表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合営業のはずだった  作者: 星恋 hosiko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第4話 「炎上より怖かったもの」

第四話まで来てくださってありがとうございます。


 今回は、いわゆる「外側の現実」が二人の関係に入り込んでくる回です。


 これまでは配信やコメント欄という“安全な観測装置”の中で揺れていた二人でしたが、ここからは事務所、ファンの熱量、炎上リスクといった現実的な圧がかかり始めます。


 そして面白いのは、外側が厳しくなるほど、内側の感情はむしろ隠しきれなくなるという点です。


 距離を取ろうとするほど、近さが浮き彫りになる。

 守ろうとするほど、壊れやすさが見えてしまう。


 そんな状態の二人です。


 今回のキーワードは「抑制」と「漏れ」です。


 それでは第四話、どうぞ。

 『#レイミオ営業終了』


「……は?」


 私はコンビニで買ったカフェオレを落としかけた。


 朝七時。


 まだ頭も起きてない時間に、とんでもないタグが視界へ飛び込んでくる。


『最近ガチすぎて無理』

『営業ならキツい』

『逆に本気なら言えよ』

『距離感怖い』


 昨夜の切り抜きが原因だった。


 案件配信の最後。


 レイが私の頬に触れたシーン。


 あそこだけ、異様な勢いで拡散されていた。


「終わった……」


 私は壁にもたれながらスマホを見つめる。


 もちろん擁護も多い。


『むしろ最高』

『付き合え』

『もっとやれ』


 でも問題はそこじゃない。


 空気が変わってる。


 今までの“ネタとして楽しむ感じ”じゃない。


 本当に付き合ってるのか。

 本当に感情があるのか。


 みんな、探り始めてる。


 通知。


 マネージャーからだった。


『今日昼、事務所来れる?』


 嫌な予感しかしない。


     ◇


「最近ちょっと攻めすぎ」


 事務所の会議室。


 マネージャーは頭を抱えていた。


「いや、でも数字は……」


「伸びてる。めちゃくちゃ伸びてる」


 ですよね。


 登録者は一週間で十万人増えた。


 切り抜きは毎回急上昇。


 案件も増えた。


 普通なら成功。


 大成功。


 なのに。


「ファンの熱量が上がりすぎてるんだよ」


 マネージャーが真顔で言う。


「“営業”として見てる層と、“本気”だと思ってる層が混ざり始めてる」


「……」


「もし今後どっちかが男と噂出たら燃えるし、逆に本当に付き合ってても燃える」


 地獄じゃん。


「だから少し距離感を調整したい」


 その瞬間。


 隣にいたレイが静かに口を開いた。


「……減らせってことですか」


「少しね。接触とか、過激なやつ」


 空気が止まる。


 私は反射的にレイを見た。


 レイは無表情だった。


 何考えてるか分からない顔。


「まあでも二人なら大丈夫でしょ。仲良いし」


 マネージャーは軽く笑った。


 でも。


 私たちは返事ができなかった。


     ◇


 帰り道。


 レイと二人で並んで歩く。


 なのに妙に距離が遠い。


「……ごめん」


 先に口を開いたのは私だった。


「何が」


「私が変に意識してるせいで」


「ミオ」


「最近、空気おかしいじゃん」


 本当は分かってる。


 原因は多分、私たち自身だ。


 営業のはずなのに。

 線引きできなくなってる。


 だから周りにも伝わる。


「別にミオのせいじゃない」


 レイは前を向いたまま言った。


「でも、少し抑えた方がいいかもね」


 胸が痛くなる。


 それが正しい。


 正しいはずなのに。


「……そっか」


 うまく笑えなかった。


 その時。


 レイが急に立ち止まる。


「ミオ」


「なに」


「こっち向いて」


 言われるまま振り返る。


 次の瞬間。


 レイの手が、私のマフラーを整えた。


 それだけ。


 本当に、それだけだった。


 なのに。


「……今、外」


「知ってる」


「人いたらどうするの」


「別に」


 レイは少しだけ目を細める。


「もう我慢する方が難しいから」


 息が止まった。


「っ……」


「ミオが距離取るたび、結構きつい」


「え」


「でも仕事に影響出るなら、ちゃんと我慢する」


 その声は静かだった。


 冗談じゃない。


 配信の時みたいな軽さもない。


 だから余計に苦しい。


「……レイ」


「でもさ」


 レイが少し笑う。


 寂しそうに。


「炎上より怖いの、ミオに避けられることかも」


 その一言で。


 胸の奥に隠してた感情が、全部ばれた気がした。


 冬の空気は冷たいのに。


 顔だけが、どうしようもなく熱かった。

第四話を読んでくださってありがとうございました。


 今回はついに「営業」という言葉だけでは守りきれない領域に入ってきました。


 外側(事務所・炎上・ファンの熱量)と、内側(感情)の圧力が同時に強くなっていく回です。


 マネージャーの言う通り、状況だけ見れば“成功ルート”です。

 でも二人にとっては、その成功がそのまま「逃げ道の消失」になり始めています。


 レイはかなり分かりやすく限界が近くて、

 ミオはそれに気づきながらも自分の気持ちに名前をつけられない状態です。


 そして今回のポイントはここです。


「炎上より怖いのは、ミオに避けられること」


 これ、営業ではもう出てこない種類の言葉ですね。


 たぶんこの二人、もう後戻りはできるけど、戻る気はそんなにないです。


 では次回、距離はさらに少しだけ壊れていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ