虹色の灯〈4〉
「アルマを頼むぞ」
徐行する列車の車内での乗降口で、タッカは、タクトの肩に手を乗せながら、そう、言った。
「はい」と、タクトは頷き、車窓の側で想いに更ける形相のアルマへ視線を向ける。
アルマに対する淡い感情、これで終わり。
――僕、ちゃんと、笑ってバースさんと会う。あなたも、だよ。振り向かないで、まっすぐと、バースさんを見てよ。
一度、アルマと目が合う。
「タクト」
頬が薄紅に染まる。そして、吐息。
タクト、首を横に振り
「行きましょう、バースさんのもとに!」
思考を踏ん張らせ、言葉にする。
揺れてしまう。
終わりにしたいのに、あの、眼差しで見つめられると、手を伸ばしたくなる。
唇の感触、肌の温もり、どんなに拭っても、拭え切れない。
僕、あなたが愛おしい。
男。其処までに追い付いていない自分を、束の間とはいえ、受け止めてくれた。
バースの姿、浮かべ、更にアルマを空想する。
重ね合う、口づけをかわす。そして、結ばれる。
文句無し。
停車。
乗降口が開いて、先に、タクトは着地する。
「足元、砂利だらけですから、気をつけてください」
アルマ、微笑。
何処で、そんなことを覚えた?
タクトが差し出す右手を握りしめ、舞い降りる天女の如く、列車から、軽やかに。それは、アルマ。
夜の帳、漆黒の闇 。
耳を澄まして、虫の声。
満天の星を仰ぎ、夜風を頬に注ぎ入れる。
うっすらと、視線の先の、背の高さを越える草原。
目視。
「誰も、いませんね?」
「虚言か?」
アルマの声、重圧感を含ませる。
「バースさんを疑ったら、駄目ですよ」
「奴になりすました《敵》の罠の可能性だってある!念には念を、だ」
相変わらず、厳しい。
“闘いの力”を解除しろ――。
了解!
左手首に巻き付ける装置に指先を押し込み、痺れを覚え、その、感覚を口にする。
「声がでかい!」
「これ、使うの初めてです。まさか、こんな衝撃が来るなんて、思わなかったから――」
――そのうち、馴れる。
冷静沈着のアルマ、暗闇の奥を凝視する。
がさり、と、草を掻き分ける音。双方、その方向へと、目視する。
「援護する。やってみろ!」
了解!
タクトは、地面を蹴り、空をめがけ、飛び上がる。
静止して、左旋回。そして、右の拳をくり出しながら、その方向へと移動する。
ごつりと、硬い感触。更に、左足を振り上げ、膝を曲げると、平行に脚を伸ばす。
身体が後方に反り、足首に指先が巻きつく感触。
そして、草葉散らして、身体背中より、落下する。
「防御をせずに突っ込むから、そんな、ヘマをしたんだ!」
アルマが駆け寄り、タクトの腕を掴み、上半身を起こし上げる。
頭髪掻き分け、懐中電灯を照らす。
「だ、そうです。バースさん」
光、注がれ、浴びる。
髪、空に向け、形相朗らか。体格、鍛えぬいた曲線 、眼差しタクトと、アルマを交互にさせ、示す。
「よ!」
バース、ニヤリと歯を見せ、右手を掲げる。
タイマンさんは?
バースが差す指先を追い、その姿を確認すると、小型通信機を作動させる。
バースさんと、タイマンさん。無事に保護をしました―――。
通信を終えて、再び、バースと正面に向き合う。
――アルマ。
バースの手、アルマへとかざされる。
薄紅の光の粒、夜空に舞う。星と重なり、瞬き一層に深まる。
――もう少しで、待ちくたびれるところだった。
号泣し、バースの腕の中へ這い、指先ひたすら滑らせる。
アルマを包み、タクトに微笑のバース。
「猫が茂みに逃げちゃったから、お二人で捕まえてきてください」
―――サンキュー!
バース、アルマの涙、手の甲で拭い、手と手を絡ませる。
見つめるタクト。瞳を潤ませ、頬を濡らす。
「タクト!タイマンは何処だ」
背後から、タッカの声に身体が硬直する。
担架を持つザンル、空を仰ぐ。
「何かしら?あの光。綺麗だから、いいけれど!」
―――虹色の灯ですよ。僕達が行く先を照らす、大切な“光”です―――――。
その下で、お互いを確かめるかのように、重ね合う
アルマとバースが口づけを、かわしていた。