大神官様の茅原野稲比古様が日取りを占います
久我根館の刀自様が、我を蔑ろにされるは今に始まりたる事では無きが、国守様の御前で、神仏の加護有りしかば刀自様が助かりたると言われた。
そう言いながら、我の方を見て得意げに嘲笑いたる。
日見国の最高権威たる我、茅原野稲比古様に盾突こうとされるか。
佛の加護をわざわざ言い立てられるは、やはり刀自様は佛教を日見国に持ち込まれて、我等神官を追い落とさむと謀りているのだ。
日見国は、大神官様のご祈祷の力で護られしに、我の偉大なる神通力を軽んじられるのか。
刀自様が助かりたるは佛の加護なぞではなく、平内のし損じに過ぎぬ。
久我根館の刀自様を毒の矢で襲いたる平内は、我が元に戻り来て、毒の矢は三本の内一本は刀自様に、一本は巽に確かに当たりたると告げた。
ところが毒の矢は刀自様には当たらず、巽も久我根館のかぐや様のお祈祷の力で生き返りたると言うではないか。
全く平内は使えぬ神官なり。
平内の不首尾に依りて、我まで窮地に立たされる事が有りてはならぬ。
久我根一族の探索の手も、我が近辺まで及び来る気配を感ずれば、我は仕方なく平内に金を握らせ、事が落ち着くまで暫し鹿耳国にて潜伏せよと命じたのだ。
しかし平内は、西の国境で西関様に捕らえられた。
我にも問い合わせられしかど、かような無様なる神官は我が弟子に非ず、破門致すと答えたり。
平内は、捕えられ国府に送らるる途中で、持ちたる鳥兜の毒を呷りて自ら失せたり。
国府でのお取り調べの拷問を怖れたのであろう。
平内には気の毒であったが、刀自様に毒の矢を向けし罪は、し損じた平内の咎であろう。
それにしても久我根館の刀自様は悪運強き方よ。
毒の矢も避け、養女と為したかぐや様は、国守様の殿方より求婚の申し出を受けられる。
もし、かぐや様が男赤子でも産まれたら、久我根一族の力は今に増して強くなろう。
かぐや様は月の国のご祈祷で、死者も生き返らせる強いお力をお持ちと噂が高い。
我が僅かに見しかぐや様は、確かに世にも稀な美貌で、あの姫が為に国の争いも起きぬべしと思われる。
なるほど余りにも美し過ぎる姫は争いの元にして不吉の種なり。
かぐや様はまさしく『傾国の美女』と言うべき災いを呼ぶ姫君である。
国守様はそのかぐや様の為に、これまで日見国で例の無き臣下の養女の裳着親になられると言われた。
こうしたことから、前例を守らぬ悪弊が蔓延りて、悪き例となるのだ。
国守様は、我にその裳着の式の良き日を選べと言われた。
我が占いすべきは国事に関わる重大事に限るはずで、久我根様の養女の裳着の式の日取りなど、我が占う程では無きものを。
どこまで大神官様を虚仮にすれば気が済むのだろうか。
このまま踏み付けられてばかりはなるものか。
よし、裳着の式の日取りは、最悪の日を、後々まで語り継がれる厄災の日を選ぶのだ。
大神官様は国府に呼び出された時は、悪事が露見したかとビクビクしていました。




