緑のヴェーダの拠点にて ①
コリフェーオの案内でやって来た場所は、図書館に似た場所だった。
遠近感覚が一瞬で分からなくなった。自分は金属製の手すりを両手で掴み、下を覗き込む。
「ここ、どうなっているの?」
テラスのような場所から上下左右を見る。天井と思しきところにも本が並んだ棚は見える高さだが、三百六十度どこを見ても本棚しかない空間において、『頭上は天井』と見做すべきか悩む。だって、下にも一面の本棚が広がっているんだよ。しかも、光源が見当たらないのに、手元がはっきりと見える程に明るい。
これは自分の隣に立ったコリフェーオに解説を求めるしかない。
「見た目は書庫だが、そう見えているだけだ」
「そう見えているだけ? それって……、本の形をした別物って事?」
「理解が速くて助かる。ここは緑のヴェーダがこれまでに蒐集して来た、『世界樹内の知識や技術を管理している』場所だ。色んな奴が知識を求めてここに来た。今日ここに来たのは、リア――じゃなかった。ククリの魔法技術の記録を残す為だがな」
コリフェーオはわざわざ自分の名前を言い直した。この世界ではどの程度の年月が経過しているか知らないが、自分の感覚で七年も前に名乗った『リア』の名を覚えていたのかと、自分はちょっとだけ感心した。
何時までも感心している場合ではないので、コリフェーオに記録の残し方を教えて貰う。
「やり方は簡単だ。ククリが今掴んでいる手すりに魔力を込めてみろ」
コリフェーオに言われた通りに両手で掴んでいた手すりに魔力を込めた。
「っ!?」
次の瞬間、強烈な頭痛に襲われた。手すりから右手を放して蟀谷を擦ろうとしたが、今度は右手が手すりから離れない。左手も同じだ。
予想外の出来事に、パニックに陥り掛けたが、頭痛は唐突に収まった。
今度こそ手すりから手を放して両の蟀谷を揉もうとしたが、その前にふら付いてしまい、コリフェーオに支えられた。
「大丈夫か?」
「ねぇ、今のって……」
「今のが登録だ。登録する量が少なければ、そこまで頭痛は起きないんだが、予想以上に量があったんだな」
コリフェーオに言われて気づいた。
自分は魔法のアップデートには余念が無かった。しかも、自分が保有している魔法を細かく分類すると、属性魔法八種、概念干渉魔法七種、合計十五種類に分かれる。
これに加えて、自分は生活魔法と、転生先の世界で使えそうだと思ったその世界の固有魔法(自分の中では無属性扱い)も習得していた。
冷静になって振り返ると、滅茶苦茶多いな。
支えてくれたコリフェーオに礼を言ってから、自力で立ち深呼吸を行う。
……そうだ。登録が終わったんだよね。だったら見れるのか?
「コリフェーオ、ここで登録した魔法ってどうやって見るの?」
「手すりを掴んで、知りたい情報を思い浮かべるんだ」
「たった今登録した、あたしの『有機物に干渉する魔法』の情報って見れる? 可能なら、コリフェーオでも習得出来るか否か確認して欲しい」
「分かった。ちょっと待て」
自分は手すりの傍から離れて、コリフェーオに場所を譲った。
コリフェーオは手すりを掴んで、少しの間瞑目した。
「ん~、……この有機物干渉って魔法は何なんだ? いまいちよく理解出来ないんだが」
「簡単に言うと、生物由来のものに干渉する魔法かな?」
「生物由来? 生物には干渉出来ないのか?」
コリフェーオの問い返しに、自分は参考にしたラノベの作中内の紹介文章をそのまま言ってしまった事に気づいた。そしてやっぱりと言うべきか、ファンタジーな世界で生きるコリフェーオは科学に疎いようだ。
コリフェーオでも理解出来るように言葉を選んで回答する。
「言い方が悪かったね。生物にも干渉は可能だよ。何なら、自分の体を弄る事も可能だね。あたしも、たまに髪と瞳の色を変える時に使う」
「髪と瞳の色が変えられる?」
コリフェーオの疑問に答えるように、自分は髪と瞳の色を魔法で変える事にした。
長い黒髪をコリフェーオと同じ髪色の空色に毛先まで色を変える。
左右の瞳をコリフェーオと同じ配置で金と赤に変える。
「スゲェ。そんな事まで出来るのか」
「他には、骨格から体型を変えるとかも出来る。ドラゴンに化ける――竜化が可能な知り合いは、竜化した時の姿を変えていた」
思い出すのはクラウスだ。
クラウスは知らない間にドラゴンに変化する、所謂『竜化』と呼ばれる特殊なスキルを習得していた。しかも、転生先でも使用出来るようにしている。
こればかりは相性の良さが出るので、真似は出来ない。
「へぇ、そんな事も出来るのか。こいつが習得出来れば、俺の出来る事の範囲が広がるな」
コリフェーオは強い興味を示した。
――これなら、仮に時間が掛かろうとも、有機物干渉魔法の習得をしてくれるかもしれない。魔法の適性は、クラウスと言う前例を考えると高いだろう。
髪と瞳の色を戻しながら、そんな事を思った。
「習得は出来そう?」
「多分が付くが、俺は正しく習得出来れば使いこなせるだろうが、グーフォは魔法が苦手だから分からん」
意外な情報を聞いた。そうか、グーフォは魔法が苦手なのか。易々と飛翔していたのに、何か意外だ……じゃなくて。
「コリフェーオ、何か引っかかる言い方をしなかった?」
「その前に、ククリはこの魔法はどうやって習得したんだ?」
質問に対して質問で返された。しかも、質問の内容は非常に答え難いものだった。
「……伝聞で聞いた魔法を、見よう見真似で色々とやっていたら、習得出来た」
正しくは、ゲーム内で知らない間に習得していた想像構築で、想像した通りの魔法を発動させただけだ。
「ククリ以外の奴はどうやって習得したんだ?」
「万が一、思い出せなくなったり、忘れる事が無いように魂に直接刻んだの」
――魂に刻む。
表現的には『悪いもの』のように感じるかもしれないが、簡単な魔法であっても『魂を込めた魔法が使用出来る』と言う利点が存在する。
事前に一度、相談相手と一緒に試した事があるのでその効果は確かだ。
どれだけ魂を込めた魔法であっても、魔法との相性と習熟具合次第では、残念な結果に終わる。
それを差し引いても、忘れないと言う利点は大きい。
魂に刻む事で得られる利点について知ったコリフェーオは、目元を少し痙攣させた。
「……相変わらずやっている事がさり気無く高等技術だな。……いや待てよ。魂に直接刻むのなら、確実に習得出来るのか?」
「出来るよ。ただ、使いこなすにはそれなりの修練が必要だけど」
「良し。だったら――」
「でも、今のあたしじゃ、審判者の魂に干渉出来るか分からない」
食い気味で現状での懸念を口にしたら、コリフェーオは動きを止めた。すっかり忘れていた模様。
「緑の中の緑に掛け合って、ラートの能力の核を借りるか。それとも、本人の手を借りるか。悩ましいな」
「悩ましいって、緑の中の緑ってそんな事が出来るの?」
コリフェーオの独り言に近い言葉を聞いて、『コリフェーオは自分の魂に、ラートの能力の核の欠片が入っている事を知らない』と言う事を知った。緑の中の緑が教えていないと言う事は、自分も教えない方が良いのかもしれない。
内心で情報の扱いについて決めてから、自分はコリフェーオに質問をぶつける。
「コリフェーオ。緑の中の緑の審判者としての能力ってどんなものなの?」
「滅茶苦茶出鱈目だぞ。数いる審判者の中でも上の上に入る。審判者の全ての核は判明していないが、上から数えた方が早い。しかも、審判者としての複数の名が持てるんだ」
「……どう言う事?」
質問の回答の意味が解らなかった。そもそも、審判者が『管理化身の上位存在』程度の事しか知らない。
「審判者の名前と能力は一致する。だから、基本的に、一人につき一つの能力しか持てない。だが、何事にも例外が存在する証拠なんだろうな。緑の中の緑の能力もその例外に分類される。そうだな、簡単に言うと……複数の渾名を持っているような感じだな」
「二つ名みたいな扱いなのね」
コリフェーオの回答を聞いて、自分なりに簡単に纏めて口にした。コリフェーオが『そうだ』と肯定したので外れてはいない。
先程会った緑の中の緑が、想像を超えるヤバい存在だった事が発覚した。
派閥の代表だから『それなりに上位』だとは思っていたが、思いっ切り上位で吃驚だ。
そして、そんな人に頭を下げさせるような馬鹿を仕出かした奴がいた事にも驚愕してしまう。
もしや『緑の中の緑は胃痛枠なのか?』と訝しんでしまう。
「ま、名が二つある事の方が苦労する面も多い。特に、二つ以上持っている奴は重要な名を隠す傾向にあるから、どんな能力を持っているのか分かり難い」
能力は使わなければ判明しない。でも、隠し通す事が出来るものなのかと疑問も出て来る。
……やっぱり、審判者は分からない事が多過ぎる。そもそも、審判者はどうして誕生したんだ?
緑の中の緑の言葉を信じるのならば、緑のヴェーダには元となる集団が存在した。
これが事実ならば、他の四つの派閥にも元となる集団が存在した可能性が高い。
「難しい話はここまで。魔法の記録が終わったんだ。休憩にしようぜ」
自分は思考が煮詰まらないようにする為にも、コリフェーオの提案を受ける事にした。少し休憩を取らないと、余計な事まで考えてしまいそうだ。
コリフェーオの案内で、再び移動する。
ただひたすら、一直線に続く薄暗い通路を歩いているだけなのに、目的地に到着する。
緑の中の緑と会う前もそうだが、ここは一体どうなっているんだろう。
暫くの間歩き続けて、現れた大きな両開きの扉をコリフェーオが押し開けた。
扉の先は外に繋がっていて、薄暗い場所から出たので眩しいと感じた。見渡す限りの草原が広がっているが、眩しさに目を細めて空を見上げると小さな浮島が点々と存在する。
「置いて行くぞ」
暫しの間、空を見上げていたが、コリフェーオの声を聞き、自分は視線を下げて正面を見た。コリフェーオの姿が遠く離れている。自分は慌てて走り、遠のくコリフェーオの背中を追った。
コリフェーオが向かった先には、四阿のような石造りの建物があった。四阿の床には魔法陣が刻まれている。コリフェーオに手を引かれて魔法陣の上に立った。コリフェーオが爪先で魔法陣を叩く。
次の瞬間、視界の景色がどこかの屋内に一変した。
「転移したの?」
「そうだ。ここは俺らのエクゼクティスト用の宿舎みたいなもんだ」
「……それって、紫とグーフォもいるって事?」
「そうなるな。噛み付いたりはしないから心配するな。ただ、ちょっと見た目が人間離れしている奴がいるが、性格は真面だから心配するな」
心配するなと言われてもね。
グーフォがいる時点で、余り安心出来ない。いざとなったらコリフェーオを盾にしようと内心で決めた。
もう少しエントランスホールと思しき屋内を観察したいが、コリフェーオがとある出入り口に向かって歩き出したのでついて行く。
「それにしても、勧誘されるかと思っていたのに、何も言って来ないのね」
コリフェーオの後ろを歩きながら、ふと思った疑問が口から出る。
「ベーノ・アウ・マルベーノの所有者を味方に引き入れてみろ。他の派閥――特に青のブルゥアがどう動くか、まったく分からない。上の連中が話し合い『緊急時に協力し合える関係が一番安全だ』って事になった」
「緊急時の共闘相手か。確かにそれが一番良いわね」
線引きされた関係が一番安全だ。
どうやって一線を引くか考えていたけど、コリフェーオからありがたい提案を受けた。これは受ける他ない。
「あとでユカリが開発した、世界を越えて通信出来る道具を渡す。何か起きたらそいつで連絡を寄越せ。審判者を見たって言う情報でも良い」
「そんな情報を教える為に使って良いの?」
さらっと、紫がとんでもないものを開発したと明かされた。
そう言えば、紫は第二の鎧として作ったパワードスーツの設計図の図面を出したら興奮していたな。しかも、第二のパワードスーツの図面引きで結構盛り上がった覚えがある。
「ああ。他所の派閥の奴がどこでどう活動しているのか分からない。だが、目撃情報があれば後手に回る可能性は減るし、近場の世界で活動している奴に対して警告を飛ばす事も可能だ」
コリフェーオの言葉をそのまま受け取るのならば、お互いにメリットがある。
自分は相談相手が得られて、コリフェーオ達は情報が得られる。唯一の不安は、他の派閥から『協力者』と見られる事か。
「遭遇する確率は低いだろうけど、連絡を入れる程度なら良いよ」
「それだけでも十分にありがたい」
メリットとデメリットを天秤に掛けて、自分はメリットを取った。
審判者と遭遇する機会は滅多にない。審判者と遭遇する確率を考えると、非常に低い。
確率は低かろうが、本当に遭遇したら戦闘になりかねないのだ。連絡を入れるだけで己の身が守れるのならば安い。
会話が途切れて沈黙が下りた。二人分の足音だけが廊下に小さく響く。
暫し歩き続けて、とある部屋の前でコリフェーオが止まった。コリフェーオは扉を開けて中に入る。ほんのり甘い匂いがした。
「戻ったぞ」
「おかえり~」
室内から間延びした声が聞こえて来た。この声は、聞き覚えがあった。
コリフェーオの背中から顔を出して室内を確認すると、そこには真剣な表情で鉄板と向き合う紫がいた。紫の視線は鉄板に向いており、両手には千枚通しが握られている。
紫の左右には自分を見るなり口を引き結んだグーフォと、瑠璃色の髪を土器みたいな太さの縦ロールにした知らない女性がいた。タレ目気味の瑠璃色の瞳と視線が合った。
「コリフェーオ、後ろの女性はどなたですの?」
「デトルゥーオ。……今日は外部から一人連れて来るって言っただろ。それがこいつだ。そんでユカリは何をしているんだ?」
コリフェーオは漏れそうになったため息を飲み込んでから、デトルゥーオと呼んだ女性の疑問に回答した。疑問に回答するついでに放たれたコリフェーオの疑問は、当の本人から返って来た。
「ミニアメリカンドッグを焼いているの」
「みに? あめりかん? なんだそりゃ?」
英語を知らないのか、コリフェーオは分かりやすく困惑した。
「フレンチドッグか。地域によって呼び方は違うけど、ほんのり甘い生地の中に肉の腸詰が入っている」
懐かしい食べ物の名前を聞いた。困惑するコリフェーオに説明するように自分は口を挟んだ。
「ん? 誰の解説――って、菊理じゃない! 久し振り~」
鉄板から顔を上げた紫は自分を見るなり、喜色満面の笑みを浮かべた。
多少の違いはあれど、自分と紫の出身地は同じなのだ。ここにいないパーティメンバーよりも話が合う。紫との再会は嬉しい。でも、今の紫は鉄板と向き合っている。
「焦げるよ」
「おっと」
指摘したら紫は視線を一瞬で鉄板に戻し、慌てて千枚通しを使い鉄板の上のものをくるくると回す。鉄板の上で回転しているものは、茶色いのでミニアメリカンドッグ(地域によってはフレンチドッグとも言う)と言うよりも、たこ焼きに見える。
「何時見ても、焼き上がるまでの工程が面白いですわね。実際にやって見ると難しいのに」
「それは慣れだと思うな~」
「ユカリ、グーフォは何度やっても出来ていませんわよ?」
「……何事にも向き不向きってものが存在するのよ」
紫の回答には少し間があった。グーフォは不満げな顔をしているものの何も言わない。
完成したのか、紫は鉄板のミニアメリカンドッグを取り皿に移し始めた。その間に、コリフェーオにお願いして瑠璃色の女性を紹介して貰う。
「私はデトルゥーオですわ」
「デトルゥーオは俺よりもここに長くいるから、知識は豊富だぞ」
当人とコリフェーオから簡単な紹介を受けた。
自分は簡単な自己紹介をしながら、デトルゥーオを少し観察する。
何だろう? デトルゥーオの衣装は『お嬢様風』なのに、『狼』っぽい印象がある。打撃関係でマルタとキャラ被りだけは止めて欲しいところだ。
互いに簡単な自己紹介を終えたところで、これまで無言だった紫が口を開く。
「割って入るけど、コリフェーオはどうして、菊理をここに連れて来たの?」
ミニアメリカンドッグを取り皿に移し終えた紫は、千枚通しを持ったままコリフェーオに尋ねた。
「緑の中の緑がククリに依頼を出したから、暫くの間、ここにいる事になった」
「依頼? 緑の中の緑が?」
「本当ですの?」
「そうだ。俺とグーフォからするとお節介な依頼だ。だが、ユカリの負担について言及されると、お節介とは言い難い」
コリフェーオの回答を聞いた紫とデトルゥーオは顔を見合わせてから、こてんと、首を傾げた。そのまま数秒ほど見つめ合い、紫が小さく声を漏らして首を戻した。
「支援者との交渉の事か。話しやすいからって、私が指名で呼ばれていたっけ」
「それだ。ここの纏め役は俺なのに、俺以外の奴――特にここからあまり出るなって言われているユカリが支援者との交渉をする為だけに出るのは、色々と問題がある」
「引き籠り扱いされかねないから、別に良かったんだけど。まぁ、実際に私が下っ端だからって足元を見る支援者は確かに居たから、緑の中の緑もそれを気にしたのかもね」
「足元を見られるって、一番気にする事だろ」
「そう? 緑の中の緑が何をやったのか知らないけど、次に会うと平身低頭で謝罪されるんだよね」
「……それは絶対、誰かが何かをやったと見て良い。今後その手の二度手間を省く為だな」
「おお! コリフェーオがマスクから卒業するのか」
「私もコリフェーオに限っては良いとは思います。ですが、グーフォの場合は霊力量が足りていないから起きている問題ですのよ? その問題はどうしますの?」
ここで自分に水を向けられた。内部の話を聞いていて内心で『へぇ~』と感心していた時だったので、少し焦った。けれど、グーフォの問題は『両目』なので質問の回答はどう考えても二つしかない。
「眼鏡か、コンタクトレンズを作るよ。レンズの部分に手を加えれば良いだけだから、これが一番簡単かな」
「その二択なら、眼鏡が良いんじゃない? サングラスとか、色付きのレンズにすれば、誤魔化しが効くかも」
紫以外の三人が『コンタクトレンズ? 何それ?』と言わんばかりの反応を示した。流石にコンタクトレンズは知らなかったか。
紫がコンタクトレンズを知っているのは当然だけど、その紫に眼鏡が良いと言われた。グーフォの事を知る紫からの意見なので、何か理由がありそうだ。
紫の意見を取り込みつつ、どうするか考えて意見を述べる。
「それなら、眼鏡に認識阻害系の術を付与するよ。それで『瞳に異常は無い』って認識させれば良いんだし」
「へぇ、そんな手段が存在するのか。それならグーフォに魔法を覚えさせなくても良さそうだな」
コリフェーオが歓心の声を上げた直後、地獄の底から出て来たような低い声が響いた。
「……コリフェーオ、それはどう言う事だ?」
「グーフォ、魔法が苦手だからって嫌がるんじゃありません」
声の主はグーフォだったが、デトルゥーオから幼子を叱るように言われてしまいそっぽを向いた。グーフォの反応は正に子供のようだった。
初めて会った時のグーフォの印象が音を立てて崩れて行く。ギャグ堕ちと言うより、これがグーフォの素顔なんだろう。
このあとは紫が作ったミニアメリカンドッグを五人で食べながら、グーフォが使用する眼鏡のデザインについて話し合った。
グーフォにも眼鏡のデザインについてリクエストが有るか尋ねたが、『レンズが大き目であれば色と形は任せる』と言って、自分に丸投げした。
紫とデトルゥーオの二人が主導になってデザインを考え、時々コリフェーオに意見を求めて、眼鏡のデザインは決まった。
眼鏡のデザインが決まったら、コリフェーオから『今日はここまで』と言い渡された。
「デトルゥーオ、ククリを空き部屋に案内してくれ」
「分かりましたが、私で良いのですか?」
「昔、ユカリがここに来た時にも言った気がするが、女同士の方が何かとやりやすいだろ?」
「確かに、言われましたわね」
コリフェーオは自分をデトルゥーオに託す言葉を残し、グーフォを連れて退出した。二人がどこへ向かうのか知らないが、尋ねる気にはなれなかった。
扉が閉まるなり、紫は自分の手を掴んだ。
「コリフェーオはあんな風に言ったけど、せっかく女子が三人揃ったんだから、私の部屋で女子会とか、パジャマパーティーをしようよ」
「名案ですわ。女子会の料理は、ククリ、希望はありますか?」
男二名がいなくなった瞬間、女子会の開催が決まった。紫とデトルゥーオ仲の良さが判るテンポの良い会話を聞きながら、女子会向けの料理を思い浮かべる。
後に判明するが、女子会と銘打っているだけの歓迎会だった。
そんな未来が来る事を知らずに、自分は女子会向けの料理について悩み込んだ。
そして女子会は、デトルゥーオが持ち込んだ大量の酒瓶が原因で、紫とデトルゥーオが潰れるまで酒を飲む事になった。
初日は女子の二文字とは程遠い、三人揃って床の上で雑魚寝する事で終わった。
翌日、様子見で来たコリフェーオに呆れられた。




