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プロローグ


 「田中コウジさん、あなたはお亡くなりになりました」

 「……はい?」


 目が覚めたら突然、知らない場所にいた…と言ったら、誰が信じるだろう。ましてやその場所が死後の世界だと言ったら、夢でも見ていたのか、とでも返してしまわれそうだ。

 そんな突拍子も無いことでも、いざ自分の身に起きてみると案外事実だって確信が持てるなあ……とまあ、気恥ずかしさにそんなことを考えてしまう程度には、目の前の少女は美しかった。


 「……」

 「……」


 お互い無言な中で、俺は目の前の少女の容貌をまじまじと見た。

 艶めく桃色の長髪は、ウェーブがかった今時な感じに整っていて。人形の様に整った顔には微笑を浮かべ、祭壇の上から俺を見下ろしている。程よく引き締まった肢体に纏われた白色の衣には、差し込んだ光が彩りを加え、なんとも幻想的な光景を演出していた。

 

 「……」

 「……」


 ……暫し沈黙が続いた。というか、何か言い出さないと駄目な気がする。あれだ、会話の途中で共通の知り合いが退席したときの感覚に似ている。


 「……すみません」

 「……あ、はい!」


 少女も話しかけるタイミングを伺っていたのか、少し食い気味に上擦った声で返事をしてきた。その後、誤魔化すように笑みを浮かべる。あれだ、突然知らない外国人に話しかけられたときの俺に似ている。イエスって言う勇気も出ないんだよな、あれ。

 

 「あの、目が覚めたらここにいて、いまいち状況が飲み込めないんですけど。まずここ、どこなんですか?」

 「えっと、ここは天界って言って、えと、かつて創造神様が作り上げた場所で……」


 少女が突然キョドり始めた。何だ、お前。話しかけたら6割の確率でキョドる、高校時代の同級生の佐藤か。あいつキョドった後に結局無視して来るんだよな。俺はそういうの好きだぜ、佐藤!それはそうと、全国の佐藤さんごめんなさい。

 俺が脳内コントを繰り広げている間に、少女は深呼吸をした後ひっひっふーと……それは呼吸違いだぞ、名も知らぬ少女よ。


 「……すみません。死者の方を案内するの、あなたが初めてで……。私、新人なものですから……」


 ひとしきり呼吸を整えた後、少女は苦笑を浮かべて俺のほうに向き直った。まじか、新人さんなのか。これはもう、デキる男の余裕という物を見せてやらねば。


 「構いませんよ。それはそうと、俺は死んだんですか?」

 「……はい」

 「……そうですか」

  

 またもや場を沈黙が支配した。俺が髪の毛をいじりだすと、少女は少し驚いたように口を開いた。


 「えっと、驚かれないんですね……普通ここに来た方は、驚いたり呆然としたりするものなのですが」

 「ちょっと実感が湧かなくて」


 死んだらもっと何かこみ上げるものとかがあると思っていたが、そうでもないらしい。今動いているこの肉体も、生前のものと同じだ。だから、「実感が湧かない」という言葉は一番わかり易いと思う。


 「……田中さんの死因は、とても名誉なものでした。あなたが旅立たれた後、フジサキさんがご家族でお葬式に出席されていましたよ」

 「そうですか。それはよかったです」

 「人の命を救ったのですから、当然のことですよ」


 つい先程まで工事現場にいたはずだったのだが、なるほど俺は死んだのか…と、頭の中で疑問が解決した。

 組み立て作業をしていたら、仲のいい同僚目掛けて溶接が甘かった鉄骨が落ちてきた。能動的というより、反射的に体が動いて、気づいたら意識が飛んだんだ。


 「……さて。そろそろ本題に入らせていただきますね」


 暫く俺の顔を優しい笑顔で見つめていた少女だったが、一度深呼吸すると真剣な面持ちで俺に話しかけてきた。


 「じゃあまずは自己紹介から」

 「え。は、はい」


 そうか、そういえば俺はこの少女の名前すら聞いていない。ここが天界という事実が正しいのなら、この子は天使か神様なのだろうか。

 そんな俺の疑問に少女が答えるときはすぐにやってきた。


 「――迷える魂、田中コウジよ。私はすべての生と死を司る女神、アンリ。この世の生者は我が眷属、あの世の死者は我が同胞! 神たる私が下すのは、生けるものを助ける正義の鉄槌! さぁ、ここにひれ伏しなさいっ!!」


 そう叫び、少女は仁王立ちのポーズをとった。

 ……だ、だめだ、まだ笑うな!こらえるんだ!……し、しかし……。

 ……こみ上げる笑いに勝利した俺は、未だ仁王立ちしたままこちらをチラ見してくる少女を見つめた。


 「……それって、自分で考えたんですか?」

 「えっと、はい!」


 手ごたえを感じているらしい目の前の一発芸女神が、やりきった表情で笑みを浮かべる。

 まあ、なかなか良かったな、うん。才能あるんじゃないか、この女神。素晴らしい出来栄えと言ってもいいな。

 

 「えっと、どうでした?」


 目を輝かせて見つめてくる女神に若干気圧されつつ、俺は口を開いた。


 「えっと、俺以外にそのネタやっちゃ駄目ですよ」


 その後、泣き出したアンリ様を宥めるのに五分ぐらいかかった。




 「……すみません。取り乱してしまいました……」

 「こちらこそ。なんか、すいませんでした。そんなにあのネタに自信があったとは……」

 「ネタじゃないです!女神流の挨拶です!」


 あれでも結構気を使ってコメントしたのだが、言い過ぎだったか。こころなしか、先程よりも呼吸の数が増えている気がする。女神ってやつも過呼吸とかになるのだろうか。じゃあアイドルと違ってお腹も壊すのか?

 と、そんな事を考えていると、胸を抑えていたアンリ様が立ち上がった。


 「では、続きを致しましょう」


 そう言うと、アンリ様はポケットからクシャクシャの書類とボールペンを取り出し、俺に差し出してきた。でかでかと「履歴書」と書かれたその書類の名前の欄には、漢字で「田中光二」と…。


 「俺の履歴書……ですか?」


 アンリ様は無言でコクリと頷くと、不自然なほど清々しい笑顔で見つめてきた。


 「書け……と?」

 「はい。書いてください」


 そのくらい口に出して言えばいいのに……と、俺は苦笑しながらペンをとった。書き間違いがないよう確認しつつ、書き進める。

 それにしても、天界に来てまで履歴書を書くことになるとはな。生前は何度書いても採用される事がなかったから、思い出深いよう


 「ちなみに。女神に嘘は通用しません。履歴書の質問には正直に答えてくださいね」


 特になんの障害もなく書き終えた履歴書をアンリ様に渡すと、苦笑いでこちらを見てきた。


 「田中さん……折り紙が特技なんですか……」

 「はい。自慢じゃないですが、こう見えて手先が器用でして。」

 「そうですか……えと、これはさすがに……」


 困惑の目で履歴書を見つめている女神様を不審に思いつつ、これからのことについて考えた。死んだら何処に行くんだろう。天国とか地獄はあるのかな?というか、学校以上の地獄なんてあるのかな?


 「……まあ、いいか。最悪私達でサポートとかすれば……」


 ブツブツ言っていたアンリ様だったが、どうやら脳内会議は可決したらしい。またさっきまでのような笑顔に戻って、履歴書を懐から出したファイルに綴じた。


 「すみません、お待たせしてしまいましたね」

 「全然構いませんよ。それはそうと、いい加減本題に……」

 「あっ、はい! もちろん!」


 アンリ様が真顔でこちらを見つめる。なかなかどうして、美少女に見つめられるのは悪くない……。

 ……まあ、緊張して目を逸らしてしまうのは仕方のないことだろう。


 「田中コウジさん、あなたには…」


 ぷるんとした唇がなめらかに動き、言葉を紡いだ。その言葉を理解できず、無意識に口が開くのを感じた。

 だってそうだろう。誰もが一度は夢に見るような、バカバカしい「もしも」の話なんだから。でも、その言葉を聞いて、初めて……。


 「異世界に、転生してもらいます」


 死んでよかったかもな、と思った。

 

 

頑張って書きます。宜しくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 特技が折り紙ってところがのび太チックで面白いですね! のんびり読ませていただきます♪
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