第36話:四度目の凶行と、砕け散る乙女心
城壁の補修を終え、ギルドの受付嬢と別れたヘンドリック。
その後ろを、もはや生者の光を失った瞳で、三人の乙女たちがフラフラと追跡を続けていた。
『妹(仮)、妻と子(仮)、受付嬢……。次は、一体なんなの……』
エリーゼの虚ろな呟きに応えるように、ヘンドリックは街でも一際華やかな高級サロンの勝手口へと足を踏み入れた。
そこは、貴族や富裕層の女性たちが集う、色香漂う女主人が経営する店だった。
「ヘンドリックさん、お待ちしておりましたわ。さあ、奥へ……」
妖艶な笑みを浮かべる女主人に招き入れられ、ヘンドリックは建物の中へと消えていく。
路地裏で待つこと、およそ一時間。
ついに勝手口の扉が開き、ヘンドリックが姿を現した。しかし、その様子が明らかにおかしい。
「いたた……っ。すまないね、少し肩を貸してもらえるかな」
ヘンドリックは顔をしかめ、自力でまともに歩けないほどフラフラと足元をよろめかせていた。
そんな彼を支えるように、女主人が色気たっぷりにヘンドリックの腰へと手を添え、自分の豊かな胸に彼の腕を密着させている。
そして、三人の耳に、とんでもない会話が飛び込んできた。
「もう……ヘンドリックさんったら、本当にすごかったわ。私、大満足よ」
「いやぁ、ちょっと無理をしすぎましたね。まさかあんなに激しく動くことになるとは……完全に腰が抜けました」
「ふふっ、あれだけ奥の奥まで、激しく隅々と手を入れてくれたんですもの。本当に、すごく良かったわ。……また次も、ぜひお願いするわね」
女主人がヘンドリックの耳元で甘い吐息を吹きかけながら、艶然と微笑む。
ヘンドリックも「ええ、少し休めばまた動けるようになりますから」と、苦笑しながらもまんざらではない様子で答えている。
路地裏の物陰。
『『『…………(白目)』』』
サンネ、ミラ、エリーゼの三人は、ついに泡を吹いてその場に倒れ伏した。
『こ、腰が抜けるほど……激しく……っ!?』
『そんな……奥の奥まで……っ!? ボス、やっぱりとんでもない絶倫だったんだゾ……!』
『……私たちが毎晩あんなに誘っても微動だにしなかったのに。真昼間から、こんな熟女と腰が砕けるまで密会していたなんて……』
三人の乙女のプライドと純情は、原形をとどめないほどに粉々に粉砕された。
だが、当然ながらこれも完全な誤解である。
ヘンドリックが依頼されていたのは、サロンの地下に設置された巨大な【魔力ボイラー】の緊急修理だ。狭く複雑な配管の奥の奥まで潜り込み、無理な体勢で【土木建築Lv1】と【魔力操作Lv1】を激しく連続発動させた結果、ただ単に重度のぎっくり腰になってしまっただけである。女主人が「良かった」「満足」と言っているのも、完璧に直ったボイラーの調子についてだ。
純度百パーセントの過酷な肉体労働。
しかし、これまでの「浮気(と勘違いされる)現場」の連続コンボを食らってきたヒロインたちに、正常な判断能力など残されているはずもなかった。
「……帰ろう。そして、今夜こそ彼を問い詰めるわよ。私たちのリーダーが、これほどの女たらしだったなんて……絶対に許さないんだから」
エリーゼが、地獄の底から響くような呪詛の声を上げる。
最強の便利屋の命運は、彼が痛めた腰よりも遥かに致命的な危機に瀕していた。




