第3話 運命を受け入れる殺し屋
暗殺者ギルドという組織がある。
ロデリック王国の地下深くで活動している非合法組織だ。
その存在を知る者は少なく、一般人が接触することは不可能に近い。
暗殺者ギルドには重い掟がある。
ギルドへ登録する際に行う『血の誓約』と呼ばれるものだ。
それはギルドに伝わる古の呪術だという。
血の誓約の内容は三つ。
口を割らない、裏切らない、ギルドを辞めない。
これを破ると誓約が発動し、心臓が停止する。
実は心臓というものは、止まってもすぐには死なない。
苦しみだけが残る。
その上、血の誓約の罰が加わり、地獄のような苦痛の末に死んでいく。
実際に過去何人も血の誓約で死んでいる。
その姿はもがき苦しみ、世にも恐ろしい形相だった。
暗殺者ギルドに身を置けば、血の誓約で一生抜けることができない。
抜ける時は死ぬ時だ。
だが、俺は死んでも良いと思っているし、死ねるものなら死にたい。
俺は親に捨てられている。
生まれてからずっと父親の恐ろしい暴力を受け、母親の執拗なまでの誹謗中傷に晒されて生きてきた。
肉体的にも精神的にも地獄の毎日。
それほど自分の子供が憎い存在であれば、なぜ殺さなかったのだろう。
殺された方がマシだった。
その地獄は六歳で終わる。
六歳で山に捨てられた。
実際に六歳だったか分からないが、親が発した最後の言葉で「このガキのせいで六年間……」だけは聞き取れたから六歳なのだろう。
誕生日なんて知る由もない。
捨てられた後は、山を彷徨い空腹と寒さで倒れたところを助けられた。
そこで偶然出会ったのは貴族だったなんて、物語のようにいくわけがない。
俺を拾ったのは人買いだ。
奴らはタダで人を拾ったと、大喜びしていた。
そこから新しい地獄が始まる。
劣悪な環境での集団生活。
だが、それもすぐに終わった。
暗殺者専門の育成機関が俺を購入。
拾った子供、誘拐した子供、買ってきた子供を暗殺者として育てる機関だ。
そこで厳しい訓練と、様々な知識を叩き込まれた。
食事は毒入りだ。
毒の成分、色、味など全てを身体で覚えさせられた。
行き過ぎた毒訓練のせいで、味覚なんてとうに失われている。
毒の味を覚えるために味覚が失われたなんて、笑い話にもならない。
生まれてから親に与えられた食事は、残飯や腐ったものだけ。
人買いの食事には、泥や汚物が混ざっていた。
育成機関では毒入りの食事。
俺は人生で一度もまともな食事をしたことがない。
今はこうして金を稼ぎ、好きなものを食べられるようになったが、味覚がないので何を食べても一緒だ。
美味いという感覚が分からない。
一度で良いから美味い食事を味わってみたかった。
もう二度と叶わない俺の夢だ。
育成機関の訓練は壮絶だった。
生まれてからずっと地獄だったが、本当の地獄は育成機関の拷問訓練だ。
それまでの地獄が生ぬるいと感じるほど。
体中に、おぞましい傷が刻まれる。
暗殺者には不要ということで、生殖器まで切られた。
しかも拷問訓練を兼ねているので、麻酔なんかあるわけがない。
この訓練は、十人中一人か二人が生き残ればいい方だった。
あまりに壮絶で死亡率が高すぎるため、今では生殖器の切断は廃止されている。
毎日が地獄で、死んだ方がマシだった。
実際、何度も死のうとしたが、運悪く必ず失敗する。
毒は効かないし、首吊りしてもロープが切れ、飛び降りると何かに引っかかる。
結局死ねず、バレて教官から恐ろしいほどの折檻が待っていた。
そのうち俺は死すら諦める。
そこから優秀な成績を収めるようになった。
だが、当然のように嫉妬され邪魔をされる。
酷いイジメ、裏切り、嘘や流言に足を引っ張られ、教官から折檻を受ける日々。
俺は本当に運というものがない。
特に人との出会いに関しては絶望的だ。
俺が出会った人間で、まともな奴なんていなかった。
人なんて最も関わりたくない。
そんな地獄も十八歳で終了。
育成機関の卒業と、暗殺者ギルドへの登録だ。
しかし、そこで血の誓約が行われ、暗殺者から足を洗うことができなくなった。
俺は一生この不運という呪いから逃れられない。
本当は死にたい。
だが不運ゆえに、俺の願望は受け入れられない。
「生きるしかない」
俺は運命を受け入れ、一生懸命真面目に生きていくことにした。
そう、殺し屋として。




