第14話 不良は儚い夢を見た④【佐行視点】
――ギィッギィギィ……ギィッ
五月蝿い、余りにも五月蝿い音が室内に響き渡る。何度聞いても慣れない扉の開く音。癇に触る程の不快な音をたてる。
直さないのであればいっその事、扉を取っ払って欲しいものだ。
扉が呻く先に視線を移すと其所には、音に紛れて二つの人影が部屋に入るのが見えた。
如何せん、この部屋は常時薄暗く、無駄に広い。俺が居る場所から扉まで20メートル位は在るだろう。
それだけ離れそして薄暗ければ、直ぐには人影の詳細を視認するのには時間が掛かると言うもんだ。
「課長ぉ只今、戻りました」
「うぃっす……とりまニコは無事に連れ戻って来たぜぇ。あっ!連絡通りペインは預けて来たからなぁ」
そう言って入ってきたのは、成人女性だが良く街中では、中学生と間違えられる程、小柄で幼すぎる見た目の【ニコ】。
その横には黒髪をオールバックにし、インチキ臭いインテリ眼鏡をした男。ニコと横並びになると目の錯覚か?と思う程の高身長を誇る、"捕獲部隊"と言う俺とはまた違う部署の隊員であり、その部署の"長"である【隊長】が来たのだ。
他部署同士の人材が……それも犬猿の仲の二人が、こうも一緒に行動をする等、初めて見る光景に俺は言葉が出ない。
「おぉっ!佐行じゃねぇかよぉ!久しぶりぃ~元気してたかぁ?ってお前の横にいるギャルは何モンだい?意外とベッピンさんじゃねぇか!まさかオマエ……浮気かぁ?」
隊長は不思議そうに首をかしげ、俺に疑問を投げ掛ける。そんな俺も詳しくは知らない……だから明確には答えられずにもた付く。
在らぬ誤解を招く発言は止めて頂きたい……俺の愛しい恋人、ニコが居るのだから。
「ちょっとぉ大……佐行ッ!ってその娘誰よ!誰なのよ!まーさーかーっ……」
ニコ事、【バーベナ】は表情は変えぬものの、沸々と涌き出る、怒りが具現化したような殺気を周囲に放ちながらズカズカと、俺に歩み近づく。
誤解も誤解。いい迷惑だ。
――俺の気も知らないで。
「いやいや誤解だって誤解!檜扇は課長に頼まれて連れて来ただけで……」
「課長ぉぉ!私に黙って……佐行に他の女の子を連れて来させるなんて!佐行は単純なんだから、もしも万が一があったら……私……独り……に。独りは嫌、イヤよ……独りにしないでお願いだから」
そこまで言うとバーベナは顔が見えない程に俯き、床には僅かながら一粒、二粒と水滴が滴る。
バーベナはか弱い。儚い程に。俺が誰よりも一番、分かって居るのに。
(――ごめん)
「おうおう!彼女ぉ泣かせるたぁ佐行もす――」
「ちょっと隊長!いい加減にして下さい!ニコが!バーベナが不安がる事を!今はそんなふざけている時では無いでしょ?」
普段、怒りを露にしない俺は、この時ばかりは怒鳴った。
人目を気にせずバーベナを引き寄せ、優しく抱き締めた。
「――ごめんな。バーベナが考えてる様な事は一切無いから安心しろ……な。独りになんてするものか!」
胸の中で『コクン』と頷いたのが、俺の身体に伝わったのを感じた。
バーベナは普段、ここまで弱くは無い。
恐らくは特異特質を何時も以上に使ったに違いない。バーベナは力を使えば使う程にその時の精神に多大な疲労を受ける。
それは彼女の力の強さを意味する。
「はい、はぁい!それじゃぁ皆ちょいといいかな?こちらは……んー堅苦しいか!この娘は私の義理の娘、檜扇コノハちゃん!二十歳!ちょっと訳在りだけど皆宜しく頼むよぉ!」
課長は適当にも程がある紹介を終え一先ずは、他のメンバーの紹介を檜扇コノハにした。
「――とまぁそんな感じ!で、だ諸君!急で申し訳ないが本日をもって我々、【対策執務室】は解散になります!追って詳細を言い渡しますので取り敢えず皆は一週間、有給を消化しつつ、この部屋の私物の整理をする事ぉ~いいね?」
俺、バーベナにとっては寝耳に水。隊長に至っては相当ウケたのかバカ笑いが止まらない。
檜扇コノハは相変わらず大人しく、借りてきた猫状態だ。彼女?も意味も分からず連れて来られて、困惑しているに違いない。
「じゃぁ皆宜しく~っと、そうそう!これが一番重要だったよ!パスポートの準備、しといてね!」
パスポート?
これから先、俺達は何に捲き込まれ、生きていくのか……。
「吾妻 当麻、君への様々な権限も全て課長が統括する事になったから宜しくね!あっ!君の親御さんには単身赴任になることは伝えてあるし、子供達の心配もいならいからね~」
さっき迄のバカ笑いが嘘の様に静まり、隊長は唖然として立ち尽くす。口を間抜けな程に拡げたまま……。
―― episode:3 檜扇コノハ




