化物と生贄に幸せな結末を
「あ、あああああああああああああああああああああああああああ!」
オリフェ、オリフェ、オリフェ……!
オリフェが血を流して倒れている。
あの人間が、オリフェを笑って見下ろしている。
なにを、なにを、なにを、なにを……! あの、人間は! オリフェに何を!!!!
私の視界は真っ赤に染まって、脚が自由になっているのにも気付かずに、私は只々叫んでいた。
人化もあっという間に解けて、元の醜い大鴉の姿へと戻ってしまった。
無意識に魔力を引き出す。私の体中の、この場にある全ての、あらゆる魔力を、無理やり引き出して体中に漲らせた。
力が満ちてくるのと同時に、羽が逆だってくるのが判る。
ぶわっと逆だった羽に包まれた私の身体は、きっと一回りほど大きくなったように見えるに違いない。
オリフェを押さえていた人間や、オリフェを刺した人間、それを見ていただけの人間が、こちらを恐怖で彩られた表情で見つめていた。
「あああああああ……アアアアアアアアアアア、オリフェ、ワタシノ、オリフェエエエエエエ!!!」
私は、次から次へと涌いてくる怒りに身を任せた。
どろどろと、マグマのように吹き出してくるそれは、私の身を焦がして、私から正常な判断力を奪っていく。
愚かな人間。昔、魔女がそう言っていたことを思い出す。
なんてこと。なんてことだろう。人間が憎い、私の大切な大切なオリフェを奪った人間が、憎い!!!!
私は魔力を練り上げて、それを目の前の人間たちにぶつけようとした。
すると、何か魔力の中に異物が混じったような感覚がして――私の魔法が掻き消された。
「は、はははは……。流石、化物。凄い迫力だわ。……でも、これで終わり。さあ、黒羽の魔女。私の下僕になりなさい!」
オリフェを刺した人間がそう言うと、何かが私に纏わりついた。
それが体に触れると、酷く不愉快な気持ちになる。
帯状に編まれた、その人間の放った呪術は、私を縛り上げ、私の思考を奪っていった。
何か硬いもので、脳の中をかき混ぜられるような、酷い感覚が私を襲う。
その余りにも不快で、苦痛で、恐ろしい感覚に、私は悲鳴を上げた。
「ア、アアアアアアアアアアア……!」
「さあ、おとなしくして? 私にすべて任せるのよ。……思考を私に譲りなさい。そうしたら、何も考えなくて済むわ。……そのうち、生贄のことなんて、忘れてしまうわよ」
「イヤ! ……イヤ、アアアアアアアアア……!」
「さあ! 黒羽の魔女……! 私に屈しなさい!」
そして、一際、不快な感覚がしたと、思った瞬間。
――ぶつん、と何かが焼ききれたような音がした。
私は何も考えることができなくなり――悲鳴を上げるのもやめた。
目の前に人間が居る。そこには、倒れている人間も居た。
……私に判るのは、ただそれだけだった。
「あ、あははははは! 成功したわ! これで、黒羽の魔女が溜め込んだ魔力を魔法陣に――」
「……なんだ!?」
人間が、何やら叫んでいる。
けれども、その時の私にとって、そんなのどうでも良かった。
……ああ、お腹が空いた。
耐え難い飢餓感が私を襲う。
ぐう、とお腹まで鳴ったじゃないか。
食べなきゃ、なにか、食べなきゃ……
お腹が空いた、お腹が空いた、お腹が空いた、お腹が空いた――……。
そのとき、私の鼻を、食欲をそそるとてもいい匂いがくすぐった。
……この匂いは、どこからしているのだろう。
そう思って、私は辺りを見回した。
すると、人間たちの足下に、美味しそうなご馳走が転がっているではないか。
私は、じゅるり、と唾を飲み込むと、どん、と地面を力強く蹴って、一気にそれへと近づいた。
すると、ご馳走の側に居た人間の顔が、私を見上げて引きつっているのが見えた。
……お前も、後で食べてあげるから。待っていてね。
そういう気持ちを込めて、ニィ、と瞳を細めて見てやった。
すると、その人間……獲物は腰が抜けたのか地面に座り込んでしまった。
……逃げないなら、なんでもいいわ。
私はそうおもって、取り敢えずは転がっているご馳走を食べることにした。
体の中を駆け巡っている飢餓感が、私を早く早くと急かす。
私は、それを嘴で持ち上げると、ぽいっと空中へ投げて――ばくり、と丸呑みした。
……まだ、足りないなあ。
まだまだ私の身体は食事を欲している。
だから、すぐ側で座り込んでいる獲物の方へと身体を向けた。
「あ、ああ……! ど、どうして。私の術が効かないッ……!? やめて、ああ……どういうこと……計画が。そんな、食べないで……」
その獲物は何か喚いていたけれども、私はそんなのはどうでも良かった。
最後には私のお腹の中に収まるのだ。獲物のことなんて、気にする必要もない。
さっきは気が急いていたからか、味わいもせずに丸呑みしてしまった。
今度は、じっくりと味わうことにしよう。
そう思って、その獲物の頭の部分を嘴で挟んだ瞬間――……私の目から、涙が零れ始めた。
「ウ……?」
私が戸惑っている間も、それとは関係なく、ぽろり、ぽろぽろととめどなく涙は零れ続けている。
思わず私は、獲物から嘴を離してしまった。
身体の奥が、むずむずする。ぶわっと、自分の意志に関係なく羽が逆立った。
そして、頭に一気に誰かの知識が、記憶がなだれ込んできた。
「アアアアア……」
昏い夕暮れ時の部屋。小さな手足。ずっと見ている、薄汚れた扉。
去っていく人間。追いすがる小さな手は、無情にも振り払われた。
下卑た笑みを浮かべながら、乱暴を働いてくる見知らぬ人間。痛みが体中に走るけれども、頭の隅でなにかを期待している。……けれども、直ぐに心は絶望に染まった。そんな日々。
それから、知らない人間が迎えに来て――黒い、何かの側で歌い続けていて――ある日、紅い三つ目の化物に出会った。
『……エリザ』
何処かで聞いたことのある、少年の声が私の頭のなかに響いた。
記憶の中の誰かは、三つ目の化物である銀髪の少女と出会った後は、毎日が楽しくて楽しくて――……。
ふたりは、笑って、喜んで、泣いて、互いに身を寄せ合った。
『エリザ!』
『オリフェ!』
少年の呼びかけに、満面の笑みで振り返る少女が、堪らなく愛おしい。
そんな、少年の温かな気持ちが、私の中に流れ込んできた。
ぼろ、ぼろと私の目から零れる涙が更に増えていく。
ああ、この記憶は。
この、温かい記憶は――……。
「もう。困った子ね」
そのとき、誰かが私をそっと抱きしめてくれた。
「大切な人を食べちゃあ、駄目じゃない。お前は、こういうところが抜けているのよ」
「……魔女」
ふと、視線を遣ると、私を魔女が抱きしめてくれていた。
ベールはしておらず、綺麗な黒髪が露わになっていた。美しい顔には印象的な真っ赤な唇。そして、いつもの黒いドレス。
そして、見たこともないような優しげな表情をしている魔女は、何故か半透明だった。
魔女はその黒い瞳を、うっすらと細めて笑った。
「……私が、助けてあげる。――ほら。わかるでしょう? お前を蝕んでいた、拙い魔法は解けた」
魔女がどこからか取り出した黒いケープで私の視界を覆うと、私の身体の至る所で感じていた不快感が消えた。
そして、みるみるうちに思考がはっきりとしてきて、私は自分の仕出かしたことに気づいた。
「あ、あああああ……! 魔女、どうしよう。王子様を食べちゃった……!」
「大丈夫よ。落ち着きなさい。ああ、もう、涙でびしょびしょじゃない」
魔女はそういうと、ケープの端っこで私の涙を乱暴に拭った。
そして、私の背中をぽん、ぽんと叩くと、優しげに笑った。
「さあ。お腹の中の魔力を意識して。王子様の魔力よ。感じるでしょう? そして、帰ってきて欲しい、そう願って、王子様を形作るの。そして、お前が王子様を生みだすのよ。
お前なら出来るわ。食べたものを、改めて形作るのはお前の得意とするところでしょう?
都合のいいことに、ここには、たくさん魔力があるわ。お前が溜め込んだものよ。遠慮なく使ってしまいなさい。ついでに、周りの魔力まで全部よ。それほどの仕打ちを受けたのだから、当然の対価だわ」
「で、できるかしら……」
「出来るわ。お前は頑張りやさんだもの。大丈夫、自信を持って」
そういって、魔女は私に黒いケープを押し付けると、にっこり笑って掻き消えた。
「可愛い、可愛い、私の化物。大丈夫よ……」
最後に魔女が言った言葉が、空に溶けて消えていった。
――魔女。
私は、久しぶりに会った魔女の言葉に、胸が温かくなるのを感じながら、改めて人化した。
そして、魔女から貰ったケープを羽織った。
……オリフェ。
陽だまりみたいな温かい気持ちをくれるオリフェには、狭っ苦しい塔の中よりは太陽の下が相応しい。
私の足元でぶるぶる震えながら、色々と垂れ流しにして怯えている人間から離れ、魔法で塔の上部を破壊する。
――ドオオオオオン!
ものすごい破壊音がしたと思うと、沢山の瓦礫が落ちてきた。
その場にいた人間たちは、慌てて塔の壁際まで退避していた。
そんな人間たちを横目で見ながら、私は塔の崩壊が落ち着くまで待つと、青空が見えているのを確認して、その場から空高く舞い上がった。
魔法で風を纏って、高く高く、上空を目指して飛んでいく。
びゅおおおおおう、と耳元で風が唸っている。
そして、ある程度の高度まで上がると――私は空中に止まって、足を折りたたみ、自分のお腹を抱きかかえて丸くなった。そして、身体の奥にいるオリフェの魔力を意識した。
――温かい、優しい彼の魔力はすぐにわかった。
私は体の中と、塔に残してきた魔力を引き出すと、オリフェの魔力を優しく包み込んだ。
そして、私の中の記憶のオリフェ。オリフェから受け継いだ、オリフェ自身の記憶と知識でもって、彼を形作っていく。
やがて、引き出した魔力は大きな繭のようになって、私を取り囲んだ。魔力の内部は、まるで揺りかごのように、ふんわりと私の身体を支えてくれた。
「いいこ。オリフェ……いいこね……」
お腹をゆっくりと擦る。
オリフェは私のなかで泣いていた。
――悲しい、寂しい、愛してほしい。
そんな、オリフェの気持ちが伝わってくる。
「大丈夫よ。大丈夫……私がいる。オリフェ、私がいるわ」
そういって、オリフェに語りかけ続けた。
やがて、オリフェの新しい魂の雛形が出来上がってきた。
でも、その時点で私は気づいた。
――ああ、魔力が。足りない――……。
だから私は魔女が言ったとおり、私を取り巻く周囲の、あらゆるものから魔力を掻き集め始めた。
それは、大気であったり、植物であったり、大地であったり、海であったり。そして、生き物であったりした。
私に魔力を吸い取られ、魔力が枯渇してしまったものは、砂となって風に流れて消えていく。
終いには、無機物からも魔力を掻き集めたから、大きな王城や街は所々が崩れ始めていた。
気がつけば、足元に見える大地には、広大な砂漠が広がっていた。
それをちらり、と確認をした私は、自分の魔力をも限界まで使った影響で、急激な眠気に襲われた。
――眠っては……だめ……。
そう思うけれども、瞼が自然と降りてくる。
私は、形作られ始めたオリフェの魂をぎゅう、と強く抱きしめると、耐えきれずに目を閉じた。
どくん、どくんと脈打っている、愛しい人の魂の温もりを感じながら、眠りに落ちた。
**********
『エリザ……エリザ……』
……――誰かが私を呼ぶ声がする。
起きなきゃ、早く、さあ――!
私はその声に導かれるように、体中を蝕む眠気を振り払って、ゆっくりと瞼を開けていった。
私が目覚めた時、目の前にあったのは――……
「……やあ。やっと起きたんだね。お寝坊な魔女さん」
――愛しい、私の王子様の笑顔だった。
「う、あああああああん!」
「おっと」
私は、その顔を見た瞬間、堪らずにオリフェに抱きついた。
ぎゅう、と強く抱きしめると、柔らかい生身の感触がする。
「……エリザ」
「オリフェ、オリフェ、オリフェ……! 戻ってきてくれた。私のところに」
「うん」
「もう、無茶はしないで。私のために、命を投げ出すなんて」
「……うん」
「オリフェが、いなくなってしまったと思ったら、私、私……ッ!」
「ごめんよ、エリザ」
いくら抱きしめても足りない。
両手でオリフェの存在を確かめるようにまさぐった。オリフェの匂いがして、オリフェの体温が感じられた。
オリフェの碧い瞳を見る。その綺麗な碧色をもっと見たくて、私はオリフェの額に自分の額をくっつけた。
オリフェの碧眼が、私の目の前にある。太陽の下に煌めく海のようなその碧色が、私を見てくれている。それが、堪らなく嬉しい。
オリフェも、私の頬に手を添えて、感触を確かめるように撫でた。
温かな手が、私を撫でるたびに、その手から愛しいという気持ちが伝わってくる気がする。
オリフェは優しく、何度も何度も私を撫でた。私はくすぐったくて、笑ってしまった。その間、二人の視線はずっと合ったままだ。
「ねえ、エリザ」
「なあに」
「どうやら、僕はとても君に近しいものになったらしい」
オリフェはそう言うと、私に背中を見せた。
すると――そこには、忌々しい黒い羽が生えた翼があった。
それを見た瞬間、私は青ざめてしまった。
――……ああ、なんてこと!
「ご、ごめんなさい……!」
「どうして謝るんだい?」
オリフェは不思議そうな顔をして、私の涙を指で拭ってくれた。
私は顔を振ると、オリフェを手で押して、少し距離をとった。
「貴方まで、化物にしてしまった。醜い化物に。ああ、やっぱり私なんかじゃあ、駄目だったんだわ。……本当に、ごめんなさい。なんといったらいいか」
「なんだ。そんなことか」
私が一生懸命謝っているのに、耳に聞こえた脳天気な声に、私は思わず驚いてオリフェの顔を見つめてしまった。
オリフェはその碧色の瞳を、いたずらっぽく細めて、私を改めてぎゅう、と抱きしめてきた。
「言っただろう? これからも、ずっと一緒だって。
……ねえ、僕の帰る場所になってくれるんだろう?なら、僕も君の帰る場所になりたい。……それには、人間の身体じゃあ足りなさそうだしね、丁度いいくらいさ。僕と一緒にいるのは嫌かい?」
「でも、私は化物で」
「僕だって、化物さ」
「それは、わたしのせいで……」
「エリザは馬鹿だなあ。……構わないって、言っているだろう?」
ああ、きっと私の顔は今、真っ赤に違いない。
頬が熱い。何よりも、胸の奥が温かくて――……また、泣きそうだ。
オリフェは私の潤み始めた瞳に、そっと唇を落とした。
そして、私への愛おしさが溢れているのが見て取れるほど、緩みきった顔で私を見つめた。
「……いいね?」
そのオリフェの表情を見た瞬間、私の心臓が、心が、全てが――オリフェへの愛おしさで震えてしまって、私は黙って頷くことしかできなかった。
オリフェは私が頷いたのをみると、嬉しそうに、それはそれは嬉しそうに、顔を赤らめてぎゅうぎゅうと痛いほどに抱きしめてきた。
「嬉しい。……これでずっと、僕たちは一緒だ!」
そして、そういうと私の唇に思い切り自分の唇を重ねてきた。
ガツン、と歯が当たって痛かったけれど、オリフェは夢中で私へ口づけをした。
私は驚きのあまり、初めは目を開けたままだったけれど……瞼を閉じてオリフェの口づけを受け入れた。
口づけが終わり、そっと目を開けると、オリフェがこんなことを言い出した。
「知っているかい? 鴉は番を見つけたら、生涯寄り添うそうだよ」
「……そうなのね。素敵。……私達も、そうなれるかしら」
「そうなるように、僕がするさ」
「……うん。嬉しい……!」
「エリザ、好きだよ」
「私もよ、オリフェ……」
そう言って、今度は優しく、お互いの唇を触れ合わせた。
そうしているうちに、辺りは夕闇に包まれていた。
足元に広大に広がる砂漠に、真っ赤に燃えた太陽が沈んでいく。
辺りは茜色に染まり、影は長く、長く伸びていた。
もう、昏い夕闇は怖くないでしょう? 私がオリフェにそう聞くと、オリフェは君と一緒ならね、とはにかんで笑った。
――そして、ふたり、黒い翼を大きく羽ばたかせて、夕日の向こうを目指して飛んだ。
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――後世の歴史書には、その国は一夜にして、滅びたとある。
嘗て魔法大国として知られていたその国は、禁術を使って大地を魔力で富ませた。
けれども、不自然な方法で行われていたそれは、ある日を境に崩壊し、魔力で満ち溢れていた大地は、魔力枯渇に喘ぐような状況となった。
かの国の王族は、反乱軍に追い詰められた末に、城に封印された「黒羽の魔女」に生贄を捧げることによって、禁術をまた行おうとした。
その裏には、黒羽の魔女とは別の、邪悪な魔女の暗躍が在ったと言われている。
しかし、それは失敗した。
失敗の原因は様々な説がある。
単純に禁術の発動に失敗したから、邪悪な魔女の妨害にあった、黒羽の魔女からのしっぺ返しを食らった――等、様々な説があり、真相は明らかでない。
けれども確かなのは、一夜にして国中の魔力が完全に枯渇し、砂漠化して、人が住めるような土地でなくなったということだ。
そこに、なにがしかの魔力的干渉があったのは明らかだろう。
因みに、当時の王は、国土が砂漠化したその日に姿を消している。当時の反乱軍の一兵士の手記からは、砂になって崩れ去ったという記述が見つかっているが、それはその反乱軍兵士の創作であろうと言われていて、信憑性について疑問視されている。
先述した、邪悪な魔女と呼ばれた女――生まれ、氏名等一切不明――は、後日反乱軍によって、公開処刑をされている。
その魔女が磔にされて、火あぶりにされている姿を描いた絵画は、とある教会に今もなお残っている。
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貴方は、世界各国で今も語り継がれている、ある伝説をご存知だろうか。
かの国が、砂漠と化して滅んだのと同じ時代。周辺国で、不可思議な噂話が広まった。
それは、大きな紅い目をした鴉と、碧い目をした鴉が夕暮れ時になると空を飛び回る、というものだ。
それだけであれば、不思議な目の色をした鴉もいたものだ、ということで終わるのであるが、その鴉たちが現れた後、必ずといって近くの街に、不思議な薬を売る美しい少女と、見事な歌声を持つ美しい少年が現れるのだ。
――少女の薬は、盲目の老人や、不治の病をも治したという。
――少年の歌声は、心を閉ざした人を癒やし、誰もが幸せな気分になれる、幸運を運ぶ歌だという。
彼らの目撃情報は、大陸中、其処此処に散らばっていて、特に特定の場所ばかり現れると言うわけではないようだった。
それは数百年たった今もなお続いており、この鴉と少年少女が現れるのを、幸運を運ぶ吉兆として、人々は密かに心待ちにしている。
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――今日も、星が煌めく広い空を二羽の鴉が飛んで行く。
きらりと紅い目と碧い目を輝かせて、二羽寄り添って飛ぶその番の鴉は、新しい国を目指し、気ままに世界を旅している。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は、「世界に向かってもふもふ愛を叫ぶ」企画の参加作品です。
素晴らしい企画をたてていただいた、主催の向日葵様に感謝を。