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百合営業のはずだった  作者: 星恋 hosiko


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3/13

『本気じゃないよね?』第3話

第三話まで来てくださってありがとうございます。


 今回は、“営業”という言葉が少しだけ苦しくなる回です。


 最初は便利だったはずなんです。

 触れる理由にもなるし、照れを誤魔化す盾にもなるから。


 でも感情が本物に近づくほど、その言葉は逆に距離を作り始める。


 今回の二人は、かなりその状態です。


 特にミオは、「期待したら終わる」と思っているので、必死にブレーキを踏んでいます。

 なお、レイはアクセルを踏みながら同じことを考えています。危険。


 あと案件配信中にイチャつく配信者、たぶん運営に怒られます。


 少しずつ、冗談では済まなくなっていく二人を楽しんでいただけたら嬉しいです。


 それでは第三話、どうぞ。

 21時。


 配信開始五分前。


 私は鏡の前で、自分の顔を睨んでいた。


「……顔に出すぎ」


 昨日のアーカイブ。


 切り抜き。


 コメント。


『ミオ嫉妬してて草』

『もう付き合え』

『営業超えてる』


 全部見た。


 見なきゃよかった。


 スマホを伏せても、頭の中で文字だけがちらつく。


 コンコン。


「入るよ」


 返事をする前に、レイが部屋へ入ってきた。


 今日も顔がいい。

 腹立つくらいに。


「準備できた?」


「まあ」


「嘘。緊張してる顔」


「してない」


「またそれ」


 レイが笑う。


 そのまま自然に私の隣へ来て、鏡越しにこちらを見た。


 距離が近い。


 香水の匂い。


 だめだ。

 最近これだけで心臓がおかしくなる。


「今日、案件配信だから」


「知ってる」


「だからちゃんとしてね」


「……何それ」


「変な嫉妬しないでって意味」


「してないって言ってるじゃん」


「はいはい」


 完全に信じてない声だった。


 むかつく。


 でも否定できない自分がもっとむかつく。


     ◇


『本日は新作イヤホン案件です〜!』


 配信が始まる。


 今日は大手メーカーとのコラボ案件。


 絶対失敗できない。


 だから私はいつも以上に“普通”を意識した。


 変に照れない。

 動揺しない。

 レイを意識しない。


 そう決めてたのに。


「このイヤホン、密着ボイス向きかも」


 レイがそう言って、急にこちらへ寄ってきた。


「え」


「試す?」


「は?」


 コメント欄が爆速で流れる。


『来た』

『案件中だぞwww』

『距離近い近い』

『企業見てます』


 レイが片耳イヤホンを私につける。


 そのまま耳元で囁いた。


「……聞こえる?」


「っ……!」


 息が止まる。


 近い。

 声が。


 イヤホン越しなのに、直接触れられてるみたいだった。


『ミオ死んだw』

『顔真っ赤』

『案件とは』


「レイ、近……」


「だって試さないと分かんないでしょ?」


 絶対わざとだ。


 こいつ楽しんでる。


 その時。


 コメント欄の一つが目に入った。


『でもこれ全部営業なんだよな』


 指先が止まる。


 営業。


 その文字だけが、妙に冷たく見えた。


 そう。


 全部、営業。


 この距離も。

 触れ方も。

 甘い声も。


 全部。


「ミオ?」


「……っ」


 なのに。


 なんで私は、こんなに期待しそうになってるんだろう。


     ◇


 配信終了後。


 今日は珍しく、レイの方から何も話しかけてこなかった。


 機材の片付けをしながら、静かな空気だけが流れる。


 私はその沈黙に耐えきれなくなった。


「……ねえ」


「ん?」


「レイってさ」


 喉が変に乾く。


 聞かなきゃよかったって、もう思ってる。


 でも止まれなかった。


「私じゃなくてもいいの?」


「何が」


「こういうの」


 うまく言葉にならない。


「距離近いのとか、キスとか……そういう営業」


 レイが手を止める。


 静かだった。


「……急にどうしたの」


「別に。ただ気になっただけ」


「ふーん」


 レイはこちらを見る。


 その目が少しだけ真面目で、怖かった。


「ミオ」


「なに」


「それ、確認して安心したいの?」


「……は?」


「それとも、不安になりたい?」


 意味が分からない。


 分からないのに、胸だけ痛い。


「私は仕事なら誰とでもできるよ」


 一瞬、呼吸が止まった。


 やっぱり。


 そうなんだ。


 営業だから。


 特別じゃない。


 なのに。


 次の瞬間。


 レイが私の頬に触れた。


「でも」


 優しく。


 ずるいくらい優しく。


「ミオ相手だと、たまに本気になりそうで困る」


「……っ」


「だから最近、あんまり見ないで」


「え」


「期待したくなるから」


 心臓がうるさい。


 近い。


 逃げたいのに動けない。


 レイは少し困ったように笑った。


「……これ以上、営業じゃなくなったら困るでしょ」


 その言葉が。


 なぜか、告白より苦しかった。

第三話を読んでくださってありがとうございました。


 今回はかなり、“営業”の仮面が薄くなった回でした。


 ミオは「全部仕事なんだ」と思い込もうとしていて、

 レイは「仕事のままでいられなくなりそう」と気づき始めています。


 つまり両方もう危ないです。


 特に最後の、

「これ以上、営業じゃなくなったら困るでしょ」

 は、レイなりのブレーキでした。


 本当は近づきたい。

 でも壊したくない。


 そんな感情を抱えたまま距離だけ近いので、この二人はずっと心臓に悪い空気を出しています。


 あとコメント欄のみんな、ほぼ察しています。

 たぶん本人たちより早いです。


 次回からは、少しずつ“外側”も動き始めます。

 炎上、匂わせ、ファンの視線。

 配信の外にある感情が、二人を逃がしてくれなくなる予定です。


 ではまた次回。

 “営業”はまだ続きます。

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