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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第二章 久我根館のかぐや様誕生
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裳着の式は三日三晩も続くそうです

刀自様は溜め息を大きくつくと、頭を振って話を続ける。


「かぐや様の裳着のお式は、一と月ほど後になりますが、勿体なくも国守様が裳着親を為され、かぐや様のお腰に裳をお結びになられます」


ええっ!国守様までいらっしゃるのですか?

なぜそんな事になるんだろう。


「それまでにどちらの殿様と縁を結ばれるか、決めねばなりませぬ。

これは容易く決められる事ではございませぬ」


「え、裳着の式をしたら、すぐ縁を結ぶのでしょうか?」


「裳着のお式の後は三日三晩の宴となり、その間、縁を結ばれた殿様は久我根館にずっとおいでになります。

三日目の夜の宴で、正式なるお婿様となられるのでございます」


つまり、裳着の式というのは単なる成人式じゃなくて、結婚式も兼ねているのですか!

三日三晩も結婚式が続くのですね。


「ただし今は那加国との争いの恐れあれば、久我根館での宴を一夜のみとし、すぐに国府へお興入りされるかもしれませぬ」


あたしは想像もしていなかった事態に呆然とする。

あと一ケ月であたしの結婚が決まってしまうなんて。

あたしはまだ中学を終えたばかりなのに。

しかも三歳も歳を少なくサバ読んでいるのに、この世界の人は十二歳で人生が決まってしまうんだ。


「あたしの希望は通るんでしょうか?」


できることなら、巽様が一番良いんですけど。


「国守様までおいでになるのであるから、我等の望みは通るまい。

むしろそうであるなら、国守様がどの殿様と決めて頂けば宜しいのであるが、なかなかそうもいかぬのであろう」


やっぱり刀自様でも、国守様には逆らえないんだ。


「順当に思えば、一の殿様であろうが、母上様も那加国の姫様にて、いずれ第一のお方様は那加国よりお興入れになるであろう。さすればかぐや様は除けられるに違いない。

しかも母上様は権高い方であるから、難しい事も多く起きるであろう」


あたしは姫様としての教養も身についていないし、立ち居振る舞いもダメだから、将来の国守様の奥様なんて到底勤まらない。


それに日見国が那加国と摩擦無くやって行くには、那加国との政略結婚が必要なのですね。


「二の殿様は後ろ盾が大磐国では頼り無く、しかも風流を全く解さぬあのお方では......」


あたしはまだ一の殿様にも、二の殿様にもお会いしていないが、ある程度は贈り物や歌で判別できるかもしれない。


「三の殿様はやはり後ろ盾が鹿耳国ではおぼつかなし。優しき方とは言えど、あのご容姿は......」


いや、刀自様、高至様のご容姿に関しては、公家化粧さえしなければ問題は無いのですが。

ただ、巽様と会う前だったら喜んで結婚したかもしれないけれど、今はもう気が進まない。


「いずれに致しましても、これから殿様方よりの文や贈り物、ご訪問等もございますので、かぐや様はそのお積りで。

ご自分でお文を書かねばならぬ場合も増えますので、更に習字と琴の練習をなさいませ」


相手の身分に合わせて失礼の無いように歌の返事を書くなんて、あたしには難しすぎるのにどうすれば良いんだろう。


「刀自はこれから国守様や殿方が何時お訪ねになっても宜しいように、久我根館の準備や裳着の式の準備で毎日あちらこちらへ飛び回る事になりましょう。

殿方へのお返事はお一人で出さぬよう、必ず侍女のまつにお見せ下さい」


むろん、王子様からの手紙を一人では読めないし、返事などなおさら出来ません。


「ところでかぐや様、刀自は馬に振り落とされしより腰が痛むのですが、少し刀自の腰に手を当てて下さりませぬか」


刀自様、刀自様まであたしの力を信じているんですか?

絶対治りませんよ!


「手を当てるのは構いませんけど、腰痛は多分治らないですよ」


あたしは刀自様に近付いて、横になった刀自様の腰に手を当てる。

電撃も、光も、何も起きない。

まあ、そうだろうね。


「......うむ......何も変わらぬな。では、刀自の手を取りて下され」


高至様の時のように刀自様を感電させるのではと思って、怖々刀自様の手を握る。

やはり、何も起きない。

そういえば、すずちゃんに手を取られても、何も起きないのだった。


「かぐや様、これは如何に」


あたしに聞かれても困ります。

知りたいのはあたしの方なのだから。

刀自様は頭を傾げながら、あたしに部屋に戻って習字をするようにと言った。


あたしが気になっているのは、それよりも巽様のことだった。


あたしはもう一か月もしたら、国の王子様の誰かと結婚しなければならないけど、それについて巽様はどう思っているのだろう。


ゆうべ巽様は、あたしが巽様を『墨の跡』と思っているのか、と厳しい声で言った。

あの時は抱きしめられた嬉しさに、巽様もあたしが好きなんだと思ったけれど、もしかして、巽様は何か侮辱されたと思って、怒りのあまりにあたしの腕を掴んだのじゃなかろうか。


だから、スマホのライトが点いてハッと自分を取り戻して、申し訳ありませぬ、と謝ったのかも。

あたしは巽様を『墨の跡』なんて言っていないけど、どこかで誤解する言葉を聞いたのかも知れない。


「ねえ、すずちゃん、墨の跡が付いているって悪口はあるの?」


「そうでございますね。例えば煤で顔が真っ黒な時とか、習字で書き損なって顔に墨が付いたとかでしょうか。あとは、罪人が腕に墨を入れられます」


「そっかぁ。あまり良い言葉じゃないのね」


あたしは巽様を侮辱してしまったらしい。

それに、要らなくなった練習用紙でお手紙を書いて、小さく結んで渡したのも失礼だったのだ。


だけど、お見舞いに行って話す事ももう出来ないし、正式な手紙も書けないから、どうやって巽様の誤解を解いたら良いんだろう。



『木石』を『墨跡』と思い込んだので、また迷路にはまり込むのです。

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