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転生魔導師奇譚  作者: Hardly working
第一章
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Vol:9 転生魔導師と決意

 村の傭兵団となったギルバート率いる“元襲撃者”達のために、村からそう遠くないあたりを切り開いて、岩石魔法を用いて住居を用意した。水回りを地元の大工のおじさんに手伝ってもらって。

 村民にも呪いと契約の件については伝えてあるが、それでもやはり警戒しているとのことで、村長との話し合いの結果ここに落ち着くことになったのだ。

 まあ、嫌でも馴染むだろう。


 それはそれとして用意した家がそこそこ豪華になってしまった。

 ここいらの家は木造が基本で、石造りなのは村役場ぐらいだ。そんな中──中っていうか外れではあるが──にいきなり村役場より大きいサイズの石造りの住宅が一軒生えた。土中の土魔力を固めたものなので文字通り生えた。

 傭兵達が総勢20人弱なのだ。それぞれに個室を与え、生活スペースを作ったら普通にビッグサイズだ。


「なんか申し訳なくなるな。」


 内見をしていた私の隣に立つギルバートの言だ。

 確かに。村を襲撃したら仕事貰えて(呪いも貰ったけど)住居も用意していただきました。ってなんか高待遇だな?あれ?高待遇じゃない?腹立ってきたな…。


「シュッ!」


 呼吸と共にギルバートの横腹へ風魔力を込めた拳を軽く叩き込んでやった。

 ギルバートは横に吹っ飛び、石壁に叩きつけられる。


「お゛…ぁ゛ッ…!テメ…!」

「腹癒せよ。洞窟でも作ってそこに住まわせればよかった…。」

「マジで人の心がねぇ…。」

「なんか言った?」


 (うめ)きながら(うずくま)るギルバートを尻目に、私はジャックの元へ向かった。


 ジャックには条件通り指南役がつくことになった。教会が襲撃にあった時に私が一番最初に倒した男と、その次に倒した男の二人だ。

 なんでもその二人は彼らの中でも最も腕が立つらしい。確かに一番梃子摺(てこず)った感じがする。この二人は熱湯だけじゃ倒せないんじゃないかな。


「踏み込みが甘いぞ!」


 教会の裏手。私とニアが最終試験を行った場所でジャックが鍛錬をしている。

 一番目の男と二番めの男、それぞれ名前がロナルドとジャックというらしい。

 お前もジャックか。とは思ったが、まあよくある名前だから仕方がない。

 で、今小さいジャックは大きいジャックから指南を受けている。

 まだ10歳の小ジャックでは、まともな剣術よりも少しトリッキーな方がいいだろうとのことで、ロナルドに速度で勝る大ジャックが足運びなどを徹底的に叩き込んでいるようだ。

 幸いなことに二人とも同じ流派らしく剣術はロナルドが教えている。


 ていうか、あの剣を持つのとは反対の肘を引いて、手を胸の前辺りに構えて戦う剣術、見たことあるんだよね。

 見たことあるって言うか、ヴィエナス騎士団の剣術なんだよね。

 ヴィエナス騎士団は団員の多くが魔法を使えるため、片手をフリーにして魔法のベクトルを定めやすくしている。魔法が使えない者でも警戒させるためのブラフになるし、別の剣術を教えるより統一してしまった方がやり易い。そのため、ヴィエナス騎士団の団員は基本的に皆同じ構えを取る。


 前世で実戦式の魔法実験や遠征などにも同行した身なので、何度も見てきた構えだ。


 つまりあの二人、ヴィエナスの騎士だったようだ。しかもあまり型に囚われ過ぎない動きをする。あれだと団内でも上位に入っただろうに。

 何かやらかしたのかな?騎士団の人間が不祥事で団を追われ、落ち延びて傭兵や山賊とかになることはあるらしい。おそらく彼らもそのクチだろう。


 しかし前世で使った戦闘方法をそのまま使わず、岩石系で攻めたのは正解だった…下手したらバレてたよ…。


 私はそのまま教会の方まで少し戻った。

 神父達に呼び出されている。まあ理由はお察し。


「リーゼリット。なぜ呼び出されたのかは、わかっているね?」

「ええ。」


 諭すような言い方はやめてほしい…正直ウザい。


「五歳頃から(さと)い子だとは思っていたが、まさかあのような魔法を操れるとは。」

「ニアが魔法を教えていたみたいですが、ニアも高度な魔法を操れるのでしょうか?」

「どうでしょうね…何せ見る機会が無かったですし…。」


 ニアに変な疑いがかかり始めている。ニアは普通の子だ、フォローはしておこう。


「ニアは出来ませんよ、球体制御すらままならなかったので。」


 なんだ、ギョッとした顔でこっちを見るな。


「そうですか。では魔法をどうやって覚えたのですか?」

「覚えたのではなく、そもそも知っているのです。」


 それこそ()()がついたころからね。


「魔法を?」

「はい。」

「何故?」

「秘密です。」


 神父はここでため息をつくと、こめかみを抑えた。


「…まあいいでしょう。」


 いいのか。


「本題は貴女が使った回復術です。」


 はい来た。


「貴女の使ってしまった回復術は神の奇跡。それを、ああも易々と使ってはいけないのです。」

「ではあの時あの村人は死ぬべきだったと言いたいのですね?」

「それが神の定めた運命であれば。」


 まじか。

 そこまで言い切ってしまうか

 大人びているとはいえ10歳の子供にそんなことを…。

 周囲のシスターはだいぶ戸惑った顔をしている。まだまともな思考は持っているようだ。


「私はその神様を信仰していません。」


 きっぱりと。

 言い切ってやった。


「何ですって?」

「私は、その神様を、信仰していません。だからお祈りもしていません。」


 神父はハッとした。

 私が頑なに食前の祈りをしなかったことを思い出したのだろう。


「なるほど…貴女が何者なのか、もはやわからなくなってきました…。」

「私は私です。それ以外の何者でもない。」

「とても10歳の少女とは思えませんね…。」

「誉め言葉として受け取っておきますね。」


 私は精一杯の愛想笑いと共に答えた。やはりこの宗教はクソだ。


「そうだ、私、もう教会を出ていきますね。」

「な…なぜ急にそのような話を?あと2年間はここにいても問題ないのですよ?」

「いえ、治療魔法を使った時点でこの教会から出ることは考えていました。今回の件で動きすぎたというのもありますし、私がここにいることで教会が何か迷惑を被る可能性があります。妹、弟たちを危険に曝したくはないですからね。」

「そうですか、こちらとしては貴女を受け入れた責任がありますし、そもそも危険が…いえ、あなたの魔法なら何ら問題はないでしょう。」

「ええ、自衛は出来ます。」

「わかりました。でも、そんなに急ぐことはない。数日はとどまりなさい。簡単なものではありますが、送別会をしましょう。」

「そんな、私は大丈夫です。」

「リーゼリット。これは、村と教会を襲撃から守って頂いた事への感謝と思って受け取ってください。」


 さっきまで少し険悪なムードだったのに急にそんな柔らかい対応をされると困る。

 まあ村からの謝礼もあるらしいし、無碍にするのもあれか。


「わかりました。ありがたくいただきます。」



 急遽決まった私の送別会は3日後ということになった。

執筆時BGM :Tristamプレイリストhttps://open.spotify.com/artist/28Ky95tmlHktB96DBUoB0g?si=AE5NbI-nTyqoItbiLpkZ_Q&dl_branch=1

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