第127話:約束の二十二歳と、1ポイントの決断
王都の屋敷に差し込む朝日は、どこか清々しい。
リビングのソファーでいつものようにコーヒーを啜っていたヘンドリックの前に、ロッテが少し緊張した面持ちで立った。
「ヘンドリックさん、おはようございます。……今日、私、二十二歳になりました」
「おう、ロッテか。おはようさん。……そうか、二十二か。おめでとう、立派な大人だな」
ヘンドリックは目を細めて笑い、コーヒーカップを置いた。
ロッテは小さく頷き、自分のステータス画面を空中に展開する。そこには、彼女が長年大切に育ててきた「極端な」ビルドが並んでいた。
【ステータス】
氏名:ロッテ
年齢:22(+1)
職業:遊撃魔導士
【習得スキル】
・短剣術 Lv4
・水魔法 Lv4
・浄化魔法 Lv4
・回避術 Lv4
・罠技術 Lv4
・魔力節約 Lv1
・魔力回復 Lv1
【未振り分けスキルポイント:1】
「あの時……助けられて最初にいろいろ教えていただいた時でしたよね。ヘンドリックさんが私に『二十二歳になってポイントが貯まったら、新しいスキルを教える』って約束してくれたの」
「ああ、覚えてるよ。あの時はお前の燃費の悪さを直すので精一杯だったけどな。短剣も魔法も罠もハイレベル。そんな欲張りなロッテちゃんが、戦場で本当に『化ける』ための最後のピース……見極めさせてもらうって言ったよな」
ヘンドリックは真剣な目つきになり、ロッテの戦いぶりを思い出していく。
水魔法で牽制し、浄化で支援し、回避と短剣で近接もこなす。その万能さをさらに活かすには……。
「よし、決めた。ロッテ、その1ポイントは【隠密】に振れ」
「隠密……ですか? 投擲ではなく?」
「ああ。今のロッテは燃費の問題を克服して、長く戦場に居座れるようになった。なら次は『敵の意識から外れる』技術だ。回避Lv4があるお前が【隠密Lv1】を覚えれば、乱戦の中でふっと姿を消して、一番効果的な場所から魔法や短剣を叩き込めるようになる。まさに『遊撃手』としての完成形だ」
ヘンドリックの論理的で愛のある指導に、ロッテの瞳が輝く。
「……はい! ヘンドリックさんのアドバイス、信じます。【隠密Lv1】、取得しました!」
パリンッ!
「……なんですの、今のアイツのズルすぎるくらい格好良い師匠面は」
「わらわも……わらわもあんな風に、二十二歳の節目を二人きりで祝われながら導かれたいぞ……ッ!」
入り口で皿を落としたエリーゼとルミナリアが、嫉妬でオーラを噴き出させていた。普段は情けないおっさんが、約束を完璧に覚えていて、かつての教え子を導く姿はあまりに刺激が強すぎた。
「それにしても……二十二歳ですか。羨ましいですね」
書類を抱えたシリルが、眼鏡を押し上げながらボソリと呟いた。
「年齢が上がれば1ポイント増える。だが、五十歳を超えれば逆に1ポイントずつ『減る』のがこの世界の理。その貴重な加算を、閣下のような経験豊富な者に割り振ってもらえるのは、魔術師としてこの上ない幸運だ」
「ぶふっ!? おいやめろシリル、五十の話はするな!」
ヘンドリックがコーヒーを吹き出した。
「おっさん、実際どうなんだよ。まさかもう、ポイントが削り取られ始める『崖っぷち』の年齢なのか?」
「うるせぇブラム! 俺はまだ五十じゃねぇ! そもそも俺の魔法は全部レベル1だからな、多少ポイントが減ったところで痛くも痒くも……いや、やっぱ痛いから! 減りたくないから!」
「主君! たとえ老化でポイントを失い、レベル1魔法すら使えなくなっても、私が貴方の手足となって支えるから安心するのだ!」
「ボスはアタシが一生養ってあげるんだゾ! 働かなくていいんだゾ!」
「だから俺はまだ現役だって言ってんだろ!!」
サンネとミラまで参戦し、リビングは一気にいつもの喧騒に包まれる。
騒動の中心で揉みくちゃにされるヘンドリックを見て、ロッテは新しく手に入れた【隠密】の感覚を確かめながら、クスクスと笑った。
「……ヘンドリックさん。二十二歳の私も、よろしくお願いしますね」
自分を「化けさせて」くれた恩師への信頼を胸に、ロッテはまた一歩、最強の遊撃手へと近づくのであった。




