日見国の王子様から贈り物を頂きました
ゆうべは嬉しくて、一晩中でも起きていられると思ったけど、結局眠ってしまった。
朝起きると、嬉しさが続いていて、頭の中でヒバリが鳴いている。
巽様の事を思い出すと、顔がへにゃっと緩んでしまう。
ただ、巽様に抱きしめられた時、突然スマホの明かりが点いたのはなぜだろう。
前からスマホは電源を切っておいたけど、しばらくしたら充電も切れていた。
誰も側にいない時に胸元からお護り袋を出してスマホを確かめると、何とフル充電されている。
勿論この世界には電気もコンセントも無いから充電のしようも無かったけど、どうしてフル充電出来たのだろう。
あの時スマホのライトが点かなかったら、どうなっていたのだろう。
巽様はライトが点いたので驚いて離れたのだ。
すずちゃんが戻って来たので、慌ててスマホを胸元に戻す。
「かぐや様はとてもご気分が宜しいようですね。今日は何か良き事がおありでしょうか」
すずちゃんに指摘されてしまったけど、さすがにゆうべの事はすずちゃんにでも話せない。
「刀自様が昨日国府に行かれて、国守様からたくさんのお品を頂いて帰ったそうです。すずちゃんも何か貰えるかもしれませんよ」
そんなことを言って誤魔化していたら、刀自様に呼び出された。
刀自様のお居間に行くと、刀自様は難しい顔をしている。
「国守様の一の殿様と二の殿様よりのお文を、刀自がお預かりして参りました。
お二方様よりの贈り物もございますれば、ご覧下さい」
ええっ、三の殿の高至様だけじゃなくて、他の王子様からのお手紙もあるんですね。
何だか面倒なことになる予感がする。
「一の殿様は、お母上様が那加国の国守東藤春宣様の三の姫様で、大層に権高き方でございます。
以前に一の殿様に那加国の八の姫様の許嫁のお話がありし時は、八の姫様のお母上様の出自を問題にされ、お断りされたことがございました」
第一王子様の母上様は、プライドが高く身分に拘わる方なのですね。
じゃ、あたしなんか一番先に却下でしょう。
「一の殿様の贈り物は、螺鈿造り絹張りの扇でございます」
立派な漆塗りの箱に入っているのは、外骨に綺麗な貝を嵌め込み、中骨には絹の布を張った扇だ。
これはきっと文化財クラスだ。
扇の上にきちんと畳んであるお手紙が入っている。
どうせ読めないので、刀自様に読んでもらう。
「高照らす......日見の美原......風吹かば......君に伝へよ......我が心根を」
う~ん。これは格調高いけど分かりやすい歌なんじゃなかろうか。
「流石は一の殿様。扇の贈り物に風の歌はお上手でございます。
夏に扇も、季節に合うております」
そうか。贈り物をする時は季節に合うものを考えるんだ。
「この前、三の殿様より黄色い花の枝を頂きましたが、あれは何でしょう?」
「あの花は山吹でございます。『山吹色』というは黄金の色でございますから、かぐや様が被られし黄金の冠に寄せられたお歌と贈り物でございましょう」
今日は刀自様の言葉が妙に丁寧な気がする。
国守様や王子様の話題なので、丁寧に喋っているのだろう。
「それからこちらは二の殿様の贈り物でございます」
二の殿様の母上様は、日見国の北側の国、大磐国の一の姫様で、日見国の国守様の第三のお方様だそうだ。
この方はあまり外に出ない方で、詳しいことはわからないと刀自様は言う。
刀自様の横にドーンと置いてある竹籠が、二の殿様の贈り物だった。
侍女が二人掛かりで籠の蓋を開けると、中から出て来たのは真っ黒い熊の敷物だ。
大きな熊の頭も、手足の爪まで付いている。
「......これはまた......大きなる贈り物でございますな」
刀自様も呆れたように熊の敷物を見ている。
こんなものを敷いていて、夜に間違って踏んだりしたら、ギャーって叫ぶ自信がある。
「夏に熊の敷物とは......」
刀自様は熊の頭をポンポンと叩く。
「此春大熊様なら喜ばれようか......これは竹籠に戻して塗籠に置くように」
籠の中にはやはりお手紙が入っている。
ゴワゴワした厚手の和紙に書いてある。
「御駒山......峰より降る......祝川......川辺で待つは......若草の妻」
これは、残念な贈り物と残念な歌かもしれない。
刀自様も沈黙する。
「......さて、この二つの文にお返事を書かねばならぬが、三の殿との釣り合いもありせば、かぐや様にはまだ難しかろう。
こちらで侍女に書かせよう」
それは本当に助かります。ありがとう、刀自様!
あたしは刀自様に、ゆうべ巽様に言われた言葉の意味を尋ねてみる。
「刀自様、『ぼくせき』というのは何のことでしょうか?」
「ぼくせき、と言うは墨の跡と書いて『墨跡』、文の手筋のことじゃ。一の殿の文の如く、流るるごとき美しき墨跡と言う」
そうなんだ。『ぼくせき』の意味はわかったけど、巽様の言葉の意味が判らなくなった。




