓矢で採算度外視して狼を追い掛け回したんだよなぁ。
その日から、全財産をすべてスキルあげに注ぎ込んでいたから毎日ボロボロな装備を纏ってあっちこっちに行ってた。
現実世界と変わらないから、そういう恰好をしているとあのおっさんダサいなとか平気で言われていたよ。
でも、初めてドラゴンを捕まえた日や、ナイトメアに乗って帰って来た時のプレイヤー達からの羨望の眼差しは最高に心地よかった。
自分よりも、仲間ペットを褒められた方が嬉しいんだよね。
きっと、現実でペットを飼っている人たちもそんな気持ちなんだろうなと考えていたこともあったな。
まぁそれに味を占めて、色んなレア動物やら魔獣やらを集めに集めて回って付いたあだ名が奇人テイマーユートだったのはなんの皮肉なんだろうか。
あ、ちょっと目から汗が。
「パパ?何か悲しい事あったの?いい子いい子~」
みんなにご飯を配り終えたリンが、俺に声を掛けに来てくれたようだ。
まるで幼児が親の真似して慰めるかのように、俺を慰めるリン。
ふふっと笑みが零れてしまい、笑われた!と危うくリンの機嫌を損ねかけたが肩車してみんなの所に戻ったら機嫌が直っていた。
「そうやっていると、本当の親子みたいね」
とセツナにも言われる。
「え、違うんですか?その割に本当に仲がよろしいんですね」
「ははは、血は繋がっていないが、俺は本当の家族だと思っているよ」
「そうなんですかー、ユートさんはやっぱり優しいお方なんですね。皆さんの雰囲気みているだけで、どういう人なのか分かりますよ」
レオナはそんな風に言いながら、いいなぁと言っている。
「なんだ、レオナは親と仲が悪いのか?」
「え?えーと、私は…私達は全員孤児なんです」
「え!そうだったのか。…そりゃすまんな」
「いえ、気にしないでください。私達が生まれたころは丁度魔王との戦争が激化していた頃ですから、同世代の孤児は結構いますので」
そうなると、魔王軍の陣地と隣接しているのは王国の軍隊になる。
この子達の親も、軍属か何かだったのだろうな。
「そうすると、王都の教会にいたのか?」
「ええその通りです。ですが、こちらの教会でも人出不足になったとかで私含め一部の孤児がサニアに移動してきたんです」
「なるほどなぁ。じゃあ、こっちで仲良くなってみんなで冒険者なったわけか」
「はい、そうなんです」
「それで1年前に冒険者になれる歳になって、やっとここまで来たんですが…」
「1年でここまでこれたなら、順調なんじゃないか?」
ライの話だと、もっと掛かるのが普通だと言ってた。
たった一年やそこらでここまで来れるなら、意外と才能あるんじゃないかな。
「まぁ、無理してやることも無いし、死なない程度に頑張っていこうな」
「はい、ありがとうございます」
俺も食事を済ますと休憩が終わりになり、すぐに出立となった。
そこからの帰り道は、町に近いこともありフィールドモンスターとも出くわすことは無かった。
町に戻ってこれたのは、既に夜。
ギルドは辛うじてやっていたので、クエスト報告と素材の買取をしてもらってカミオ達とは一旦別れた。
一旦着替えてから、酒場で落ち合う事にしたのだ。
宿屋に戻ると、一斉に誰が一番にお風呂に入るかの議論になったが、この世界で久々に見たじゃんけんで勝ったレーナとダイキがそれぞれ最初に入る事になったようだ。
俺は、今日の事をギルドに報告することになったので書類を先に作成しておこうと最後でいいと伝えておいた。
カミオ達には俺らより先について暇を持て余さないように、2,3杯は飲めるだけのお金を渡しておいたので5人で先に飲んでいる事だろう。
かなり恐縮していたが、俺にしたらチップ程度のものだとカッコつけたら、流石英雄様です!尊敬します!!と言われてちょっと言い過ぎたなと反省する羽目になった。
「嘘でもないところが厄介な所よね」
とジト目でセツナに見られる始末である。
全員の風呂と着替えが終わったので酒場に向かった。
ギルドの職員に伝えておいたので(ミルバはもう帰宅していた)来ている筈なんだが…。
「あ、ユートさん!コッチですよ~!」
「あ、ユートさん先にやってまーす!」
ライとカミオが上の大きなテーブルがある席で飲んでいた。
他の4人もそこに揃っていた。
「お、ライ来ていたか。ちなみに二人もしかして知り合い?」
「そりゃあ、俺はこの町の生まれですから。冒険者になったのも同時期だし、いまも同じランクですからね。ライバル兼友人ってとこです」
「ユートさんが言ってたのはライだったんですね。なるほど、彼は昔から頭のキレるやつでしたからね」
二人が知り合いという事なら話は早い。
これからの”ユニオン”としての活動について話をした。
まずは、まだ足を踏み入れていない土地(この世界に来てから。)、というか南の大陸に視察も兼ねて向かう事を提案する。
あっちで手に入る素材を仕入れて新しいアイテムを作り出せば人々の興味を引けると思う。
面白い物を売っているとなれば娯楽が少ない人々の心を掴むことができるかもしれない。
「そういえば、レオナ達は何処に住んでいるんだ?」
「主に宿屋ですね。本当は家を借りたいのですが、支度金が足りなくて借りれないんです」
「いくらくらい掛かるもんなんだ?」
「えっと、契約金まで含めて金貨15枚ですね」
支度金、いわゆる敷金礼金前家賃仲介手数料ってやつだ。
日本円換算すると150万円くらいだな。
「へぇ、意外と掛かるんだなぁ」
「そうなんですよ!でも先程素材を換金したら金貨5枚も貰えたのであとちょっとなんです」
「ちなみに、全員で一緒に住むのか?」
「?はい、そのつもりですよ。今までもずっとそうでしたし」
「レオナいくつ?」
「え?えっと今年で17になりました」
んー、あかん!
絶対間違いが起こってトラブるやつや!
「リンさん。主様が変な顔してますよ」
「あー!あれは考えすぎの時の顔だね。でも、悪い事は起こんないと思うなぁ」
「なるほど、確かに…。リンは主様をよく見てますね」
「うん、だってパパの娘だもん!」
なんか、ニケ達が言ってた気がするが気のせいだろう。
それよりも…。
「カミオ!レオナ、家を借りるのを延期しないか?」
ライと話が盛り上がってたので、こちらに注意を引きつつカミオにも声を掛ける。
「あと2週間くらいで屋敷の修繕が終わる。そしたら住み込みで働かないか?」
俺はカミオ達を仲間に引き入れる為に勧誘をするのだった。
いつもご覧になって頂き、本当に有難うございます。
日々評価やブックマークが増えて、皆様に応援されていると感じることが出来ています。
執筆の励みになっています、本当に有難うございます!!
これからも、楽しく書いていきますので、
是非一緒に楽しんでいただければと思います。
次回は、土日投稿予定です。
よろしくお願いします。




