最強の劣等生入学
ルヴェルが14歳になり、レナス聖騎士学園に入学した。本当はまだ入学できる年齢ではないけど、ゼナヴィアの従者騎士として飛び級を果たしたのだ。
レナス聖騎士学園はルヴェルたちが住むレガスティア大陸で最も有名な学園だ。
カルリア王国で唯一の騎士学園として根を下ろし、大陸のあらゆる地域から様々な種族が集結して騎士を目指している。
ただ、騎士と一口に言っても誰もが剣術を学ぶために来ているわけではないようで、自分だけの個性が出る能力――スキルを使った、もしくは織り交ぜた戦い方を学ぶことこそ聖騎士学園の理念だそうだ。
騎士とは役職の名称でしかない。
例えば『魔法』スキルを持つものは基本的に魔法学園を卒業して魔術士となるように、それ以外のスキルを持つ者は騎士学園を卒業して騎士になる。
つまり、剣術は二の次でスキルが本命。
剣を扱うのはあくまでおまけであり、騎士学園はスキル育成に重きを置いている。
だから騎士にとって武器はなんでもいい。剣でも槍でも斧でも、なんなら無手ですら有り。
もちろんそれは優秀なスキルがあるのなら、だ。
逆を言えば剣だけができてもスキルが無ければ騎士になるのは難しい。
本来であれば騎士学園とはルヴェルにとって縁遠い場所と言っても過言ではない。
ここは決して剣士学園ではなく、騎士学園なのだから。
「おい。お前が噂の『能無し』の劣等生か?」
チンピラのような同級生三人組に早速絡まれた。
スキルが発現しない――というのは珍しいことではあるけれど、別にルヴェルだけが特別というわけではない。
ただ、スキルを持たない人間が“騎士学園に入学する”とあっては悪目立ちするには十分な理由になるらしい。
「人違いじゃないか?」
ルヴェルが惚けたように首を傾げた。
わざとらしい。
ルヴェルはこれでも察しがいい方だ。鈍感系主人公とかじゃないからね。『能無し』とか『劣等生』と呼ばれれば客観的事実として自分のことだと理解はしている。
でもそれはあくまでも赤の他人の評価でしかない。
ルヴェルのことを知る裏人格の僕や、彼の隣で頬を膨らませてプリプリしているゼナヴィアにとっては見る目のない不当な評価でしかない。
そして何よりルヴェル自身も自分のことを劣等生だとは微塵も思っていない。
「いいや、お前だろ? 領主の娘に取り行って従者として学園に紛れ込んだ恥知らずは」
「なっ――」
隣で聞いていたゼナヴィアが声を荒げようとしたがルヴェルに止められる。
「スキルのない『能無し』じゃ聖騎士学園に入学するのは難しいもんなぁ。ペット生活は快適か? 床の世話はどっちが焼いてるんだ? えぇ?」
「……」
ルヴェルもゼナヴィアも出会った頃からさらに見目麗しく成長した。
どちらかが相手に入れ込んでいて奉仕させている――なんて構図にでも見えたのだろう。
ピンク脳め。
「俺に難癖をつけてくるやつは絶対にいると覚悟はしていたけど、まさか入学式が終わってすぐに絡まれるとは思わなかった」
ゼナヴィアを庇うようにルヴェルが前に出た。
いけ、やったれ。
僕が憑いているよ!
「俺に絡みたくて逸る気持ちを抑えられなかったのか? 教室に戻るまで待ち切れないほどの早漏野郎のようだし」
「あ?」
お口が悪いぞルヴェル。
でもこういうのは最初が肝心だよね。
最初から言われっぱなしだとこれからの学園生活に支障を来たすだろうし、こういう輩はねちっこく付き纏ってきそうだ。
これ以上舐められないように喧嘩腰になるのもさもありなん。
なにしろ今日は学園デビューの日、初日なんだから。
「確かに俺はスキルが無いからスキル評価は最底辺の劣等生だ。でも入学試験は問題なく合格している。それが答えじゃないのか?」
レナス聖騎士学園の入試は実技と筆記の二種類がある。
筆記試験は簡単な一般常識の問題。
Q世界一でかい大陸はどこですか?
Aレガスティア大陸です。
Qカルリア王国の首都を答えなさい。
A王都エムブレス。
みたいな、ね。
僕でも答えられるような問題ばかりだ。
というかレナス聖騎士学園は王都エムブレスにあるので、ここのことである。
頭の良し悪しは重要視していないというのがよくわかる問題だ。
「あたしの従者騎士は実技で最高評価のSランクで合格してるよ。試験日に話題になってたみたいだけど知らなかったのかな?」
ゼナヴィアが得意げだ。
控えめなアピールをしていたルヴェルとは大違いで優秀な従者を自慢したくてしょうがないって感じだ。
微笑ましい。
「それにルヴェルはあたしの屋敷で従者として半年間修業をしていたからベッドメイキングだって完璧なんだよ!」
「……それは関係ないだろ」
「え? でも床の世話がどうたらってさっき言われたよ? 違った?」
うん、違うと思うよ。
あの男は下衆の勘繰りをしていただけだからね。
じゃあどういう意味なのって聞かれたら黙ることしかできないんだけど。
今のルヴェルみたいにさ。
「そういえばルヴェルが言ってたソーローってなあに?」
無垢だ。
上目遣いで尋ねてくるゼナヴィアがあまりにも無邪気すぎる。
僕には眩しすぎて浄化されてしまいそうだ。
「そ、それは……売り言葉に買い言葉というか、相手のレベルに合わせただけだから……ゼナヴィアが知る必要はない」
「えぇー?」
不満そうだけど答えられるわけもなく敗走。ルヴェルも「あまり下手なことは言えないな……」とひとりごち、先の言動を反省し始めた。
ま、不慣れなことはするなってことだね。ルヴェルに下品な発言は似合わないし、わざわざ相手に合わせる必要もないだろう。
「おぼこ娘な主人に学年一の劣等生従者か。お似合いじゃないか」
「なにを――」
「あはっ、ありがとー!」
挑発に噛みつこうとするルヴェルの横でゼナヴィアが嬉しそうにしている。
なんで?
「ありがとうは違うだろ」
「え、でもあたしたちのことお似合いって」
ルヴェルの冷静なツッコミをゼナヴィアの純真が迎え打つ。
あの手この手で戦う千刃流の使い手とは思えない白さだ。もしやわざと言っているのではないだろうか? 僕は訝しんだ。
「ふざけた女だ。『能無し』もそんな世間知らずに仕えていると大変だろう。俺がベッドの上で色々と教育しておいてやろうか?」
往来で何を言っているんだ、こいつは。
入学式を終えたばかりだから講堂から学園の校舎へ戻ろうとしている生徒が沢山いる。
よくもまあ恥ずかしげも無く下品な発言をできるものだ。もう少し公序良俗に基づいた……って異世界で注意しても仕方ないか。
そもそも僕にはできないけどね。
「ふざけているのはどっちだ。お前に俺の主人を触れさせるわけがないだろ」
「そうだそうだ! ルヴェルはあたしの従者騎士なんだから、あたしがルヴェルにおそわれれば――嚙んじゃった。教わればいいの!」
そこ大事なとこ!! しかも微妙に意味が通じてる――っ!
それにまだベッドメイキングの話だと勘違いしてるよね。便乗してるけど話がやっぱりズレてるよ。
「……ゼナヴィア、少し黙っててもらってもいいか」
「どうして?」
「気が削がれる」
14歳にして苦労人の片鱗が見え隠れするルヴェルには同情を禁じ得ない。
スキルはないし、周りは敵ばかりだし、主人は純真無垢だし……ってこれは別にいいか。
……あれ? いいのか? 1番ルヴェルの頭を悩ませているのってもしかしてゼナヴィアなんじゃ――い、いや、大丈夫。
彼には僕が付いている。
僕が憑いているんだから他は瑣末な問題でしかない。
「……とりあえず、俺のことが気に食わないっていうのはわかった。でも、だったらどうする? これで話を付けるか?」
そう言ってルヴェルは腰に帯刀した剣の柄に手を掛けた。
「物分かりがいいじゃないか。お前が実技でランクSの評価を獲得した俺たちより高く評価されたなんて信じられなかったからな。ここで化けの皮を剥がしてやるさ」
語るに落ちたというかなんというか。
だから突っかかってきたのね。
つまりスキルもない劣等生であるルヴェルに対して「実技の評価で負けるわけがない!」「試験の結果が間違っている!」と抗議したいわけだ。
でも聖騎士学園に直接文句を告げることはできなかったから本人に直撃した、と。
なるほどね。
周囲の学園生たちが止めに入らないのも少なからず三人組と同じことを思っているからだろう。もしくは触らぬ神に祟りなしってところか。
遠巻きに見守るだけで介入してくることはない。
状況的には一触即発って感じなんだけど……さて、どうしたものかね。
「あらあら、子犬たちが騒がしいから来てみれば、随分と面白そうなことをしているのね」




