第13話 不良は儚い夢を見た③【佐行視点】
――孤独程、怖い事は無い。
檜扇コノハは血濡れでお互いが重なりあうようにして横たわる両親の亡骸を見下ろす。触れればまだ温もりは感じられるであろう。身体中には無数の痛々しい程の【裂傷】が付いている。
人とはこうも脆く、儚い生き物か。血を流し過ぎるだけで死んでしまうなんて。
「なんでワタシに逆らうかなぁ?抵抗するから悪いんだよ?なんで分からないの?馬鹿なの?馬鹿かぁ。そんなんだからさぁ……ってもぉ死んだんだよなぁ」
既に事切れた亡骸にそう悪態をつく。
黒髪セミロングを引き立てる様にして着る、純白のサマーセーター。目の前に広がるは血液の海。彼女には反り血一つ見当たらない。
「はぁ――つまんないな。次ぃ?」
深く溜め息を吐き出し身を返し歩きだす。ベージュのフレアスカートが歩む度に、孕む様にして靡く。
逢魔が時がせまる。
夕陽が室内に射し込む。
彼女の瞳に反射し、益々瞳が輝きを増してゆく。人が持たざる"金色の瞳"。凛々としその瞳は、美しいよりも禍々しとし言うに相応しい。
窓サッシを『カラカラ』と開け素足のまま外へと踏み出す。
行く宛?適当に見つけるさ。
でも本能はハッキリしている。
【群れを作って、群れの"王"に成りたい】
「さぁてと。次はどんな"家族ごっこ"をしようかなぁ――」
刹那、"キィィン"とした耳鳴りが響く。
耳鳴りは更に酷くなる一方。徐々に眩暈がし、視界は揺らぐ。眩暈のせいか、僅かに吐き気と悪寒がしてくる。
『――えして!貸して私の身体を!心を貸して!』
頭の中に響く、ワタシと同じ声色の声。口調は違えどワタシの声が繰り返し響き渡る。
「誰?誰なの?何処に居るの?魔女?魔女なの?」
『貸してよ私。私の身体よワタシ。私の心よワタシ。ねぇねぇ貸してよ今すぐにワタシ!』
「な……何よ。確かにワタシと同じ声だけど、ワタシはワタシよ!アンタ何か知らないわ!消えてよ!話し掛けないで!出てこないでよ!ワタシは檜扇コノハよ!」
『私も檜扇コノハよ私』
『檜扇コノハ。素敵な名前よね。檜扇コノハ!身長も恵まれ、スタイルも良し!檜扇コノハ……もう一人の私よ』
「あーもぉぉ!ウッザイなぁ消えて!消えなさい"偽者のワタシ"!何勝手に色々とほざいてるんだよっ!なんなんだよっ!幻聴?幻聴なんてっ……消えろっっ――――!」
『酷いのねワタシ……幻聴だなんて酷い物言いね。私は二人も要らないって事?なら私達、混ざっちゃえば良いわよね?私なんだから。ねぇ良いでしょワタシ?私ならもっと特異特質を上手に使いこなせるわよ。まだワタシの発現はお粗末だからね?お願い……ワ・タ・シ』
「いや……だ。嫌だね!ワタシ!アンタはワタシじゃない!誰なのかと言っても答えは出ない……けど。もしも"他の人格"が有ったとしても、ワタシはアンタなんかに身体を譲る気なんて毛頭無い!」
『そう……じゃぁ今は諦めるわね。まぁ何れ、近い内に逢う事にはなると思うわよ。逃げられないから覚悟しててねワタシ。私は嫉妬深いし、執念深くも有るの。諦め……悪いわよ。じゃぁまたね、愛しのワタシ』
最後の"私"の言葉。
それが聞こえると、頭の中で響いていた声が消えた。眩暈も何もかもが無かったかの様にして……。
「何なのよ……一体。ワタシはワタシよ……」
ワタシは地面にへたれ込む。
大きく深呼吸をし息を吐く。繰り返すも何故か気持ちが収まらない。
ふと後ろを振り向き家の中を見る。
ワタシが作り上げた亡骸が無い。
床に広がった血液の海も無い。
幻か――いいや、確かにワタシの手で"逆らう両親"を手に掛けた。
逢魔が時だった筈が、気付けば昼間の如き陽射しを散々に浴びている。さっきまでは夕方であったのに。
ワタシは天へ視線を向ける。
目に滲みる程の眩しい陽射し。眼底にまで突き刺さる光にワタシは怯む。
怯んだがその先には、烏か雀か鳩か何かが羽ばたき、群れをなして飛び去る様を見た。
ワタシも……そうやってみんなと一緒に出来るのだろうか。
何故だか眠い。こんなにも暖かい陽射しのせいなのかと。
ワタシの意識は『プツン』とそこから途絶えた。
□■□■
「おっ!やっとこ起きたか不良よ!散々呼び掛けたりしたのに全く持って、目を覚まさないから俺は心配したよ。でもお前さぁ……時より目を見開いてギョロギョロと周囲を見渡してたぞ!お前は一体何な――――」
「あっ……ワタシ寝てたんだ。また見ちゃった……のか」
檜扇は俺なんて居ない者とし、独り呟き朦朧とした様子で遠方の一点だけを見つめる。
ただ一つだけ俺には違和感があった。俺の心に引っ掛かる様な光景。
何処かで見た、幾度となく見た事の有るの光景。
目覚め両目から"泪"する光景。
俺は知っている。だが認めたくは無い……。
(何故、檜扇も……)
「おーい?オーイ?檜扇ぃぃ~聞こえるかぁ?聞こえてるのかぁ?しっかりしろ着いたぞ!課長をブッ飛ばしに来たんだろぉって?」
「うにゃ……!?」
彼女の凛々しかった、男勝りな強気な顔付きから一瞬、"可憐な少女"の顔付きに変わり、俺は心臓に何か鋭い物を突き刺された様な感覚を味わった。
「はっ!……みっ、見たなオッサン!ワ……俺は泣いてなんか無いぞ!ただ欠伸をしただけだ!いいなっ!俺は絶対泣いてなんか無いぞ!」
檜扇は必死に弁解をする。俺からしてみたらどうでも良い事なのだが、奴にとってはどうやら"自尊心"に関わる事の様で。
「そんな事、どうだって良いしそもそも俺は気にしない。良いから行くぞ。早く車から降りろ!」
「――チッ」
軽く舌打ちすると無言で車から降り、俺の後ろを大人しく付いてくる。
□■□
庁舎に入り、部外者の入館手続きも滞りなく、スムーズに済ませ課長の待つ部屋へ足早に目指す。
(あの狸親父。俺が確実に連れて来る事を前提に、裏処理進めていたな。こんなにも早く部外者が"入館"出来るなんて有り得ないぞ。一体何を企んでやがる……)
「課長ぉ!例の対象連れて来ましたよ!」
「おぉ、お疲れ様。佐行君」
課長の席まで檜扇を連れていく。まだ奴は俯いたまま、俺の膝下の動きだけを頼りに、此処までやって来た。
「やぁこんにちは。私がこの部署を担当し纏めている"課長"です。宜しくお願い致します。檜扇コノハちゃん」
課長が話終えた瞬間、檜扇は俯いていた頭部を物凄い速さで正面へと向けた。
そして呟く。
「――お義父さん」
「さぁて、今はどっちの"コノハ"ちゃんかな?"ワタシ"かな?"私"かな?んー瞳は"金色"……か。じゃぁ"ワタシ"だね!それなら話が早いね!お帰りなさい」
「ちょっ……!お……お義父さんだぁ?課長!一体全体なんだって!!ワタシ?私?えっとえぇー!?」
「まぁまぁ落ち着いて、落ち着いて!この後みんなが来たら、ゆっくり話すから……ねっ!」
何時もそうだ。課長は自分だけは何でも知っているのに部下には何も教えない。語らない。
【秘密主義者】
「お義父さん……ワタシ、絶対に戻らないからね」
俺達の後方、部屋の扉がゆっくりと、何時もの"けたたましい"音と共に、人影が部屋へと足を踏み入れた。
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