7月25日・・・遭遇
時計を見ると。
すでに、零時をまわって、二十五日になっていた。
家に連絡をしなきゃと思い鞄にしまっていた携帯を開くと、自宅からの着信が何件も……
私はあわててカラオケルームから出て、電話ができる静かな場所を探した。
カラオケ店から出て、脇にあった非常階段のそばで家に電話をする。
お母さんには、遅くまで連絡しなくて、すっごく怒られたけど。もう終電もないし、友達も一緒ということで、お父さんには内緒にしてくれると言った。
はぁー。
電話を切って、ため息をついて、非常階段に座り込む。
今日は、あっ。昨日は、いろんなことがありすぎて……
なんだか、目眩がするよ……
ピロロロン。
両手で握りしめていた携帯がなって、見ると夕貴からの電話だった。
「はい」
立ちあがって、電話に出る。
『もしもし、譲子? いまどこにいるのー?』
ガヤガヤと、受話器から夕貴の声以外に歌う声やら笑い声が混じって聞こえて、聞きとりづらかった。
「あっ、今、外で家に電話してたの」
『なんだー。急にいなくなって、なかなか戻ってこないから心配したよー』
「ごめーん、もうちょっとしたら戻るから、心配しないで」
そう言って、電話を切った。
再び、非常階段に座って、足の上に肘をついて顔を支える。
たぬき亭での事を思い出す。
私、御堂君に好きって言われたんだよね。付き合ってって言われたんだよね。
なんだか現実感がないな。
中学の頃、大好きだった御堂君に、告白されちゃったんだよ、私……
御堂君の真剣な顔を思い出すと、切なくて、涙がでそうだった。
また、胸がドキドキしてくる。
どうしたらいいんだろう。
まさか、告白されるとは思ってもみなくて……
御堂君の事は、好きだったけど、けど……
そう。
もう過去形……なんだよね。
好きだったけど、二年間話さないで、いまさら付き合うとか考えられないし……
断る……の?
そう思った時、カラオケ店から出てきた御堂君が、辺りを見回して、私を見た。
私を見てる……
ドキン、ドキン。
御堂君に、じぃーっと見つめられて、鼓動が速くなってきた。
私はまだ、こんなに御堂君にドキドキするのに、断るの? そんな考えが頭をよぎる。
御堂君は、私を見つめたまま足を止め、それから、こっちに向かって歩いてきた。優しく笑って、私と少し距離を取って非常階段に座った。
たったそれだけの行動が、すごく長く感じて、私はその間ドキドキしっぱなしだった。
ああ、私、まだ御堂君に未練たらたら……
そう思った。
「桜庭がいない、って三井が大騒ぎしてた」
くすっと笑って、御堂君が私を見た。
「うん、さっき夕貴から電話があった。ちょっと家に電話してただけなの」
そう言って、額にかかった髪を耳にかけて、御堂君から目をそらして地面を見た。
「俺も心配した。俺のせいで悩ませてるかと思って……心配した」
えっ……
ガバっと顔を上げると、御堂君と目があった。
二つの瞳の中で、やさしさがきらめいて。その顔があまりにも綺麗で、胸に沁み入って、涙が出そうだった。
「違うの、私は御堂君のことが……」
そう言った時。
「譲子さん!」
カンナの声がした。
見ると、通りの向こうにカンナがいて、道路を走る車をよけながらすごい勢いで駆けてきた。
はぁ、はぁと呼吸を整えながら、御堂君を見る。何かを強く思い定めたような真剣な表情で。
しばらく、御堂君を見てから、私の方を見てカンナが言った。
「譲子さん、なんでこいつと?」
「カンナこそ、どうしてここに?」
突然現れたカンナに、私も疑問に思って聞いてみたのだけど。
「俺の事はどうだっていいんだよ! 昨日もコイツと会ってたのか?」
ええっ?
カンナが、とっても怖い形相で聞いてくるから、びっくりしちゃった。
※現在は条例でゲームセンターやカラオケ店の18時以降は16歳未満の立入禁止・22時以降は18歳未満の禁止となっています。