第4話 依頼を受ける殺し屋
「ヴァン。待ってたぞ。お前に依頼だ」
ギルドに顔を出すと、仲介人のリヒターが待ち構えていた。
リヒターから書類を受け取り、内容を確認。
「今回は商人か」
「表の顔は商人なんだが、こいつの裏の顔は人身売買、つまり人買いだ」
「人買いだと?」
「そうだが、どうした?」
「いや……。俺は詮索しない。ただ依頼通り殺すだけだ」
「ははは、さすがだな。ただ、ちょっと難易度が高いんだ」
リヒターが別の書類を差し出した。
ターゲットの詳細が記載されている。
「この屋敷は知っている。相当警備されているぞ。確か冒険者ギルドへ警護クエストを出していたはず」
「よく知ってるな」
「職業柄、冒険者ギルドのクエストは定期的に調べている」
「難易度は高いが、その分報酬は高いぞ。金貨七枚だ。どうだ? やるか?」
「七枚か。分かった。いいだろう」
「助かる。だがよ、不運だけには気をつけろよ。不運の殺し屋ヴァン」
――
乗合馬車に乗り、第六街区の住宅街にある商人の自宅へ向かう。
「まずは偵察だ」
三階建ての豪邸の前に来た。
外壁は石造りで、重厚な彫刻が施されている。
家の周囲は、人の身長の二倍はあろう外壁に囲まれており、門の前には守衛が二人。
さらにもう一人の大男が、守衛に何やら話しかけていた。
指示を出しているのだろう。
「あいつは……確か二級冒険者だったはず。警備がきついな。確か図書館にこの屋敷の間取り図があったはずだ」
俺は門の前を素通りした。
その足で第十三街区の繁華街へ戻り、一軒の酒場へ入る。
その地下はワイン倉庫を改装した広大な資料館で、図書館と呼ばれる暗殺者ギルドの施設だった。
「なんじゃ、ヴァンか」
受付に座る老人は資料館の館長で、元殺し屋だ。
「爺さん。屋敷の間取り図が欲しい」
「どこのじゃ?」
今回の目的である屋敷を伝える。
「ふむ、あそこは難易度が高い。大丈夫か?」
爺さんが棚から一枚の紙を取り出し、机に広げた。
俺はその間取り図を凝視。
「一階……。二階……。三階……。屋上もある。外壁は……。ふむ、分かったよ」
「もう覚えたのか?」
「ああ、家くらいならすぐ覚える」
「家と言っても豪邸じゃぞ?」
「城じゃなければ大丈夫さ」
「ふぉふぉふぉ、お主の才能は凄まじいのう」
「殺しの才能なんて……いらんよ」
「まあそう言うな。お主は暗殺者ギルドで唯一の特級なんじゃから」
爺さんがコーヒーを淹れた。
この爺さんも味覚はなく、おぞましい拷問訓練を経験している。
古い暗殺者は全員そうだ。
俺は熱いコーヒーを一気に飲み干し、カップをテーブルに置いた。
「……爺さん」
「なんじゃ?」
「コーヒー美味かったよ」
「ふぉふぉふぉ、そうか! 美味かったか!」
爺さんが手を叩いて笑う。
「次回までにもっと味を極めておくぞ! ふぉふぉふぉ」
俺は図書館を出た。
◇◇◇
王都ロデリーの中心地、第一街区には国家を運営する主要機関が立ち並ぶ。
その内の一つ、国家情報庁の一室に、美しい金色の長髪をなびかせた少女と、マントを羽織り人の良い笑顔を浮かべる壮年男性の姿があった。
初夏にもかかわらず、窓を閉め切った室内。
だが、少女の髪は揺らいでいる。
「実際にヴァンを見て、いかがでしたか?」
「恐ろしいほどの実力ね。目の前であっという間に三人を殺したもの」
「暗殺者ギルドの最高傑作と呼ばれている殺し屋です。ギルドで唯一の特級で、歴代最高の実力を持っております」
「私も殺されそうになったもの」
「な、なんですと! あいつ、やり過ぎだ」
「でも、あの人じゃないと無理よ。全てにおいて、あの人を超える人材はいないわ」
二人の会話は国家情報庁で話す内容ではないが、外に漏れることは絶対にない。
「血の誓約の解除はいかがでしょうか?」
「恐らく解除はできると思う。だけどあの人、それ以上に呪術がかけられてるような気がするの」
「え? 呪術ですか?」
「そうね。私に解けるか分からないほどのものよ。だから、血の誓約の解除に全力を注ぐわ」
「かしこまりました。それではヴァンが現在受けている依頼についてお伝えします」
二人の会話は、どんなに大声を出しても外へ漏れない。
それは少女の魔術によるものだった。
◇◇◇




