第69話 暴走
「————はぁッ‼︎」
裂帛の気合と共に放たれたタスクの一閃が、襲い来る『晄石獣』の胴を見事に両断した。
しかし、まるで一角獣のような姿の馬型『晄石獣』の群れは一向に怯むことなく額のツノを突き出してくる。
「ツユリッ!」
タスクは相棒となったツユリを御して『晄石獣』の突進を躱したが、崩れた体勢を整える隙を見逃さず、『晄石獣』の群れを率いる『鏡人』が強烈な一撃を繰り出してきた。
「ぬんッ!」
「…………ッ‼︎」
歯を食いしばり重い一突きを受け流したタスクは反撃の一手を返したものの、刃が振り切られた時には槍使いの『鏡人』————グレゴリーの姿は刀の間合いの外へと消えていた。
「くっ……!」
刀の届かぬ間合いから矢継ぎ早に繰り出される刺突技にタスクが防戦一方に追い込まれると、上空から何かが凄まじい勢いでグレゴリーに飛び掛かった。
「ピィッ‼︎」
「むうっ⁉︎」
槍を振って飛来物を追い払ったグレゴリーだったが、その左の眼尻から一筋の鮮血が流れ出していた。
その隙を見て後退したタスクに、群がる『晄石獣』を氷の薙刀で牽制しながらミロワが声を掛ける。
「大丈夫⁉︎ タスク!」
「……大事ない。シュウのお陰で助かった」
息を整えたタスクは上空を旋回しているハヤブサに感謝するようにうなずいて続ける。
「しかし、馬で駆けながらこの数の『晄石獣』を相手取るのは流石に骨が折れるな。それにあの槍を使う『鏡人』、かなりの使い手だ……!」
「————そうなんじゃ!」
馬首を並べる栗毛馬と白馬の間に立派な体躯の黒鹿毛が強引に分け入って来た。
「リンファ!」
「アイツ、槍もそうなんじゃけど、馬の扱いがでえれえ上手いんじゃ! 地上での一対一なら負ける気せんけど、馬上での闘いとなるとホンマに厄介じゃ……‼︎」
「もしかすると、あの『鏡人』の元となった者は西洋の武将だったのかも知れんな……」
「私たちは武術家であっても、武将ではない。それに列車を守りながらとなると、思っていたより厳しい戦いね……!」
神妙な面持ちでミロワがつぶやくと、周囲の『晄石獣』を警戒していたリンファが何か思い付いた様子で振り返った。
「————ミロワ! この『晄石獣』どもを操ることは出来んのんか⁉︎」
「え?」
「『鏡人』は『晄石獣』に命令出来るんじゃろう⁉︎ 『晄石獣』どもが大人しゅうなったら、それだけでかなり楽になるで!」
「……ごめんなさい。さっきからずっと試みているのだけど、『地母神』の思念が邪魔をしているのか私には無理みたい……」
「そ、そうなんか……謝らんでもええわ。そんなら、やっぱりこのまま少しずつ減らしていくしか————」
「だが、それも難しくなってきた……!」
タスクの言葉にミロワとリンファが顔を向けると、彼のまたがるツユリがぜいぜいと息を荒げていることに気が付いた。
「ツユリはもう限界に近い……! 早く決着をつけなければ……‼︎」
愛馬の状態をタスクが口にした時————、
「————ヒィィィッ! 助けてくれえッ‼︎」
あのネガティヴな運転士の叫び声が響き渡り、三人は同時に運転席へと視線を送った。そこには運転席の窓越しに運転士を突き殺そうと槍を構えるグレゴリーの姿があった。
「まず貴様を殺せば列車が止まる。そうなれば乗客たちも始末しやすいというもの……!」
「嫌だあァァァっ! 安い週給のままで死にたくねえェェェッ‼︎ エンジンがぶっ壊れても知るかあァァァッ‼︎」
ネガティヴ運転士は悲鳴を上げながらありったけのクズ『晄石』を炉にブチ込んだ。大量のエネルギーを受けた列車がスピードを上げてグレゴリーと『晄石獣』を突き離しに掛かる。
「逃さんッ!」
とっさに車体に槍を突き刺したグレゴリーは馬を捨てて、列車の屋根に乗り移った。
「丁度いい。このまま突き殺してくれる……!」
運転席の車両の真上に仁王立ちしたグレゴリーが槍を足元に向けて構えると、背後から静かな迫力に満ちた男の声が通る。
「————そこまでだ」
その声を耳にしたグレゴリーはピタリと槍を止めて、ゆっくりと振り返った。
鋭い視線の先に立つは、吸い込まれるような刃紋を備えた片刃剣を手にした黒髪の青年。
「先ほどの借りを返させてもらおうか……!」
暴走する列車に同じく飛び移ったタスクは漲る闘気を愛刀に込め構えを取った————。




