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孤高の騎士は愚かな令嬢に囚われる ―R15版―  作者: ヴィルヘルミナ


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番外 窓の外

 二度目の結婚式から数日が過ぎ、港町の気の良い人々との宴会騒ぎも落ち着いてきた。あれが一度目の結婚式の穴埋めになったのかどうかは、正直言って自信がない。養母のダーリヤに頭を下げて女性が好む求婚と結婚式について教えを受け、エフィムとジェイに事前準備を手伝ってもらい、ドナートの恋人スサンナにドレスを仕立ててもらった。


 結婚式の準備は、そのほとんどを人任せにしていたものの想像以上に重労働だった。貴族の規則に沿って行われた正式な結婚式の準備は、さらに重労働だっただろう。マリーナ一人で行わせてしまったことに、今更ながら深い後悔を感じている。


 昼食の後、厨房でマリーナとエミーリヤが菓子を作っている。出来上がるまで待つようにと言われたが、独りになると落ち着かない。一体どんな会話をしているのか気になって、厨房の外へと回り込むと先客がいた。


「……エフィム?」

「しっ!」

 口元に指をあて、エフィムが私の言葉を制止する。指で指示されるまま、エフィムにならって身を隠す。


 エフィムは騎士ではなく商人になっても毎日の鍛錬をかかさない為、若々しく体格も変わらない。

 いい年をした男二人で厨房の窓際に貼り付く姿は、マリーナには見せたくないと思う。


「――十年前から、ずっと好きだったんです」

 エフィムが魔法を使って音を立てずに窓を開けると、マリーナの声が聞こえてきた。


「初めて会った時、メレフが私の運命の人だって思ったのです。絶対に一緒になって幸せになるって誓ったことを思い出しました」


「じゃあ、もう離れようなんて思わないわね」

「はい!」

 マリーナの返答に安堵して、肩の力が抜けていく。


「エミーリヤと同じで、私も魔法使いの騎士に助けられました。本当にお伽話みたいです」

「マリーナにもきっと、貴女だけのお伽話があるのよ。このお伽話は結婚で終わりじゃないの。幸せなお話にできるかどうかは、二人の努力次第ね」


「はい。メレフと一緒に努力して、幸せなお伽話を作ります!」


 弾むようなマリーナの声が心に染みていく。気恥ずかしさと嬉しさが混ざり合って胸が熱い。笑顔のエフィムが私の頭を乱暴に撫でた。久しぶりの感触は、幼子に戻ったようでくすぐったい。


 エミーリヤのお伽話には、私の居場所はすでにない。私は私自身のお伽話をすでに見つけている。


『よし。久しぶりに飲みに行くか』

 声を潜めたエフィムがそっと立ち上がった。促されて立ち上がると視線が同じ高さであることに気が付く。幼少の頃は見上げるだけだった私も、ようやくエフィムの背の高さまで追いついた。


「昼間からですか? 今度は負けませんよ」

 剣技ではまだ敵わないが、酒を飲む量なら互角だ。


 いつもの酒場へと二人で歩く途中、風の精霊トゥーレイが青い服を着た幼子の姿で現れた。

『もー、いつになったら呼んでくれるの? 待ってたのに!』

「ああ、すまない」

 忘れていたと正直に言えば、精霊は怒るだろうか。


『覗こうと思ったけど結界張ってあるし! 酷い話だよ!』

「それは当たり前だぞ。覗きはいかん」

 エフィムが精霊を諭すが、我々が先程までやっていたことを考えると苦笑するしかない。


『もー、仕方ないなぁ。飲みに行くなら、僕も連れて行ってよ』

「その姿では無理だな」

『メレフ、ちょっと魔力を分けてよ』

「何をするんだ?」


 私が分けた魔力を使い、トゥーレイは私と同年代の水色の髪の男の姿になった。

『これならいいだろ?』

「目が偽装しきれていないぞ」

 そう言ってエフィムが苦笑する。白目のない青玉の瞳は精霊の証拠。子供でも知っている話だ。


「仕方ないな。貸してやる」

 ぱちりとエフィムが指を鳴らすと、黒いレンズの丸眼鏡が現れた。


「それは?」

「ああ、知り合いの火の精霊と飲みに行く時に使ってる。眼鏡に注意が向くように魔法を掛けているから、意外とバレない」

『ありがとー』

 

 そうして二人の魔法使いと、怪しい黒眼鏡の精霊は酒場へとたどり着いた。

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