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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第三章 かぐや様の覚醒(?)
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美原野高至様の決意

わたくし美原野高至は、かぐや様のお陰で生まれ変わりたると言いても、決して大袈裟ではない。

以前のわたくしは、真実の心を隠して『日見国の三の殿』の役柄を演じていたに過ぎぬ。


かぐや様にお会いする前のわたくしは、国守様の三の殿という高き身分でありながら、自らを信じられぬ自虐の檻の中にいた。


わたくしの母上様のうとら様は、鹿耳国の一の姫様なりしも、鎖国を解くに当たり日見国に人質として差し出されしも同然の境遇である。

母上様は育ちたる鹿耳国との習慣の違い、言葉の違い、容貌の違いに未だに苦しんでおられる。


母上様が心安らかに話せるのは、共に日見国に来たる乳母と乳母子のみで、わたくしを産まれてからも人前にはほとんど出られぬ。

やむを得ず人前に出ねばならぬ時は、いつも鹿耳国の厚い布と冠を被っておられる。


わたくしは不幸にも母上様と大層よく似た姿形で、国守様始め他の方から見下げられておるのは、幼き頃から嫌でも感じられた。

わたくしが相手を見ると、いかにも薄気味悪そうなお顔をなさって、目を逸らされるのだ。


わたくしは相手に何も害意を抱かぬが、容姿のせいで相手から恐れられ理不尽な仕打ちを受ける。

わたくしは少しでも日見国の方々に良く思われようと努力もし、酷い言葉も使わず、都風の化粧もしたが、わたくしに対する目は変わらぬ。

わたくしは己の心を隠し、三の殿を演じる事で己を護って来たのだ。


しかし先頃、月の国よりかぐや姫様が降臨された。

わたくしはその噂を聞きて、かぐや姫様にはわたくしの気持ちを解って頂ける、と信じた。


月の国は日見国とは全く異なりし所であろう。

異国から来られたのなら、日見国の普通の容姿ではないわたくしの姿も気になさらないのではないか。


わたくしは国守様にお許しを頂きて、久我根館を訪れた。

わたくしは長い間頭痛に悩みおりて、死者を生き返らせたというかぐや様の神通力を、我が身にも頼みたき気持ちもあったのだ。


わたくしは、かぐや様があれほど美しき方だとは思わずにお会いした。

美しき姫と言う噂はありしも、まさかあれほどの方とは思わずにいた。


久我根館を訪問するには然るべき贈答品が必要だが、鹿耳国は貧しき国で、産物も少なく、都風の雅な贈り物はできぬ。

薄絹と黄金の冠は鹿耳国よりの献上品であるが、わたくしがかぐや様に贈れる精一杯の贈り物であった。


その薄い絹の布と金の冠を被られたかぐや様のお姿を初めて見た時は、息が止まるほどの衝撃を受けた。

絹の布から下のお顔が透けて、漆黒の瞳やふっくらとした頬の辺りが見え、カラスの濡れた羽根のような黒髪が肩の辺りに掛かっていた。


何と美しく、清らかで神々しいお姿であろうか。

刀自様に促されてわたくしの前に進み寄られた時も、光り輝くばかりで、思わずわたくしは無作法にもかぐや様に手を伸ばした。


わたくしを見たかぐや様の黒き瞳には、わたくしが見慣れた嫌悪の色は無く、ただ初めて見る人に対する興味の気持ちがあるだけだ。

わたくしは今までの不幸な生い立ちで、人が自分をどう思うかを察知できるのだ。


わたくしが出した手に、かぐや様は嫌がる様子もなく、素直に小さなお手を出されたが、指先が触れた瞬間、雷が落ちる如きの激しい電撃を感じた。

そして、その時よりあれほど悩まされていた頭痛が消え去ったのだ。


わたくしはかぐや様こそがわたくしに定められた運命の姫様と確信する。

かぐや様より電撃を受けしは嫌われた故かと怖れたが、かぐや様は衝撃を受けたわたくしを思いやって下された。


その後はわたくしは酔ったようになって、ひたすらかぐや様のお顔をもう一度見たい、お近くに寄ってお声を聞きたしとばかり思い悩んでいる。


鷹狩りに言寄せて、また久我根館を訪れた折りには、突然訪れたわたくしをかぐや様は優しく迎えて下さり、素顔で繕わぬわたくしに好意ある眼差しすら与えてくれた。


今まで一度も姫様方に好意を見せられず避けられてばかりのわたくしを、かぐや様は唯一優しき目で見てくれる。

ただ、お文を何度差し上げても、わたくしの真実の心をお伝えしても、お返事は決まりきった儀礼的な物ばかりで、焦燥が深まるばかりだ。


国守様には何度かぐや様と婚姻したき望みをお伝えしても、お許しは頂けぬ。

更には、一の殿高継様や二の殿高雄様まで求婚なさり、ついには大国那加国の中将様までおいでになる。


中将様をお見受けすると、日見国でも色好みと評判の噂以上の美男で、あのような方に求婚されれば、かぐや様もお心を移すに違いない。


今はまだ中将様もかぐや様より色よいお返事は頂けぬ様子だが、武力を使ってもかぐや様を諦めぬと言われたので、このままではかぐや様は那加国にお輿入れしてしまうであろう。


わたくしはもしかぐや様を失えば、この先どう生きれば良いかわからぬ。

日見国で不遇のまま絶望の中で生きるくらいなら、かぐや様を盗み奉りて国境を越え、鹿耳国でひっそりと幸せに生きる方がずっと良い。


国守様に鹿耳国との同盟の話をすると願い出て、国境を越えるお許し状を頂こう。


裳着の式が終わると盛大な宴になるので、密かに準備してわたくしも久我根館に行き、隙を見てかぐや様をさらってしまおう。

そのため久我根館の屋敷を探って、どこにかぐや様がおられるのか、警備を如何にしているのかを事前に調べておかねばならぬ。


幸いにも今回、中将様をお送りする接待役に手を上げて、国守様のお許しが出たので、侍女のさやに探らせよう。

女の侍女ならば、警戒もされぬであろう。



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