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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第109話:改竄された記憶と、Uターンするおっさん

「はぁっ……はぁっ……急ごう……俺の大切な記憶が……っ!」


 迷宮の中層。地上まであと少しというところで、ヘンドリックの指に食い込んでいた【等価代償の呪環】が、限界を告げるようにバキッと音を立てて砕け散った。


 その瞬間だった。

 極限まで引き上げられていた魔力と身体能力が、急速に元のレベル1へと萎んでいく。

 それと同時に、ヘンドリックの脳内で「パチン」と何かのスイッチが切り替わる音がした。


 ピタッ、と。

 ヘンドリックは階段を駆け上がる足を止め、きょとんとした顔で周囲の岩壁を見回した。


「……アレ?」


 先ほどまでの、血気迫る悲壮な表情はどこへやら。

 ヘンドリックは頭を掻きながら、全くの別人――まるで、今日初めてこの迷宮に足を踏み入れた新人冒険者のような、のんきな声を上げた。


「なんで俺、こんな上り階段を必死に走ってんだ? というか、ここは……迷宮の中層か?」


 呪環の代償。それは記憶の『喪失』ではなく、記憶の『改竄』であった。

 今のヘンドリックの脳内からは、「お行儀見習いから逃げてきたこと」も「四人のヒロインや弟子のこと」も「さっきまで真層で死闘を繰り広げていたこと」も、綺麗さっぱり消え去っている。


 代わりに上書きされたのは、『一攫千金を夢見て迷宮に潜りに来た、ちょっと強欲なソロ冒険者・ヘンドリック』という謎の別人格であった。


「おかしいな。俺としたことが、寝ぼけて出口に向かってたのか? 中層まで来といてそのまま帰るなんて、もったいないにも程があるだろ。魔物の素材、高く売れるのに」


 ヘンドリックはパンッと両手を叩き、まるでピクニックにでも行くかのような軽い足取りでクルリと背を向けた。


「よーし! せっかくだし、ダンジョンでガッツリ稼いで帰るか! 目指せ深層! お宝ザックザクだぜ!」


 かくして、愛する仲間たちのために命を懸けて地上を目指していたはずのおっさんは、鼻歌交じりに、再び迷宮の奥深くへとUターンして消えていったのである。


 ◇ ◇ ◇


 一方、地上の迷宮入り口前広場。

 ヘンドリックが転送の宝珠を使ってから、すでに数時間が経過していた。空は赤く染まり、夕暮れが近づいている。


「旦那様……うぅっ……遅いですわ……」

 エリーゼはすっかり泣き腫らした目で、入り口の真っ暗な階段を見つめ続けていた。

 ブラムもサンネもミラもロッテも、魔力枯渇で動けないまま、絶望的な面持ちで沈黙している。


 だが、一人だけ余裕の表情を崩していなかったルミナリア王女の顔にも、次第に焦りの色が浮かび始めていた。


(……遅いのう。いくらなんでも遅すぎぬか?)


 ルミナリアは胸元のチート魔道具を握りしめながら、内心で冷や汗をかいていた。

 彼女の完璧な計画では、ボロボロになったヘンドリックが地上に生還する。代償で何かを失って絶望する彼に、自分が国宝の魔道具を使って見事救済し、「おお、ルミナリア殿下! あなたこそ真のヒロインだ!」と好感度を独占する予定だったのだ。


(あやつの実力なら、魔物を蹴散らしてとっくに地上に着いているはずじゃ。なぜ上がってこぬ? まさか、迷宮の中で力尽きたとでもいうのか……!? いや、そんなはずは……)


 王女が冷や汗を流していることなど露知らず。

 当のヘンドリック本人は今頃、「おおっ! ミスリル鉱石発見! 今日はツイてるぜ!」と、中層でご機嫌にピッケルを振るっている真っ最中であった。


「……もう夜になりますわ」

 エリーゼがフラフラと立ち上がった。魔力はまだ戻っていないが、執念だけで体を支えている。


「行くのじゃな? わらわも行こう。……どうやら、上で待っているだけではダメなようじゃ」

 ルミナリアも覚悟を決めたように立ち上がった。チート魔道具を使うためには、まずターゲットであるおっさんを見つけ出さなければならないのだ。


「待ってろよ、おっさん……! 絶対に連れ戻してやるからな!」


 かくして、魔力すっからかんのヒロインたちと、戦闘力ゼロの王女による、前代未聞の「Uターンおっさん捜索隊」が結成されたのであった。

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