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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第6章 変人博士登場

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第31話 ジゼル・オットー

 ジャンに先導される形で路地を進んで行くと一際大きな敷地を誇る屋敷へとたどり着いた。

 

「おっ、ここだ! この家に間違いねえ」

 

 ジャンはオレンジ色の屋根を指差し笑顔を見せた。

 

「この屋敷に天才学者が……」

「ああ。名前は確か……、ジゼル・オットー。歳は40くらいで————」

「————薄紫色の髪に眼鏡をかけ、男と見紛(みまご)うほどの長身……か?」

 

 まるで先読みしたかのようなタスクの言葉にジャンは眼を見開かせた。

 

「あり? なんで知ってんの? アニキ、他人(ひと)の心を読む能力も持ってんのか⁉︎」

「そうじゃない。どうやら昨日の食堂で会った女性(にょしょう)がそのジゼル何某(なにがし)だったようだ……」

 

 昨日の酔っ払いを思い出してタスクは複雑な表情を浮かべた。

 

「へえー、もうすでに接触してんなら話が早えじゃん。そんじゃ早速、(とつ)しようぜ!」

「待て、庭の様子を見てみろ」

 

 今度はタスクが庭を指差した。

 

「草がボーボーだね。ホントに人が住んでるの?」

 

 荒れ果てた庭を眺めながらミロワが率直な感想を述べると、ジャンは少し顔を引きつらせた。

 

「……き、きっと研究に没頭してて庭の手入れをしてる暇がねえんだ。……多分」

「……まあいい。折角ここまで足を運んだんだ。とりあえず会ってみよう」

「そ、そうだぜ! 考えるよりまず行動だ!」

 

 自分を納得させるように力強くうなずいたジャンを尻目にタスクとミロワは草をかき分け屋敷の入り口へと進んで行く。

 

 

 

 ————呼び鈴を鳴らしたものの中から反応はない。

 

「……っかしいなあ。寝てんのかな?」

「寝てるって、もうお昼前だよ?」

「……き、きっと研究に没頭してて昼夜逆転してんだ。……多分」

 

 再び自信なさげに答えたジャンへタスクが声を掛ける。

 

「ジャン、あれを見てみろ」

「今度はなんだよ⁉︎」

 

 タスクの視線の先にあったものは郵便物が口から溢れ出たポストの無残な姿である。

 

「……き、きっと研究に没頭してて郵便物を確認してる暇が————」

「それはもういい」

 

 タスクは郵便物を一枚掴んでジャンに手渡した。

 

「なんと書いてある?」

「…………『督促状』」

「『とくそくじょう』ってなに? ジャン」

「貸してるお金は絶対返してね、ってお手紙だよ。ミロワちゃん」

 

 ミロワの質問にジャンが答える横でタスクは玄関扉を直接ノックした。

 

「————突然の訪問、失礼する! だが、我々は借金取りではない。意見を聞きたいだけだ。どうか扉を開けてもらいたい!」

 

 中から人の気配はするが、やはり反応はない。タスクはフウと息を漏らしてもう一度口を開いた。

 

「得られた情報によっては礼は充分にさせてもらうつもりだ! これでいかがか⁉︎」

 

 しばし待つと扉の奥からガサゴソと物音が聞こえ、乾いた音と共に扉が開いた。

 

 扉の隙間からゆっくりと顔を覗かせたのはまさしく昨日食堂で遭遇した酔っ払いの女性であった。相変わらず白衣を着用している。

 

 酒の匂いは残っているが酔っ払っている風ではなく、代わりに頭を押さえて(つら)そうに顔を歪めている。恐らく二日酔いという状態なのだろうとタスクは推測した。

 

「開けてくれて感謝する。昨日以来だな」

「……はて? 初対面じゃないのかね?」

「…………」

 

 どこかで見たようなやりとりにタスクが閉口すると、白衣の女性はタスクたちの顔を順に眺めてつぶやく。

 

「確かに借金取りの(たぐい)ではなさそうだ。それで私に訊きたいこととは何かね?」

「それは貴女(あなた)が信用に足る人物か確かめてからにさせてもらいたい」

「……ふむ。テストというわけだね。いいだろう、少しばかり散らかっているが入りたまえ……イテテ」

 

 白衣の女性は痛む頭を押さえながらタスクたちを家に招き入れた。

 

「……ホントにゴチャゴチャだね」

 

 玄関先から足の踏み場もないほどにゴミやガラクタに侵食された有様は『少し』という副詞には全く当てはまらず、ミロワがぼやくのも無理はない。

 

 通された応接間もやはりというべきかゴミがうずたかく積み上げられていたが、白衣の女性はポイポイと投げつけ(うも)れていたソファーを露出させた。

 

「————さてと、私はジゼル・オットー。生物学的には女で、今はどこにも属してないから自称研究者といったところかな。お察しの通り困窮していてお茶も出せないが、いつでもテストを始めてくれて構わないよ」

 

 白衣の女性————ジゼルは優雅に脚を組んで見せたが、背景がゴミとガラクタで彩られているためイマイチ決まらない。

 

「えーと、俺は『晄石狩り(ハンター)』のジャン・ノロ。で、そっちのダンナが————」

 

 壁を背にしたジャンが自己紹介すると、ソファーに腰掛けたタスクが続く。

 

「俺はタスク・クサカベ。こちらはミロワだ」

 

 タスクは自らの後に隣にちょこんと座っているミロワを紹介した。

 

「……ふむ。その風貌にその姓、東洋のフソウ国出身かな? となると、そちらの女性の名前が気になるね。キミと同じ東洋人に見えるが『(ミロワ)』とは、これいかに……?」

「それについては確認が終わってからにさせてもらいたい」

「なるほど、訊きたいこととはミロワ嬢に関することのようだね。OK、分かったよ」

「…………」

 

 相手を試しているつもりがいつの間にか向こうのペースにはまっている。黙りこんだタスクにジャンは苦笑いを浮かべた。

 

(……真面目すぎんだよなあ、アニキは。しょうがねえ、いっちょジャン様が————)

 

 助け舟を出そうとジャンが動き出したところ、先んじてジゼルが立ち上がった。

 

「取り決めを破ってすまないね。私が何者か説明するには言葉よりも研究を見てもらう方が早いだろう。ついてきたまえ」

 

 そう言ってジゼルはゴミとガラクタの山をかき分け、奥の扉の方へ進んで行く。

 

 タスクはジャンに目配せをすると、隣のミロワへ声を掛ける。

 

「ミロワ、お前はここで待っていろ」

「えー? なんでミロワだけ⁉︎」

「いいから座っていろ。すぐに戻る」

「ぶー……」

 

 分かりやすく口を尖らせるミロワを残し、タスクはジャンと共に隣の部屋へと移動する。

 

「さあ、遠慮はいらない。入りたまえ」

 

 扉の向こうで手招きをする笑顔のジゼルに対し、タスクは警戒を緩めず扉をくぐり抜けた。

 

「————これは……‼︎」

 

 それ(・・)を眼にしたタスクは思わず絶句した。

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