第38話:断ち切られた過去、メジャーへ挑む荒武者の決意
オフシーズンに入った東京・銀座の落ち着いた某喫茶店。
実家が都内にあるアリックス・バファローズの達摩兄弟、広島東邦カーズの平松陽星、そして読報ジャイアンツの「弁慶」こと藤堂弁慶の4人がテーブルを囲み、久々の休日を穏やかに過ごしていた。
「平松、弁慶、久々やのう! 特に平松、お前のあの日本シリーズでの豹馬との投げ合いはホンマに見事やったでっ!」
達摩兄弟の兄・厳が感嘆の声を上げると、巨大な体躯の弁慶も頷きながら悔しそうに杯を傾ける。
「今年のセ・リーグでジャイアンツはリーグ優勝を果たしたが、こいつ(平松)一人に抑え込まれちまったからな! できることなら俺も日本シリーズに出て、銭形の球を打ちたかったぜ……」
「弁慶君、勘違いしてはダメだよ」
平松は静かに首を振って微笑んだ。
「僕一人で勝てたなんてとんでもない。チームみんなの力があったからこそ、下剋上でここまで上がって来られたんだ」
穏やかな会話が続く中、店内に足音が響く。思わぬ男が彼女を連れて姿を現した。
北海道アジアハムファイターズを戦力外となった、あの早瀬駆であった。
「達摩の兄弟さん、そして平松に弁慶……久々ですねぇ?」
皮肉めいた笑みを浮かべて挨拶する早瀬に対し、弟の豪は露骨に不快感を露わにする。
「……こんな時に嫌な奴が来よったわい。ったく」
席の近くに立ち寄った早瀬は、ぶつけようのない怒りと愚痴を吐き散らし始めた。
「俺はあのスライディングが得意なだけなのに、危険行為だと見なされてクビになった……。全部あいつのせいだ! 銭形豹馬のせいだ! 4月の北海道での香島と言い、6月の所沢での英恵と言い、あれは完全な走塁妨害だろ! なんで俺があいつに殴られなきゃならねぇんだ! いずれプロに復活して、あいつに絶対落とし前を付けさせてやるぜっ!」
その身勝手極まる言い分に、豪が激高して立ち上がった。
「黙れ早瀬っ! あんな危険なスライディングされたら誰かって腹が立つやろうが! もし俺が同じ目に遭うたら、俺かって豹馬と同じことをしてたはずやっ!」
「豪の言う通りやっ!」と兄の厳も鋭い眼光で睨みつける。「自分のことしか考えんと思ったさかい、豹馬が本気で怒ったんや!」
釣られるように弁慶も巨躯を乗り出し、机を叩いた。
「達摩の兄弟さんたちの言う通りだ! あのプレイは誰だって頭に来るだろうよっ! もし俺がやられたら、お前のそのちっぽけな体をスタンドまで投げ飛ばしたところだ!」
最後に平松も、いつもの温厚さを捨てて静かに、しかし力強く告げた。
「早瀬君、君は本当に卑怯な男だ。何しろ2人も病院送りにしたんだからね! 球団をクビになったからと言って人に当たり散らすなんて最低だよ。よく自分の胸に手を当てて考えることだな!」
4人全員から糾弾された早瀬は顔を大きく歪め、激怒の声を上げた。
「ええぃ、どいつもこいつも銭形の味方しやがってっ! 面白くねぇ! もしあいつのメジャー行きが決まったとしても、絶対に見送りなんか行かねぇからな! 帰るぞっ!」
捨て台詞を吐き捨てると、早瀬は連れていた彼女の手を引いて早足で店を去っていった。
嫌な空気が漂う中、平松が静かに微笑んだ。
「あんなハッタリに負けるような銭形君ではありません。僕は彼を信じていますよ!」
「俺もそう思うなっ!」と弁慶も笑う。「もし銭形のメジャー行きが決まったら、心から熱いエールを送り続けてやるさっ!」
「俺たちも同感や!」と達摩兄弟も頷き合い、遠く離れたライバルの背中を強く信じるのだった。
一方、埼玉ジャガースの球団事務所。
フラッシュの光が絶え間なく焚かれる中、銭形豹馬は記者団の前に立ち、凛とした表情でマイクに向かっていた。
「俺も色々と迷いましたが……メジャー行きのポスティングを決意し、球団にも了承していただきました! もちろん、プロとしてはこんなちっぽけな体(身長175cm、体重72kg)なだけに、選ばれるかどうかは分かりません。ですが、やるだけのことはすべてやっていくつもりで、全力でがんばります!」
きっぱりと言い切る豹馬の瞳には、かつてないほど強い情熱が宿っていた。
そして同じ頃、球界を揺るがすサプライズニュースが飛び込んできた。
福岡ディスクバンクホークスの守護神ダイアナ・ムーンストーンが、豹馬の兄である警察官の銭形龍馬と婚約! これを機に、ダイアナは来シーズンオフをもって現役を引退することを決意したのだ。
さらに、妹の決断に伴い、主砲である兄のアポロもまた来シーズンオフ限りでの退団を決意したという。
それぞれの道が大きく動き出す中、荒武者・銭形豹馬の夢は海を越え、結実するのか――。
物語はいよいよ、感動の最終話へと突き進む!




