第30話 私が生まれた日
光が弾けた。
次の瞬間。
私は見知らぬ部屋に立っていた。
豪華な寝台。
白いカーテン。
壁には王家の紋章。
そして。
聞こえてきたのは、赤ん坊の泣き声だった。
「……この声」
私は振り返る。
寝台の上に女性がいた。
銀色の髪。
青白い顔。
そして腕の中には――。
小さな赤ん坊。
「……私?」
母だった。
若い母が、赤ん坊の私を抱いている。
「アリア……」
母は涙を流していた。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
その瞬間。
部屋の扉が開いた。
入ってきたのは若き国王。
そして――。
その後ろに。
幼いエレナがいた。
「……エレナ?」
私は驚いた。
まだ幼い。
五歳くらいだろうか。
母はエレナを見る。
「この子も守ります」
王が冷たく言う。
「二人とも、王冠の器だ」
「違います」
母は強く言い返した。
「この子たちは人間です」
「王家に生まれた以上、道具だ」
「私は絶対に認めません」
王が母の頬を打った。
「……!」
私は思わず叫ぶ。
けれど。
誰にも聞こえない。
これは記憶だから。
母は泣かなかった。
ただ、赤ん坊の私を強く抱きしめた。
「この子には何もさせません」
「ならば、お前ごと消す」
王が背を向ける。
その直後。
母はエレナの手を取った。
「エレナ」
「はい」
「アリアをお願い」
「……私が?」
「そう」
母は微笑んだ。
「この子がいつか、自分の記憶を取り戻したとき」
「はい」
「一番近くで支えてあげて」
エレナは小さく頷いた。
「約束します」
私は言葉を失った。
エレナは。
最初から。
私の味方だった。
そして。
もう一つ。
重要なことが分かった。
エレナは王家の血を引いているわけではない。
彼女は――。
王冠を起動させるために選ばれた、“もう一つの鍵”。
だから母は彼女を守った。
だから二人は引き離された。
だから。
一度目の人生で。
私たちは敵にされた。
記憶を操作され。
互いに憎しみ合うよう仕向けられた。
そこまで分かったとき。
映像が変わった。
幼い私が眠っている。
母が私の額に手を当てる。
「ごめんなさい」
銀色の光が広がる。
「あなたから、いくつかの記憶を奪います」
「でも」
母は涙を流す。
「いつか必ず取り戻せるようにしておく」
そして。
最後に囁いた。
「あなたの本当の父親は――」
そこで映像が途切れた。
「……え?」
私は目を見開いた。
「本当の……父親?」
ベルク家の父ではない。
では。
私の本当の父親は誰なのか。
背後から声がした。
「そこまでだ」
白髪の男だった。
彼は王冠を下ろす。
「これ以上は見せられない」
「どうして?」
「知れば、お前はまた死ぬ」
「……!」
「そして今度は」
男が笑った。
「レオンハルトではなく――」
彼の視線がレオンハルトへ向く。
「お前自身の手で殺すことになる」
「……私が?」
「そうだ」
その瞬間。
私の手に銀色の剣が現れた。
そして。
剣先が向いていたのは――。
「……レオンハルト?」
彼だった。
レオンハルトは動かない。
ただ私を見つめている。
「アリア」
「……」
「もし俺が敵だったとしても」
彼は静かに言った。
「お前の手で終わらせろ」
その言葉に。
胸が締め付けられる。
――違う。
私はまだ、何も知らない。
けれど。
確かなことが一つだけある。
この人生では。
私は誰かに決められた結末なんて選ばない。
自分で選ぶ。
自分の未来を。
そして。
剣を握る私の背後で。
エレナが小さく呟いた。
「……思い出した」
「何を?」
エレナは震えながら私を見る。
「アリアのお父様が……誰なのか」
地下聖堂の空気が凍りついた。
「あなたのお父様は――」
エレナが名前を口にする。
その名を聞いた瞬間。
レオンハルトが青ざめた。
ルシアンでさえ、目を見開いた。
そして私は。
自分がこれまで信じていた“家族”そのものが、崩れ落ちる音を聞いた。
――私の父親は。
王家の中でも、決して口にしてはいけない人物だった。




