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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第二章 久我根館のかぐや様誕生
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美原野高至様の頭痛が治りました(多分気のせい)

皆が席に着くと久我根様は長々と挨拶を始め、美原野高至様も長々と挨拶を返されている。

北欧の王子様のような外見の男性が白塗り化粧して日本語の、それも古語の挨拶をしているのも変な感じだ。

挨拶の後も、久我根館の庭が美しいとか、天候がどうとかと言う話が続いている。


そういえば一体何の目的で高至様は久我根館に来られたのだろう。

まさか、あたしを見に来た訳じゃないよね。


「ところで我が国で評判の月の国よりお越しのかぐや姫様は、とてもお強いご祈祷のお力をお持ちとか」


突然、美原野高至様があたしを話題にする。


「おや、もう国府にまでそのような噂が届いておりましたか」


刀自様が口を出した。

刀自様は形だけ几帳を立てているけど、身体のほとんどが几帳の外に出ている。


「我は数年も頭痛に悩みて、名のある薬師は無論の事、大神官様にもご祈祷頂けども快癒せざれば、是非にもかぐや様にお目にかかりてご祈祷頂きたし」


え~っ、無理、無理。そんなの無理に決まっているでしょ。

大神官様だって治せないのに、あたしが祈祷なんて出来ないのは誰だって分かると思うけど!

でも巽様でさえ、あたしが巽様をご祈祷で助けたって思っているみたいで、どんな噂が広がっているのか、想像もしたくない。


「ささやかながら、これは我が母上様の鹿耳国より献上されし黄金の冠と薄物の絹にて、かぐや様へ挨拶のお品としてお贈り致す」


高至様がそう言うと、高至様の侍女が品物を捧げてこちらに持ってくる。


その侍女がまたびっくりの妖精のような美少女だった。

髪は金色で真っ白の肌にブルーの瞳、目もパッチリで金色の睫毛が目の回りを縁取っている。

耳はやはり大きくて、先が尖っている。


はぁ~って溜め息しか出ない。

何故こんな田舎にエルフのような人達がいるんだろう。


あたしは今までここは日本で、平安時代にタイムスリップしたのかと思っていたんだけど、こんな人達がいるなら、ここは断じて日本じゃなくて、別世界なんだと思う。

とんでもない所に来てしまったんだと、改めて思う。


高至様の美しい侍女は刀自様の前まで来ると跪(ひざまず)いた。


「わたくしは侍女のさやと申します。中をお改め下され。

冠を着けるには作法がございます。かぐや様はいずれにおわしましょうか」


刀自様は形だけ箱を開けて中を見ると頷いて、几帳の陰にいたあたしを目で指し示した。

侍女のさや様は、漆塗りの箱を捧げてあたしの方に近付いて来る。


「お噂通りに何とお美しい」


小さな声でさや様は言うのだけど、何をおっしゃいますやら。

さや様の方が遥にとんでもなく綺麗でしょうが。


さや様は捧げてきた箱を開けると、綺麗な花の刺繍で覆われた薄い絹の布の前後を良く確かめて、あたしの頭にそっと被せる。

その上から布を押さえるように金の冠を被せた。


「黄金の冠はこのようにお被り下さいませ。お美しい方には更にお似合いになります」


金の冠は細い蔓草が絡まったカチューシャの形になっていて、頭の後で細いリボンで結ぶ。

両脇にシャラシャラと揺れる金の花房が付いている。

藤の花のような繊細な金細工で、いかにも高そうだ。


「おお、これは美しき冠かな。かぐや様のお顔が隠れたるも都合良ければ、皆様にもご覧頂きましょうか」


刀自様はそう言うと、あたしの前から几帳を少しずらした。

おおお~っというどよめきが起きる。


新しい派手な着物を着て、頭には異国風の薄絹の布を被り金の冠を付けて、しかも顔が見えない、となれば、想像をかきたられて美人に違いないって勘違いするよね。


高至様はちょっと息を飲んで大きく目を見開くと、「しばしこちらへ」という。


何?と戸惑っていると、刀自様があたしを手招きする。。

膝でズリズリと歩くのもだいぶ上手になったあたしは、刀自様の方に近づく。

刺繍のベールを被っている割にはよく見える。几帳越しよりも見えるようだ。


「いま少し高至様のお側に」


刀自様の指示通り高至様のお近くまでズリズリと近づく。

近くで見れば見るほど高至様は金髪で青い瞳の王子様だけど、違和感もまたマックスだ。

残念過ぎる。


高至様はあたしをじっと見詰めてから、握手をするように手を伸ばす。

これは鹿耳国での挨拶だと思ったあたしも手を出して、高至様と握手しようとした。


指先が触れた瞬間、ビシッと静電気のような電撃が走る。

あたしはビックリして手を引っ込めたけど、高至様も驚いて自分のワナワナと震える手を見ている。


あたしは国守様の三の殿の高至様に無礼を働いてしまったかもしれない。

感電させるつもりなどなかったのだ。

単なる静電気にしては強すぎる気がするが、一体なんだったんだろう。


「これは驚いた......我がしぶとき頭痛が無くなりしかな......世の噂以上なるかぐや様のお力ぞ」


えええ~っ、あたしのほうが驚きなんですけど!

どうして指先が触れただけで頭痛が治るんでしょう?

そんな馬鹿な!


あたしの頭の中には『気のせい』という言葉が飛び回っているんだけど、周りの人達は大喜びしているし、「さすがはかぐや様」とか「類い稀なるお力」とか聞こえるし、「実は我も昔からの病が」なんて言葉さえ聞こえる。


あたしに本当に病気を治す力があって、手を触れるだけで病気が治るんだったら幾らでもお手伝いするけど、実際は思い込みとか気のせいなのだから、いずれバレて逆にすごく怒らせてしまうだろう。


あたしは詐欺師か偽りの魔女とか言われて殺されてしまうんじゃなかろうか。

そうならないように、もう誰とも手を触れない方が良さそうだ。


その夜に開かれた宴では、東の対の御簾の陰からほんの少し琴を演奏し、その後は刀自様の指示通り塗籠に隠れていた。

今回の宴は国守様の三の殿がご臨席のためか前回のような大騒ぎの宴にはならず、普通に終了したのは大変珍しい事だったらしい。



金の冠を被ったかぐや様のお姿は、日見国の新しい伝説となりました。

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