誘拐じゃないよ①
歩み寄りの取っ掛かりがないまま、日にちだけが無駄に過ぎて行く。
あたしたちゆるキャラは、まだテスト期間中。ひーらちゃんとして活動しながら、元々の所属での仕事をもこなさなければならない。だから、とても忙しい。
でも、それは出来て当然のこと。ヒーローだって、表の顔があって、二足のわらじでやっていけてるんだから。
ゆくゆくは実戦投入され、最前線でヒーローのサポートをするんだから、もっと大変になる。
………だからこそ、今のうちに腹を割って話したい。
不満があるなら、無視するのではなく、言ってほしい。こんな連携がとれないギクシャクした状態で実戦を迎えるのも怖いしね。
なので、あたしは話し合うために二号を探すことにした。今朝、予知・予言課のお告げがあって、手の空いてるヒーローだけでなく、一応ゆるキャラも招集されたので、二号も来ている筈だ。
詰め所にはいなかった。ヒーラーの二号は、医療本部にいることが多いので、そっちに行ってみようかな。
医療本部は、ヒーローの訓練所のすぐ側にある。
あたしからすれば、完全アウェーだけど……罵倒や冷たい目なんて、慣れてるし!(やけくそ)
あたしは、意を決して特攻した。
でも、あたしの覚悟も虚しく、あっさり無視される。なにか、通信とノックが重なって気付かれなかったみたいね。責任者の女医さんと二号の空気が緊迫してる。
『予知・予言課の、H・Nクリアクリスタルです。怪人被害は最小限に抑えられたのですが、一般人に負傷者が出ました。8歳の女の子で、命に別状はないのですが、顔に怪我を負っています。二号を至急派遣してもらえないでしょうか?』
女の子が、怪我!?
「わかりました!すぐにひーらちゃんを派遣しますわ!場所をお願いします」
『場所は、北区のシャイニング街です。一番近い病院に搬送予定なので、住所を送ります』
「住所、確認しました!誰か、ヒーロー雷電を呼んで下さる?彼は最速と名高いヒーロー、一番速く向かえるわ!」
いいえ!あたしの方が早い!
そう思ったら、体が勝手に動いていた。能力を発動し、二号の元に一瞬で間合いを詰める。ここで始めてあたしの存在に気付いたみたい。
構わず、右耳で二号を巻き付け、確保すると、左耳で設置されたホワイトボードを引き寄せ、あたしが連れて行く、と書き込んだ!
「えっ、ちょっ……」と、女医さんが戸惑っているうちに、流れるような動作で窓を開け、あたしと二号は空中にダイブする!