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移民街と貢女

石垣の上に、商店街が軒を連ねている。

カラフルな色のストールや人形、星座をかたどったアクセサリー。片手で食べられる食べ物やなんかも売っていて、ちょっとした縁日みたいだ。


1つ1つの区画としては狭いが、移民街の歴史を聞いてイメージしていた暗くひもじい印象とはかけ離れた姿にキース達は驚いた。


慣れた足取りで進むリゲル。揺れて跳ねる髪が、なんだか楽しそうだ。


移民達はリゲル達と比べると少々肌の露出が高い服を着ていた。

そして皆、両足首と首元に黒ラインの刺青が入っていた。

特に足首のものは、まるで装飾具をつけているような幅広めのデザインが施されていた。


移民街の人々は明るく賑やかだった。

ただ、見慣れぬ来訪者とあってか、ところどころで好奇の目にさらされてキース達は少々居心地が悪かった。


途中、移民にしては珍しくクラシカルな白装束の女性を見つけた。

彼女は洗濯物を持って歩いていた。


「リリー!」


リゲルは彼女に声をかけた。


「この人はリリー。今の星の貢女なの。」


亜麻色の髪のおっとりした女性は、推定20代前半、といったところだろうか。


「みなさん初めまして。私が現、星の貢女のリリー・ラトリアです。」


「キース・フェルディナンドです。初めまして。」


キースはついでベン、マリウスを紹介した。


「リリー、この人たちはイオ婆ちゃんのところに泊まってる旅の人よ。私がこの国を案内してあげてるの。刺青の話になって、ついでに星の貢女であるリリーを紹介しようと思って。」


あら、そうなの。と、リリーは言った。


「その、刺青は、本当に入っているのですか?」


ベンが聞くと、リリーは耳にかかった髪をかきあげた。

そこには確かに「6」という数字が刻まれていた。


「ほんとだ!6・・・ってことは、あんたが6代目ってことか?」


「いいえ、マリウス様。この貢女のシステムは、マリウス様がご想像されるものとはちょっと違うと思います。」


リリーは、教えてくれた。

この国の貢女というのは、ある時期が来たら割り振られた数字の順番に、この国の信仰である星の神々に捧げられるのだと。そして、その数字は10年でひとサイクルとなる。つまり、この国の過去を振り返れば6という数字の刻まれた貢女は何人もいる。具体的にはおおよそ1年に3人ほどの貢女がその使命を全うするのだとか。


「えっと・・・、捧げられるというのは、つまるところの、」


キースが確認したいことを言い淀んだ。


「はい。その命を捧げるということでございます。」


リリーはニッコリと微笑んだ。


「私たち貢女は、それこそが生涯の仕事なのです。

貢女としての使命を全うするそれまでの間は主にやることは2つ。健康な体を維持すること。人々の平和を願うこと。これ以外に求められることはありません。

望んだものはすぐに手に入るし、過酷な労働をせずとも、特に何不自由なく生活できるのですよ。ありがたいことです。」


リリーは祈るように手を組んだ。


「ちなみに、リリーの前はリリーの旦那さんが貢女だったのよ」


リゲルの言葉に、リリーが付け加える。


「貢女といっても、それは女だけが選ばれるわけではありません。私の場合は、夫であるゼノン・ラトリアが貢女として任を受けておりました。貢女というのは、その者が生まれた時に行われる星占いで決められるのが一般的で、夫はまさに天命でした。」


リリーは遠くを見つめた。


「私は、そんな夫と出会って、彼の使命と、その思想に共感し、自ら志願した貢女です。その夫が去年の暮れに天寿を全うしましたので、私が今はそれを引き継いでおります。」


キース達はその衝撃的な内容に耳を傾けるだけで、何も言うことができなかった。





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