ついにはじまった同窓会
ざわざわ……
たぬき亭の店内は、大勢でにぎわっていた。
同窓会は、なんと全員集まることができて、久しぶりに会う友達同士、あちこちで盛り上がっていた。
「譲子!」
飲み物のお代わりをしようと思って、厨房に近づいた私に、声をかけてきたのは夕貴と中野。
「準備、手伝ってくれてサンキューな」
中野が言う。
「もう、中野が手伝いに声かけたヤツら、ぜんぜんつかまんなくってさー、準備間に合わなかったらどうしようかと思ったよー」
夕貴が苦笑して、中野をボカッと叩いた。
「ううん、中野はお店貸してくれたり、色々準備してくれたんだもん。私で役に立ってよかったよ」
「でも、まっさか、御堂と一緒にくるとはねぇ~」
そう言って、ニヤニヤ笑う夕貴と中野……
「それは、偶然会っただけで……」
なんか、ヤな感じだな……
私がそそくさと逃げようとすると、夕貴が私の腕を掴んで厨房に引っ張って行った。中野が後から付いてくる。
✜✜
「で! 聞いたの? 言ったの?」
夕貴がドアップで顔を近づけてきて聞く。
わっ。
顔に、唾がかかってるんだけど……
私は、夕貴の口に両手をあてて少し距離を取ってから言った。
「な、なんの事?」
目をあわせず横を向いてとぼけてみる。
「だーかーら、須藤さんとの事! 御堂に聞いたの?」
わわっ。
夕貴があまりに大きな声を出すものだから、私はあわてて夕貴の口をふさいだ。中野も少しあわてて。
「夕貴、声デケーよっ」
口に人差し指をあてて、シィーって言って。
ボカッ。
また、夕貴が中野を殴った。
「いってーなぁ……」
中野が頭を押さえながら、涙目になって抗議する。
「声がでかいのは、アンタよ!」
負けずに、夕貴が言う。
この二人、似てるなー。
そんなことを考えて、見ていると。
ギョロッ。
四つの目が同時にこっちを向いた。
わわっ。
迫力っっっ!
「で! 聞いたの? 言ったの?」
夕貴が、さっきとまったく同じことを言ったけど、もう突っ込まずに答える。
「何も。聞いてないし、言ってない」
言ってない、はたぶん“好き”ってことだと思って、とりあえず答えておく。
「なんでー、二人っきりだったんでしょー? チャンスだったんじゃないのー?」
「そーだって。晃紘は、譲ちゃんのこと好きだと思うよー」
中野が、顔を掻いて、何かを考えながら言う。
中野と夕貴と私と御堂君は3年間ずっと同じクラス。その上、中野と御堂君は同じ野球部だったから、仲がいい。
私が御堂君を好きだということは、誰にも言ったことがなかったけど、この二人にはばれていたみたい……
「それは、違うと思うけどなぁ……」
私は小さな声で、中野の言葉を否定する。
だって、もしもよ。
「もしも、御堂君が私の事を好きだったなら、奈緒と付き合ったりしないんじゃないかな」
そう言うと。
「んー、そうかな? そうとは限んないんじゃない?」
って、夕貴が言う。
私には、よく理解できないけど……好きな人がいても、他の人と付き合えるのかな?
「じゃあさ、晃宏に聞けないなら、須藤に聞いてみれば?」
そう言う中野の言葉で、奈緒からメールが来てて、その返信をまだしていなかったことを思い出したの。
「あっ、奈緒に謝らないと……」
そう思って、店内に出ていって奈緒を探した。
✜✜
店の隅の方で奈緒の後ろ姿を見つけて、声をかけようとした時。
奈緒の近くを御堂君が通りかかって、奈緒が呼びとめた。
「晃紘!」
御堂君が奈緒を見て、奈緒が笑いかけていた。
そんな二人の姿を見た瞬間。
ツキンっ。
胸が痛んだ。
奈緒に声をかけそびれて、二人のすぐ側につったっていた私に、奈緒が気づく。
「譲子?」
「あっ、奈緒……ひさしぶり」
「久しぶり! 譲子、元気だった?」
そう言って、奈緒が私の両手を掴んで握ってきた。
「うん。あの、メールの返信できなくてごめんね。同窓会の準備手伝ってて、返信するの忘れて……」
握られた手の感覚がなくて。
私は斜め下を見ながら謝った。
「ううん、いいのよ、気にしないで。高校はどう? あっ、晃紘と同じ高校だったよね?」
言って、奈緒は御堂君を振り返った。
御堂君は、眉間にしわを寄せて。
「ああ、今は同じクラスだよ」
って。
「そうなんだ。じゃあ……もう言った?」
奈緒が少し笑って、御堂君に聞く。
御堂君は、ただ黙ったまま首を横に振った。
二人が私にはわからないことを話していて、また胸が苦しくなってきて、目を瞑った。
できれば、奈緒に握られてる手も、振りほどきたかったけど、それはできなかった……
「あのね、私たち、別れたのよ」
奈緒が、そう切り出した……
その言葉に、私は、えっ? と顔を上げる。
奈緒は、握った私の手を見ていて、その向こうに立っていた御堂君と目があった。
でも、御堂君は私から目をそらしたの……
「それは、聞いたけど……」
やっとの思いで、私がそう言うと。
ぱっと、掴んでいた手を奈緒が離して、御堂君のそばまで行って、見上げた。
「そうなんだ。言ったのね?」
「ああ」
御堂君は、私の時とは違って、まっすぐに奈緒の目を見て頷いた。
それから、奈緒はこう言った。
「譲子……、晃紘が本当に好きなのは、譲子なのよ」
囁くような奈緒の声は、がやがやと楽しそうに騒いでいる周りの声にかき消されそうだったけど、私の耳にはハッキリと聞こえたの。
御堂君が好きなのは……、私?
その瞬間。
ダッと、私は駈け出した。
店の入り口で夕貴にぶつかって、どうしたのって聞かれたけど、ちょっと涼んで来ると言って、そのまま外に飛び出した。