77話 旧大帝国時代の話、貴族の話、義理は果たした
10月11日土曜日、戦争はどうなったかなあ。グレンとリシャールは帰ってこなかったんだよな。まだ参加してるのか。てことは野営を近くでしたんだな。
参加するかと言われたらしないと答える。もう十分に仕事は果たした。グレンとリシャールには頑張って貰おう。マイケルとダニエルは俺と一緒に見学会でもしようじゃないか。
武器は父さんに預けた。明日の夕方返してくれるらしい。一応人を大量に惨殺したから整備に出した。未だに鋼鉄製だけど、それ以上の金属が手に入ってないんだもの。
この都市では手に入らないらしいよ。別の所にいかないといけないらしい。まあ旅をするのはもう少し後になるかな。アリの巣でもう少し修行してからな。
スキルも充実したし、今回の戦争は得るものが多かった。後は金がどうなるかだな。吹っ掛けてきたけど、全額出るとは思ってないからな。
流石に予算があるからなあ。貴族としての収入をどれだけ切り崩せるのかと、カドラル王国からどれだけ賠償金をふんだくるかにかかってくるんだろう。搾り取れるのか知らんけどね。
詳しいことは知らんからなあ。賠償金すらふんだくれないのかもしれないけどね。こっちも迷宮都市に攻めてる可能性もあるし。何処もこんな温い戦争をやっているんだろうか。
戦術が退化してるんだよなあ。もうちょっと戦い方ってのがあるだろうよ。まあお馬鹿貴族のおかげで大金を手に入れられそうだから、お馬鹿が司令官で良かったよ。
帝国時代に進化したものもあれば、退廃したものも多く在るんだろうなあ。帝国時代を知らないから何とも言えないんだけど。2000年以上続いた大帝国だったからなあ。
2000年も経てば当時の人種もいないし、腐敗も大分広がってたんだろうなあ。大帝国の時代には軍隊が殆ど迷宮以外には居なかったって話だしね。
盗賊や山賊相手にもハンターが対処してたって話だし、治安維持も軍がする必要も無いくらいに良かったって話だしな。魔物を駆逐する勢いで開拓したから、強い魔物も居なくなってしまったし。
それも迷宮を潜っている兵士で攻略していったらしいからな。まあ当然だな。レベルの高い兵士は迷宮にしかいないんだから。対人戦闘を忘れてしまったのも仕方のないことだとは思うけどね。
今は5つの国に別れてしまっているけど、大帝国が崩壊してから200年くらいだしな。大帝国時代を知っている人もいるというか、うちの両親が大帝国時代から生きている。
まだそのくらいの時間の流れなのだよ。だからこそこんな温い戦争をやっているんだろうけど。裏工作なんかはやっているんだろうけどな。表の戦争は下手すぎて泣けてくるレベルだ。
「で、大帝国時代とはそんなに生活は変わってないの?」
「変わってねえな。この都市に入ってくる物資も鋼鉄以上の物は入って来ねえし、変わらんな」
「服飾関係も変わってないわよ。酸耐性の服も大帝国時代から作っているものだし」
「じゃあ戦争関連の技術が退廃してるだけか」
「それは知らねえな。戦争は強い奴が出てくれば勝てるだろ? その程度の認識だな」
「戦争は全く分からないわ。攻めてくるようになって初めて戦争があるんだって思ったもの」
「強い奴をどうやって倒すとか色々とあると思うんだけどね……分かった、ありがとう」
「つってもなあ。大帝国時代から変わったことって言われても何もないと思うんだがなあ」
「そうねえ。あ、でも兵士の人は増えたんじゃないかしら」
「そうか? 武器の売れ行きは変わってないぞ? ……冒険者を辞めて兵士になる奴が増えたってことか? それなら解らんでもない」
「兵士の給料の方がいい場合もあるみたいだし、そうなのかもしれないね。とりあえず、今日も一応戦争の方に行ってくるよ。参加はもうしないけど」
「気を付けていくのよ?」
「大丈夫だろ。アリの巣もいいとこまで潜ってるみたいだしよ。武器も見たが、変なところに力が入って無い様な使われ方をしていた。マモンは中々に強いはずだぞ」
「そうなのね。それでも無理は駄目よ?」
「解ってる。今日は見るだけだから。マイケルとダニエルも連れて行くよ。グレンとリシャールも迎えに行かないといけないし」
「夕方には戻るのかしら?」
「戻る予定。皆で戻ってくると思う」
「わかったわ」
「リシャールの方も武器を見せにこいよ。あいつのも手入れしといた方がいいだろうしな」
「分かった。じゃあ行ってきます」
「気を付けてね」
さあて、外壁の上に向かいましょう。今日は魔法を使っての攻撃も無しだ。……そもそもまだ戦うのかも解らんのだよな。その辺は行ってみてからだな。
都市内も落ち着いているよなあ。負けないと解っているからなのか、自分は関係ないと思っているからなのか。それは解らんけど、戦争って感じが殆どしてないのは北側だからかな。
少なくとも東側は戦争の被害を受けているがな。多分住宅価格も安いんだろう。恐らく西側に行くほどに地価が高くなると思われる。家は中流階級って所か。
探索者やハンターはどの辺に住んでいるんだろうな。多分西側だと思うんだけどな。金は持ってるからなあ。特にハンターは10年に1度、大きい収入があるんだし。
あ、貴族は基本中央部だから。ここは変わらん。しょうがないよな。でも貴族って言ってもそんなに家が広い訳では無いんだよな。
何せ議会貴族だからな。大きい邸宅に優雅な生活をしていたら、票が流れてしまうからな。それに本拠地は別の所にあるし。あくまでここは議会に参加しに来ているんだ。
王国の色んなところから来ているのが議会貴族だ。大体は爵位持ちの貴族の弟だとか従弟だとかが送られてきている。一応爵位持ちではあるものの、殆どが男爵だ。準男爵の場合もある。
王国貴族の爵位は上から王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵となっている。女性が頭首になることはない。男性が頭首になる。その辺は何でかは知らん。
そして、王族は置いておくとして、公爵、侯爵は自由に子爵を任命できる。これは世襲しない法衣貴族となるんだが。基本は領地を持っている貴族が世襲制で、法衣は一代貴族だ。もちろん取り消しもあり得る。
伯爵、子爵は男爵を任命できる。これも法衣だな。で、男爵は準男爵を任命できる。これも法衣。議会は法衣貴族によって運営されているわけだ。増やし過ぎると王族からいちゃもんをつけられるが、まあ限度は考えるってもんだよ。
公爵と侯爵は殆ど居ないらしいから、ここに来ている法衣貴族も男爵が殆どなんだ。彼らも活動資金を与えられながら、議員になり、議会を運営する。選挙に落ちれば悲惨な事になるので、彼らは頑張って選挙活動、平民に利益を配るのだ。
中々に厳しい世界なのだよ。議会貴族というものも。一応領地は王族の直轄という名目ではあるが、王族が迷宮利権に固執するわけにもいかないので、しょうがなく議会をやっているんだ。
というよりも、議会は大帝国時代から変わって無いみたいだし、その辺は踏襲したんでしょ。平民がついてこないと迷宮都市が成り立たないからな。鍛冶屋にしろ服屋にしろ探索者にしろだ。
……さて、外壁上に着きましたが、まだ戦争をするみたいですね。戦列が並べられている。相変わらずの横陣形である。だが、向こう側は大分薄くなってしまっているな。
昨日は20万程狩ったと思うんだ。ステータスを計算すると、そのくらい倒してないと計算が合わないんだよなあ。いやー殺しましたね。それ以上に減っているようですが。
当然だろうな。夜の間に逃げた人たちがいるだろうからな。徴兵兵なんかは逃げて当然の感じに恐怖をばら撒いたし、兵士も一部は逃げたかもしれない。反対側は知らんけども。
そもそもHPが無くなる前に後に下がるんだから死なない様に戦争をやっているんだもんな。それが、一撃でHPを貫通してくるわ、余波でHPが全損するわで、敵右翼は散々だっただろうから減るのは当然の事なんだが。
後で死体を片付けた兵站要員の方、ごめんなさい。沢山死体を増やしてしまってごめんなさい。基本はまとめての火葬になるからな。誰の死体かは解らなくなるんだけど。
こっちの戦線は人が減っていないんだよな。神官が機能しているから。運悪く死ぬ人も居るのかもしれないけど、割と少数よ? 基本はHPが全損する前に引くからな。
だから長いこと戦争するんだよ。ちゃんと殺し切ればそこまで時間はかからないんだよ。グレンもリシャールもまだまだよな。吹っ切れてないんだろうな。
舌戦もまだするんだ。こっちの貴族は首が怖くて恐慌状態、向こうの貴族は戦力が減りすぎて混乱状態。どっちも会話になってない。それでもやるんだな。面倒だなあ。止めればいいのに。
さて、戦線がぶつかりました。敵左翼もまだまだ堅調。うーむ、グレンもリシャールも大分遠慮してるなあ。昨日の俺とまではいかなくてももっとガンガン行ってもいいのにな。
しかし、敵さんの減りが早い。士気が低すぎるんだよなあ。HPが残っているのにドンドンと後に下がっていく。神官のいない恐怖が全体に伝播している感じだな。
もう勝ち目がないから引いとけばいいのに、いかんのだろうか。そもそも砲撃戦をもっとやるべきだったと思うし、戦力もあと5倍は持ってこないと勝てないと思うんだが。
なんであの程度の戦力で勝てると踏んだんだろうか。解らん。基本拠点攻めは最低でも3倍の戦力が必要なんだぞ? 同数で勝てる訳が無かろうに。
あ、左翼が崩れ始めた。グレンもリシャールも殺しは最小限かな? 殺せと言ってあるはずなんだがな。まだ怖いのかもしれんな。慣れるもんでも無いんだけど。
この辺は混沌の神様の転生者の特権の様な物だから。精神破壊を受けているから。普通はPTSD待ったなしである。暫くは迷宮もお休みかな。ちょっとカウンセリングが必要かな。
マイケルとダニエルは必要なさそうだったんだよな。魔法で戦ってるから人を殺しているという感覚が無かったんだろうな。良くは無いけど、まあ今はそれでもいいかな。
……天頂に太陽が差し掛かる頃には、敵兵が半分にまで減っている。見ている限り、逃げたのも結構いる。今日もまた夜中にこっそりと逃げ出す奴らがいるだろう。
これにて終戦として欲しいもんですね。勝負はついたでしょうに。意地でも戦うんだろうか。士気は下がりに下がっているし、援軍の見込みも無いんだろう? 帰れよなあ。
「撤退! 引けー! 引けー!」
さあて、終わったな。グレンとリシャールを迎えに行きましょうか。もう帰るよ。もう十分に義理は果たしたからね。
リシャールは剣を父さんに見て貰わないといけないし、早く帰りましょう。洗濯もしないといけないんだからね。錬金術師の作る洗剤は血糊もよく落ちるんだよなあ。
後どれだけ戦争をするのか知りませんが、1週間もかからんでしょう。相手の士気が下がり切ってるんだし、そのうち瓦解するよ。
「グレン、リシャール、帰るよ」
「「解りました」」
回収完了。明日からは兵士諸君で頑張ってくれたまえ。頼ってたのか、若干もの欲しそうな目で見られたが、義理は果たした。これで終わりだ。
後は報酬を貰うだけだ。さて、何時になるのかなあ。どれだけ毟り取ってくれるのか。ハンターギルドの手腕は如何にってね。




