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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第二章 久我根館のかぐや様誕生
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久藤巽様は女嫌いだという噂があります

巽様が神官を辞めて久我根館の武者になったことは、屋敷内外の若い女性達に素早く伝わった。


巽様が女性と縁を結べない神官だった時でも、手紙を巽様の袖に投げ入れる勇者がいたのに、久我根館の武者となった後では遠慮がなくなったらしい。


あたしの情報網はすずちゃんだ。

お屋敷の方達は侍女や従者の情報収集能力を舐めていると思わずにはいられない。

秘密裏に事を運ぼうとしても、ほとんど察知されていると思った方が良いし、台所での情報交換もスムーズに行われているようだ。


あたしは部屋に戻ってきたすずちゃんから情報を入手する。

すぐ周りに他の侍女がいることが多いので、大事な話は特にヒソヒソと話す。

すずちゃんはあたしが巽様に恋している事を知っているので、巽様の情報を詳しく話してくれるのだ。


巽様が刀自様のお供で寝殿の廊下で控えている時に、御簾の近い場所に侍女が寄ってきて歌を言いかけたり、侍所にいる巽様にお手紙を渡したり(これはあたしもやってしまった)巽様の袖から、手紙が零れ落ちることも多いそうだ。


更にすごかったのが、久我根屋敷の侍女A(匿名)が、巽様の夜回り警備の時を狙って、薄物の単衣(ひとえ)の着物一枚(下着姿)で庭の泉水の辺りで待ち伏せして、巽様に抱き付こうとした事件だ。


そんなことは侍女の嗜みとしてもどうかと思うけど、かえで様とかまつ様が知ったら卒倒してしまうだろう。


しかももう一人、別の侍女B(匿名)まで隠れていて、他の警備の武者がお化けと思って驚いて庭の池に落ちてしまった事件とか、色々と台所での話題には事欠かない。



武者の警備の時は二人で一組になるそうで、巽様は栗山館の六郎様と組んで警備されている。

栗山館は此春三郎様の西の館と大道を挟んで隣にある。

大道の入口を二つの館で挟むようにして護っているのだ。


栗山館の三女姫様には、久我根館の四郎様が通われているのだけど、まだお子様がお生まれにならない。

巽様を四女姫様のお婿様にお迎えしたいと申し出があっても、巽様は今はまだ半人前だし、久我根館をお守りすることが一番大事だからと、丁寧にお断りしたそうだ。


巽様は刀自様にもまだ結婚する気はないと言っていたけど、後ろ盾のない巽様にとって有利な結婚話を断るなんて、この世界では有り得ないらしい。


あたしは乗馬の訓練の為に、馬場に行くまで巽様に付き添って貰った。

巽様は丁重な物腰だけど(警備の武者として当たり前の態度で)一言も言わず、あたしの目も見ない。


お屋敷の北側がすぐ馬場になっているので、あっという間に馬場に着く。

見ればお屋敷の周りに住んでいる若い女性達が、馬場の柵にズラリと並んでいる。

巽様をアイドルのように出待ちして、馬駆けをする巽様を見ようとしているのだ。


巽様の姿が見えると、「キャー」という声が上がり「巽様!」と呼びかけて袖を振っている娘もいる。

このあたりの若い娘は、あかね様のような顔立ちのはっきりした綺麗な女性が多い。


そんな若い娘達に大騒ぎされても、巽様は誰にも見向きもせず歩いて行ってしまう。

巽様はいかにも女性に興味がない、という態度だ。


巽様があたしにお手紙をくれたのは何かの気まぐれで、あたしの手紙にお返事もなかったし、今はもうすっかり嫌われたのか、興味もなくなったのだと思う。


その後あたしは、郎党の男性の忍び込み事件のせいで馬場に行くことを禁止されたので、巽様の乗馬姿も見られなくなった。


今までそれほど馬場を見に来る女性の観客がいなかったので、郎党の武者達は馬場での訓練に、とても張り切ったそうだ。

でも若い女性達のお目当てが巽様だと知れると、ふて腐れたり、巽様に嫉妬して嫌味を言ったりする者もいたらしい。


ただ巽様はどんなに騒がれようと、娘達に見向きもせず、熱心に馬駆けや武術に励まれるばかりなので、ついには娘達も諦めて、他の若い武者に気持ちを移したり、ほんの少数の熱烈な追っかけの娘を除いて、熱心に馬駆けを見に来る女性も少なくなったそうだ。


巽様は馬場にいると騒がれるので、敢えて山の中の訓練に参加したり、誰もやりたがらないような後片付けも積極的にしていたので、他の郎党からの信頼を次第に集めて、いつしか若い武者のリーダーのようになっているらしい。


何日か経ったある日、中央の寝殿から戻って来た刀自様は、あたしが習字をしている所に寄って来られた。


「刀自は明日、国府に参りてかぐや様の養女のお許しを国守様から頂いて参る。

裳着の式も近付きたるゆえ、習字と琴の練習に励まれよ」


巽様は刀自様がお出かけの時は必ず警備に付き添われているので、巽様も国府に行かれるのだろう。

刀自様は明日は馬で行かれて、国府に一晩泊まって明後日に帰られるそうだ。


国府までは八里(約三十二キロメートル)で途中に山道があるそうだけど、馬ならば二、三時間ぐらいで着くそうだ。


刀自様があたしの所で話している間、巽様は近くの廊下で控えている。

珍しく考え事でもしていたのか、少し憂いのある表情で、こちらの方を眺めているのが御簾越しに見えた。

国守様にお目通りをする時は、必ず然るべき献上品を持って行くそうです。

貴重な品を持って行くので、荷物にも警備の武者が必要なのです。

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