日見国の国守様の第一のお方様ききょう様
わたくしは日見国の国守美原野高見様の第一のお方様であり、並ぶ者無き美妃ききょう様と民に崇められおります。
わたくしは南の大国、那加国の三の姫様でございました。
那加国の一の姫様、二の姫様は都のお貴族様の元にお輿入れされましたが、わたくしは国守東藤春宣様のご懇願により北の日見国にお輿入れしたのでございます。
ちょうどその頃、両国で国境の争いがあり、和睦の証として不運にもわたくしがこの鄙の国にお輿入れした訳でございます。
日見国の国守高見様は、大国の姫様であり美しく賢きわたくしを見て大層喜ばれ、第一のお方様として重くお取り扱いになられました。
わたくしが産み参らせた一の殿様、高継様は御歳十九となりました。
幸いにもわたくしに似て、大層聡く美しき若殿様でございます。
わたくしは、一の殿高継様のために、那加国の由緒ある姫と縁を結ばんと願いおるのでございますが、丁度良き年回りとご身分の方がおられず、未だ正式なるお方様のおられなきは非常に残念でなりませぬ。
ところがこの春に突然、月の国よりかぐや姫様が降臨され、久我根館の刀自様の養女になられました。
殿方様は皆こぞって我が妻にと求婚いたしたれど、かぐや様はいまだに誰とも縁を結ばず、気位高く拒みおるそうでございます。
世にも稀な美貌と評判の方なれど、尊いお生まれの方ならば、容易くお顔をお見せになるはずもなく、皆噂を当てにして想像で語るのでございましょう。
高継様も三の殿高至様の話を聞かれ、高至様のかぐや様への余りのご執着に惑わされ、我も婿になりたしと、わたくしに相談もなく勝手に文を届けられたのでございます。
那加国の姫に贈るべき扇は、都よりわざわざ買入れし貴重なる扇でありしに、高継様が文に付けて贈りたるは一時の気の迷いに相違ございませぬ。
むろん久我根館の刀自様は、返礼を折り目正しくなさる方であるから、駿馬をお返しに頂いたものの、また都に扇の仕立てを注文せねばなりませぬ。
月の国の姫などと言いしも、どこまで真実かは分からず、月の国が我が国に加勢もしていただけぬのなら、将来の国守様である一の殿様には、やはり那加国より由緒ある姫様にお輿入れして頂くのが順当と言えましょう。
或いは逆に考えれば、かぐや様が那加国に嫁がれたら良いのではなかろうか。
そうじゃ、わたくしの甥の中将様加賀美経宣様は、大層な美男であるし、風流な方でもあるから、かぐや様には身分からしても丁度良き縁組みであろう。
北の対に国守様がおいでになられた時に、ご相談してみねばならぬ。
わたくしはお人払いをお願いし国守様に申し上げる。
「ただいま国で色々な噂となっておられる、月の国より参られたかぐや姫様の事でございます。
世の噂に惑わされ、かぐや様を巡りて嫁取り争いて、殿様方の間に風が吹く気配でございます。
婿が誰に決まりても後に遺恨を残し、身内で争う種になりては日見国が内より崩れてしまいましょう」
「......うむ......確かにそうじゃ......お方様は如何考えおるか」
「そこで、でございます。わたくしの甥の那加国の中将様は、那加国の軍の中枢でございますし、国守東藤春宣様の覚えもめでたく、那加国に力のある殿方でございます。
中将様にかぐや様をお輿入れされたらいかがでございましょうか」
「......なるほど、中将様か......ただ、幾人か既に妻をお持ちではないか」
「権力もあり、美男でもある中将様が、幾人かの妻をお持ちなのは問題ありますまい。風流な方でございますから、女人が放ち置かぬのでございましょう」
「......確かにそうかも知れぬ。中将様は色好み(風流人)とわが国にまで知られおるほどに」
「今回また、那加国が侵略する恐れありと殿方は騒がしく戦に目を向けておられますが、何故に仲良う暮らすことに目を向けられないかと思うのでございます。
そのためにも両国の間で人の縁を結び、和を尊べば、争いも無き平和な世となりましょう」
「さすがはお方様じゃ。良い事を考えつかれた。
それでは早速中将様に文をお出しして、日見国にご訪問頂くのだ。
久我根館は南の迎賓館でもあるから、中将様はそこにお泊り頂いて、かぐや様とお会いなされるように取り計らおう」
わたくしはすぐさま中将様に文を送り、日見国においで頂くようにお願いいたしました。
那加国でもかぐや様の噂は広がりていたらしく、中将様は大層乗り気で、直ぐにもこちらにご訪問されるとお返事を頂きました。
那加国の国府より日見国の国境までは凡そ五十里(約二百キロメートル)、歩けば七日ばかり、馬でも三日はかかりましょう。
うまく事が進みて、争いの無き世となるを願わずにはいられませぬ。
中将様は那加国で名高い風流人で、超絶美男と言われる方です。




