第1話:涙ながらの追放宣告(周りは自滅を酒の肴にして大爆笑)
水の都ヘラフテンの冒険者ギルド。
一階に併設された酒場は、今日も無事に帰還した冒険者たちの熱気と喧騒に包まれていた。
そんな中、ギルドの中央――最も目立つテーブル席で、わざとらしい、そしてやけに響く『悲痛な声』が上がった。
「――ヘンドリック。本当に、本当に苦渋の決断だったんだ。俺はお前を、手放したくなんてなかった……!」
トップテン入りを果たした新進気鋭の有望パーティー【神創の覇星】のリーダーが、両手で顔を覆いながら声を震わせている。
「俺たちが次に挑むのは深層だ! そこは、レベル1のスキルしか持たないお前にはあまりにも危険すぎる……! これ以上、俺たちの都合でお前の命を危険に晒すわけにはいかないんだッ!」
周囲の冒険者たちが『おっ、なんだ?』と聞き耳を立てる中、リーダーは周囲に【仲間想い】をアピールするように熱演を続ける。
それに同調し、パーティーのアホ女トリオもハンカチで目元を拭うフリをした。
「そうよヘンドリック。私たち、あなたのことが心配で……」
「あなたには、もっと安全で似合った場所があるわ。どうか分かって……!」
「今までありがとう。あなたのことは忘れないわ!」
『うわぁ、こいつら、よくこんな白々しい芝居打てるなぁ』
追放を言い渡されている当の本人、ヘンドリックは、内心でひっそりと呆れ果てていた。
彼らが自分を切り捨てたい本当の理由など、火を見るより明らかだ。全員がレベル10の攻撃スキルしか持たない彼らにとって、すべてのスキルが【レベル1】のヘンドリックは見た目が地味で、トップランカーとしての箔がつかないからだろう。
女たちはホッとしたように息を吐き、すでに小声で囁き合っている。
『ねえ、次に入るレベル10持ちの新メンバー、23歳でイケメンらしいわよ』
『えっ、若いの来たわぁ。私が色々教えてあげなきゃね』
『いや、お前らも昨日まで俺が面倒見て育ててたガキだろうが』
キャピキャピと色めき立つ彼女たちを見て、ヘンドリックは吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
数年前まで右も左も分からずピーピー泣いていたヒヨッコ共が、ちょっとレベルが上がってこの見栄っ張りなリーダーの毒に染まった途端、これである。
「……そっかー。うん、俺も最近、ちょっと深層はキツイかなって思ってたところだしさ」
ヘンドリックは悲壮感ゼロの、いつも通りの飄々とした口調で肩をすくめた。
「俺みたいな地味な裏方が、お前らみたいな『敵からダメージすら受けない最強のパーティー』の足を引っ張っちゃ悪いもんな。わかったわかった、俺は今日で抜けるよ。備品やテントは置いてくから、自由に使ってくれや」
ヘンドリックがあっさり身を引くと、リーダーの口元が『よし、厄介払いが済んだ!』と歪んだ。
「ああ! 俺たちはお前の分まで、最強のトップランカーとして登り詰めてみせるぜ!」
リーダーがこれ見よがしにヘンドリックの肩を叩く。
その光景を、酒場の少し離れた席で飲んでいた『他のトップランカーたち』が、ニヤニヤしながら酒の肴にしていた。
『おい見ろよ。あのアホなリーダー、ついにヘンドリックさんを追い出しやがったぜ』
『ギャハハ! 恩人に向かってあの態度かよ! あのオッサンをもってしても、あのリーダーの矯正は無理だったかー。ウケるわー』
『自分たちがノーダメージだったのは、ヘンドリックさんが裏で全部結界張って攻撃逸らしてたからだってこと、マジで気づいてないんだな』
実は、この酒場にいるトップランカーの半数は、かつてヘンドリックが育て上げ、自立を促して巣立っていった【教え子たち】だった。彼らはヘンドリックの教えを守り、パーティー内にレベル1のインフラスキルを分散して持っている本物の強者だ。
だが、ヘンドリックが普段から彼らに「俺に頭なんて下げるな。俺たちは対等だろ?」とフランクに接しているせいで、勘違いした愚かなリーダーは『他のトップランカーもヘンドリックを下に見ている=俺が一番偉い!』と増長しきっていたのである。
他のトップランカーたちは止めに入る気など毛頭ない。なぜなら、あのウザいリーダーがこれからダンジョンで【トイレも結界もない地獄】を見て転落していくのが、楽しみで仕方がないからだ。
「じゃあな、お前らも元気でやれよー」
ヘンドリックはひらひらと手を振り、ギルドの扉へと歩き出す。
外の空気を吸い込んだ瞬間、彼は思わず顔を綻ばせた。
『やっと……っ! やっと解放された! これで俺の金で、誰にも邪魔されない最高のスローライフの始まりだ!』
休日の採掘で莫大な資産を築き上げているおっさんにとって、金や明日の心配など微塵もない。
真の強者である便利屋のおっさんは、晴れやかな足取りで自由なソロ生活へと踏み出したのだった。




