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 ――ドクンッ


 心臓が跳ねるような感覚で目を覚ます。

 悪い夢を見たわけではない。

 いまはスライムだから、心不全とかでもない。

 どうやらスキルのレベルが上がったようだ。なぜか本能で理解できる。

 さて、次はどんなモンスターに変身できるのだろうか。


"妖精さんおはよう。モンスター化のレベルが二になったよ"

 

 スライムの寝床は視界が悪い。

 体を平たくして茂みから這い出る。

 未明の森はいまだ夜の帳(とばり)に包まれていた。


『お、マジ?』

『マサル朝早(はえ)えな』

『ゴブリン倒せるモンスターだといいね』


 そうなんだよな、生活が懸かっている。

 さっそく試してみよう。


"――チェンジ!"


 昼間と比べればやや薄暗くは感じるものの、新しい体は夜目が利く。活動するには問題ない。

 人間より視野は広いけど、視力は弱め。 

 俺は四足歩行で歩いてみ……ん、四足歩行?


『次は猫か』

『おいおっさん、可愛いぞ!w』

『メインクーンっぽいな』

『耳おっきくてきゃわわ。サーバルキャットみもある』

『もふもふだぁ』


 この歳になって容姿を褒められるとはな。アイドルになった気分だ。

 右手を見てみると、ピンクの肉球がある。自分の手なのに、頬ずりしたくなるほど愛くるしい。

 にぎにぎすれば、シャキンと鈎(かぎ)状の爪が現れた。暗器を仕込んだ暗殺者のようでかっこいい。

 緑色の毛皮に、黒の斑点模様。この森では保護色になりそうだ。


"スライムよりはマシか?"


 素直な感想を述べたところ、口からニャアと可愛らしい声が漏れた。

 いまの俺が愛嬌(あいきょう)を振りまけば、女の子たちが放っておいてはくれないだろう。

 視点の高さから、中型犬程度の大きさがある。

 はたしてこの猫は強いのか。


"ちょっと走ってみよう"


 動かし方は不思議と理解していた。

 両足で地面を蹴り、体を伸ばして前へ飛ぶ。

 左手、右手の順でタタンと着地。全身の筋肉を連動させながら、前足に後ろ足を強く引き付ける。

 再び後ろ足の筋肉を爆発させて、体を前に押す。

 柔軟な背骨が圧縮と伸展を繰り返すことで、大きなスライドを生み出している。

 まるで全身がバネになったみたい。どんどん加速していく。


"は、速(はえ)ええええぇ!"


 風を切る感覚がヒゲから伝わってくる。

 視点が低いこともあり、体感スピードがすごい。

 それに、足音がほとんどしない。

 

"お次はジャンプ!"


 ウニャンと叫び、大木に飛びつく。

 爪を出して四本足でしがみつき、うんしょこらしょと登っていく。


"すごいぞ、自由自在だ!"


 ビルの二階くらいの高さまで来たところで飛び降りる。

 しなやかな体は衝撃の一切を吸収し、音もなく着地した。


『猫のお散歩動画見てるみたい』

『チーターくらい加速してたぞ!』

『いやー、でもどうなんだ? 身体能力は高そうだけど、戦えるかは微妙じゃね?』

『太い血管狙えばワンチャン』


 俺もそう思う。ちょっと頼りないよなぁ。

 木なんて切り裂いてしまうのではと期待していた鋭い爪も、そこまで攻撃力がない。

 野良猫よりは力がありそうだけど、人間を相手に引っ掻いたとしても、浅い裂傷を与えて終わりだろう。

 さらに、走った感じ結構疲れる。瞬発力はあるが、持久力はなさそうだ。

 でも、楽しい。

 森の空気を肺一杯に吸い込みながら、夜を駆ける感覚。首都高の走り屋や、皇居ランナーも同じような気持ちなのかもしれない。


"……おや?"


 食べ物の匂いがした。

 正体は分からない。だが、美味しそうな何かが近くにいると、本能が騒ぐ。

 運動をしたせいか、小腹が空いている。食事ができるなら、いまのうちに済ませておくのもありだな。

 足音を殺して近づいていく。

 まだ姿は見えないけれど、匂いは少しずつ濃度を増していく。

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