箱使いは速攻バレる
「お待ちください、父上様!」
渡り廊下の方が騒がしくなったと思ったら、熊のお館様がドシドシと足音を立ててやって来た。
その後を慌てたように三郎様がついて来る。
もちろん、その後ろから供の者達もニ、三人付いてきて、おまけに侍女頭様もやって来たので、皆が部屋に入って座ると圧迫感がすごい。
侍女頭様はあたしの傍に膝歩きで近付いて来る。
あたしの座った高さに違和感があったのか、着物を直す振りをして着物の裾を持ち上げると、あたしが座っている箱を発見したようだ。
怒っている時は目が怖いだけで、余り顔には出さない侍女頭様なのだけど、切れ長の一重瞼を大きく見開いて、明らかに驚愕の表情をした。
あたしの顔を咎めるようにさっと見てから、振り返ってすずちゃんを睨む。
(ああ、これは後でお説教のコースかな、ゴメンね、すずちゃん)
それでも熊のお館様と三郎様の居る前では何も言わず、侍女頭様は傍に引き下がった。
「ああ......うん......その......本日は誠に良い天気で......風も暖かで......春の盛りで......」
熊のお館様は、一体何が言いたいのだろう?
傍らに居る侍女頭様を見ると、顔を伏せて頭を少し振っている。
「姫様には健やかにお過ごしくだされましたでしょうか」
三郎様が言葉を繋いだ。
慌てたように熊のお館様は
「この国には姫様を害せんとする者など、一人もござらぬ。
もし、そのような不埒者が現れても、この此春大熊、すぐさま駆けつけて何人たりても、捕っては投げ、斬っては投げして姫様をお守り申し上げる」
と、身振り付きで吠えるように言う。
あたしは襲ってくるかもしれない誰かよりも、熊のお館様の方が怖いんですけど。
三郎様は取りなすように、
「この館の者も皆で警護を固めますゆえ、姫様はご安心なさってご逗留ください」
と、穏やかに言う。
三郎様はこの父上様をフォローするために、こういう穏やかで優しい言い方を身につけたのかな、と思う。
だけど中身は基本父上様と同じだよね。
その後は雑談のようになって、晴天が続いて雨が降らないとか、今年は麦の成育が良いだとか、月の国の天気はどうかとか、そういう話が続いていく。
あたしは薄暗い中で、延々とそんな話を聞いていると眠くなって来る。
あくびを噛み殺したり、お尻をもぞもぞさせたりしていると、侍女頭様が、
「......姫様は......少しばかり......お疲れの......ご様子で......ございます」
と、言った。
あら、侍女頭様、グッジョブ!
それからも延々と別れのご挨拶が続き、(熊のお館様は昨夜も会いましたよね、三郎様は今日の午後も会ってその時も長々とご挨拶しましたよね)呆れるくらいの時間がかかってからようやく帰った。
その後、侍女頭様に箱に座ってはいけない、と、ゆっくりと、こってりと注意されて、最後は(頭が痛い)と仮病を使って切り抜けた。
あたしが月の国では椅子に座るのが当たり前って強く主張したので、侍女頭様は最後にようやく折れて、後で布を張った床几を貸してくれました。
ただし、使うのは部屋に誰もいない時に限るそうです。




