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第40話 オークとエルフと女騎士の話

 

 集落の端の端。

 家畜小屋と呼ばれる粗末な小屋の中の、小さな部屋。

 その中で、白毛はヴァイスと対面する形で座っていた。


(俺と話がしたい? いったいこの女騎士は何を言っている?)


 白毛に浮かぶのは、ただただ疑問だけである。

 女騎士にとっては悪夢とも思えるであろう、この場所に、彼女は自ら戻ってきたのだ。

 自分と、会話をするために?


 白毛は訝しげに紅い瞳でヴァイスを見つめるが、彼女は瑠璃色の瞳で持ってそれに答える。

 その目に先程のような嫌悪や殺意の念は浮かんでいない。


 黙っていても仕方が無い。

 そう思った白毛は仕方なく、口を開く。


「俺と話がしたいと言ったな。いったいどういうつもりだ?

 俺と話した所で、お前に何の益がある?」


「何の益もないでしょうね」


「わけがわからないな。お前はいったい何を考えている?」


 ヴァイスは少し逡巡を見せたあと、言葉を選ぶようにして口を開いた。


「白色のオーク。貴方の望みは何なのですか?」


「お前の知ったことではない」


 ヴァイスの言葉を白毛はにべもなく拒絶するが、彼女を取り合う様子もなく言葉を続ける。


「私はハナカケというオークと、一度だけ会話をしたことがあります。

 彼はオークで、決して許容の出来ない思想の持ち主ではありましたが………それでも彼は自分の仲間たちを大切に思っていました」


「鼻欠………?」


「彼は誇り高い戦士でした。彼はその最後まで仲間を売り渡すようなことはしなかったと聞いています。それほど彼にとってこのオークの群れはかけがいのない物だったのでしょう。この群れのオークたちは固い絆で結ばれているようだ。

 だけど貴方は―――」


「貴様らが………鼻欠を嬲り殺した貴様らが、知った風な口を聞くな!!」


 白毛は怒りのままに、ヴァイスを怒鳴りつける。

 今の白毛に、彼女を非難する資格など無いことは彼自身が最も自覚していることではあるが、それでも白毛は心の中から込み上げる怒りを抑えることが出来なかったのだ。

 白毛の怒号にヴァイスは一瞬怯むも、その瞳へ意を決したように力を込める。


「だけど貴方は、私に仲間を売り渡すような真似をした。

 それが私には解せないのです。

 貴方は自分の群れを大切に思ってはいないのですか?」


 ヴァイスの問いに対し、白毛は嘲笑する。


「馬鹿かお前は。俺たちはオーク族だぞ?

 他種族を殺し、奪い、辱めることによって繁栄を続ける、悪鬼のような種族だ。

 そんな俺たちが仲間を大切に思う訳が無いだろう」


「……………」


「お前は俺が仲間を売り渡したことを解せないと言っていたな。

 考えるまでも無い。俺は文字通り仲間を売ったのさ。

 こう言えばいいか? 『俺の仲間たちを全て売り渡します。だから俺の命だけは助けて下さい』………わかったか?

 わかったら、さっさと仲間の下へ帰れ」


 白毛は吐き捨てるようにそう言い放つが、ヴァイスには納得がいかない。


『だけどさ、駄目なんだよ。あいつは事もあろうにこの群れを………この薄汚いオークの仲間を見捨てられない、なんてのたまいやがった。

 あいつにとってここのオーク共は、母親と天秤にかけても釣り合うほどのかけがいのないものだったって訳さ』


 あの、菖蒲色のエルフから聞いた話と、白毛の言葉は明らかに矛盾していたからだ。

 頑なに心を閉ざす白毛に対し、ヴァイスは意を決したように口を開く。


「それは………彼らが、貴方へお母さんを殺すように、指示したからですか?」


「!!?」


 白毛の紅い瞳が大きく見開かれる。

 

「訳あって、私は貴方と貴方のお母さん―――プリムラさんの話を耳にしました。

 貴方はプリムラさんを殺してから、人が変わってしまったと聞いています。

 貴方はどうして、大切な仲間を裏切るような真似をしているのですか?

 教えてください。貴方の望みは何なのですか?」


 白毛は改めてまじまじとヴァイスの顔を見つめる。

 白毛には、何故彼女が自分とプリムラの事を知っているのかは見当もつかないが、どうやらこの女騎士は自分が考えている以上に、自分のことを知っているようだ。


「俺の………望み………?」


 白毛の胸に、フェイトと交わした契約が思い浮かぶ。

 そう、白毛は自分がオークであることを捨てて仲間たちの破滅を望んだ。

 自らの母を苦しめ喰らった、下賤なオークたちを全て殺してしまいたいと望んだのだ。

 そして、その望みは果たされた筈だ。


「俺の望みは全ての破滅だ。俺は仲間たちが憎い。許せない。

 彼らは俺の母を汚し、その生命を弄んだ愚劣な種族だ。

 必滅を与えるべき邪悪な者達だ」


 なのに、この苦しみは何だろう?

 荒涼とした冬の霜風に吹かれるような、この心の寒さは何だろう?


「そうして、仲間を裏切りその果てに、貴方は何を得ると言うのです?」


「俺は何も得なくていい。俺というケダモノには全てが不要だ。

 俺に何かを得る資格は無い、失うだけでいい。それでいいんだ」


「それは………寂しいですね」


「寂しい、だと………? 人間族の貴様に何が分かる!?」


 そうだ。この小娘に何が分かると言うのだ。

 彼女は自分とは違う。

 その優れた容姿も。

 才気溢れるその剣術も。

 祝福を受けているであろう、その地位も。

 何より、その侵しがたき高潔な精神も。

 全て、自分には無いものだ。

 

 自分はオーク。全ての知的種族から憎悪される下衆で残忍な劣等種族。

 そして、そのオーク族の中でさえ、破滅の紅眼を持った異端者である。


 白毛の視線に憎しみが混じる。

 しかし、ヴァイスはその眼差を受けてなお、揺るがない。


「何がわかる………ですか。

 ええ、何もわかりませんよ。だって貴方は何も教えてくれないではないですか!

 それに―――」


 ヴァイスは少し声を荒げるも、一拍置いてから落ち着いた調子で口を開く。 


「それに、私は母というものを知りません。

 私の母は、私が稚児の内に亡くなってしまいましたから………。

 だから、私が貴方の心を真に理解するなど不可能でしょう。

 私と貴方はその性から種族、立場に置いてまであまりにも違いすぎる………。

 しかし、仲間を思う気持ちだけは理解できるつもりです。

 私にとっての仲間―――比類なき勇気の騎士団はかけがえのない仲間たちです。

 きっと、貴方にとってのオークたちと同じように……」


「……………」


「白色のオーク………貴方はオークが憎いですか?」


「なんだと………?」


「私は自分の父を愛しています。

 彼がいい父親であるかと問われれば、自信を持って肯定することは出来ませんが………。 それでも父は私の唯一人の肉親で、幼い頃の私にとって父はあこがれるに足る立派な騎士でしたから。

 だけど、もし騎士団から『父を殺せ』と命令されたなら―――」


 ヴァイスは少しだけ目を伏せる。

 それは仮定の話であったが、十分に起こりえることでもあった。王都において絶対の発言力を持つゾーラタ・ゴルトーは巨大な派閥を持つが、同時に敵も多い。

 国王が彼を疎ましく感じているという噂もよく耳にするし、きっとそれは事実なのだろう。

 国王が騎士団を使ってゾーラタを排除しようとする。それは決してありえない話ではないのだ。


「―――きっと私は苦しむでしょう。

 父に味方するべきか、騎士団としての誇りを取るべきか、私は迷うでしょう。

 正直、どうすればいいのかなんてわかりません」


 ヴァイスは伏せていた目を上げると、白毛の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「だけど、これだけははっきりわかります。

 例え彼らが―――『比類なき勇気の騎士団』が父を打ち倒したとしても、私は彼らを憎むことなんて出来ない。

 だって彼らは仲間で、私の誇りなのですから………悲しくても、苦しくても、きっと私は彼らを捨てられない」


「…………………」


「白色のオーク。貴方にとって仲間たちは憎いだけの存在なのですか? 

 許せない敵なのですか?

 仲間たちを全て失って、たった一人きりになって、本当に貴方は救われるのですか?」


「だけど!」


 白毛は思わず立ち上がり、ヴァイスの肩を諸手で掴む。


「だけど、あいつらは俺の母さんを汚し、その尊厳を踏みにじったんだ!

 俺に母さんを殺させ、その肉を喰らったんだ!

 許せる訳が無い、許していい訳が無い!

 俺は彼らを許してはいけないんだ!」


 白毛はヴァイスの肩を掴みながら、そう訴える。

 その声は、初めてあった頃のように邪悪な物ではなく、先ほどのように投げやりなものでもない。

 白毛の心の奥から搾り出すような、嘆きの叫びであった。


「母さんは、俺の母さんだったけれど………俺よりもずっと幼い少女だった。

 生きる喜びも、家族も仲間も知らない不憫な女の子だった。

 こんな所に閉じ込められて、みんなから傷つけられて、誰からも救われず、希望も持てず………」


 言葉を続ける白毛の瞳から一筋の涙が流れる。

 仲間を拒絶し、心を閉ざし、厳重に折り重なった心の壁。

 それが、本来敵である筈のヴァイスによって、少しだけ隙間をあけられていた。


「母さんには、味方になってくれる人が誰もいなかった。

 ずっと一人っきりだった。

 俺は………俺だけは母さんの味方でいなければいけない。

 母さんが世界から受けた理不尽は、俺が同様の理不尽で世界へと返納しなければいけないんだ!

 だから、俺は―――!」


 白毛はヴァイスの肩を掴んでいた手を離し、床へと叩きつける。

 そして、そのままひざまづくかのように、頭を伏せて歯を噛み締めた。

 その姿はまるで泣くのを必死に堪えている幼子のようだ。


 ヴァイスは無言で、震える白毛の傍らに腰掛けると、白い花の鉢植えにそっと手を添える。


「…………?」


「白色のオーク。最後に私がここへ戻ってきた理由をお伝えします」 


 不思議そうな様子の白毛の前に、ヴァイスはプリムラ・シネンシスの鉢植えを持ち上げる。


「もし、『これ』に気付いていなかったら、私はここに戻ってくることなど無かったでしょう。

 集落の位置について情報を得ながら、再びここに戻るという。私の一連の行動は騎士団に対する裏切り行為と言ってもいいものですからね。

 ―――だけど、私はどうしても『これ』を貴方に伝えたかった」


 ヴァイスはそのまま、プリムラの鉢植えの底面を白毛に示してみせる。

 その鉢植えの底面には短い文字が彫られていた。

 白毛はヴァイスに促されるままに、その文字を目に映す。



 ―――白毛に沢山の幸せが訪れますように―――



 それは、プリムラから白毛に宛てられた最後の言葉。

 母から息子へ送った、最後の願いだった。


「あ………あああ、ああぁ………」


 白毛の口から嗚咽が漏れる。

 彼の目の前は真っ白になっていた。


「きっと、プリムラさんは貴方が仲間を裏切ることなんて、望んでいなかった。

 貴方の破滅なんて、望んでいなかった。

 だって、そうでしょう?

 貴方は、彼女の子供なんですから。

 親が子供の不幸なんて、望むわけがありません」


 ヴァイスの声が、どこか遠くから白毛の耳に入る。

 そうだ。そんなことわかっていた。


『お母さんの望みはね、白毛が幸せに暮らしてくれること。

 だから、仲間を大切にして。

 友達と仲良くしてね。

 あの人たちは、あなたにとって、かけがいのない人たちだと思うから』


 誰でもない、母さん自身が言っていた言葉じゃないか。

 

 俺は馬鹿だ。

 本当にどうしようもない馬鹿だ。

 母さんが最後に望んだ願い、それさえも俺は不意にしてしまった。

 仲間を憎んだふりをすることで、母さんの死から目を反らした。

 仲間を裏切ることが、母さんの弔いになるなどと思い込もうとしていた。

 俺は、逃げていただけだったんだ。


「母さん………」


 白毛は目から大粒の涙を溢れさせながら、頭を垂れる。

 そんな白毛の頭を、ヴァイスはそっと胸に抱きしめた。


「俺はオークである自分が許せなかった。

 母を苦しめ続けたオーク族。そんな彼らと同類である自分が許せなかった。

 そして何より、彼らを仲間として愛し、憎むことが出来ない自分が許せなかったんだ」


「はい」


「俺は母さんと一緒に居たかった。

 いつまでも、母さんの隣に在りたかった。笑っていて欲しかった」


「はい」


「だけど、群れのみんなとも一緒にいたかった。

 みんなは俺にとってかけがいのない仲間たちで、彼らは俺の誇りでもあった」


「はい」


「そんな願いが矛盾していることなど分かっていた。

 叶うわけがないことだと、理解していた。

 それでも、俺はそんな願いを抱いてしまったんだ」


 白毛が本当に望んだこと、それはプリムラやギザ耳たち。

 彼が愛した者たち全てと共に生きていくことであった。

 エルフ族とオーク族。奪う者と奪われる者。

 そんな者たちの共存など、叶う道理がない。


 しかし、そんな願いを白毛は抱いてしまった。望んでしまった。

 そして、その矛盾が彼を壊してしまったのだ。


「……………」


 堰を切ったように溢れ出す、白毛の吐露に、ヴァイスは何も答えることが出来ない。

 どんな言葉を用いても、この哀れなオークを慰めることなど出来ないだろう。

 だからヴァイスは無言で左腕に力を込めて、白毛を強く抱きしめる。


 人間族の少女が、オーク族の男を抱きしめるなど、過去に例が無い。

 それは通常あり得ない、奇跡のような情景であった。


 どこか、母を感じさせる女騎士の腕の中で

 白毛は、ようやく理解した自分の本当の願いを口にする。


「俺は………全てが、欲しかったんだ」



 あれから、どれくらいの時間が経ったであろうか。

 白毛は自らを抱きしめるヴァイスの肩に手を当てると、そっとその身を離す。


「………?」


 ヴァイスが不思議そうな眼差しを向けるが、白毛はゆっくりと首をふる。

 いつまでも、こんな年端もいかぬ少女の優しさに甘えている訳にはいかない。


「自己紹介がまだだったな。俺の名は白毛しろげというんだ」


「シロゲ………?」


「ああ、母譲りの白い体毛を持っていることから、仲間たちは俺に白毛という名をつけた。

 エルフ族の少女プリムラの子でオーク族の戦士、白毛。

 女騎士さん。君の名前も教えてもらっていいだろうか?」


 白毛はゆっくりとヴァイスへ視線を向ける。

 その紅い瞳は優しげで、そして聡明な光を帯びている。

 醜い容姿でありながら、その姿はどこか神秘性を帯びており、見る者に不思議な感覚を与えるオーク。

 そう、それがこの白毛という名のオークであった。


 白毛に対して、ヴァイスはクスリと少しだけ笑みを漏らす。


「ふふ、貴方たちの方から名前を求められたのは初めてです」


 女騎士はそう言うと、胸に手を当て、恭しく礼をしてみせる。


「私の名はヴァイス・ゴルトー。

 『黄金の騎士』ゾーラタ・ゴルトーの子にして、王都が誇る精鋭騎士団『比類なき勇気の騎士団』に所属する、人間族の騎士です」


「ヴァイス………『ゴルトー』?」


 ヴァイスの言葉に、白毛は少しだけ目を丸くする。


 ゴルトー。


 その姓は、人間たちの文献に目を通していた白毛にとって馴染み深いものであったのだ。


 この世界において、もっとも新しく、影響力を持った伝説『ゴルトー叙事詩』

 そして、その伝説に名を冠する英雄、クリュートス・ゴルトー。

 魔王を破滅させ、破滅の紅眼を持つ魔人たちに、滅びと救いを与えた運命の勇者。

 ゴルトー姓を持つ物は、勇者の一族だけであると聞いている。

 ならば、この目の前の少女こそが、彼の勇者の末裔であると言うのだろうか。 


 今度は白毛がふふ、と口から笑みを漏らす。


「シロゲ、どうかしましたか?」


「いや………こんな偶然もあるものか、なんて思ってね」


「?」


 不思議そうに小首を傾げるヴァイスに対し、白毛は慈しむように微笑む。

 その紅い眼には一つの決意が宿っていた。


「ヴァイスさん。一つだけお願いをしてもいいかい?」


「私に出来ることならば」


「この小屋には25人のエルフたちが監禁されている。

 彼女たちを助けてはくれないだろうか?」


「え………?」


「君にこんなことを頼むのは、筋違いであると理解している。

 だけれど、君以外にこんなことを頼める人はいないんだ。どうか彼女たちを救って欲しい」


「しかし………!」


 ヴァイスの困惑を察したように、白毛は眼を閉じる。


「君に会うのがもう少し早かったなら、俺にも違う道があったかもしれない。

 俺がもう少し強かったならば、違う未来があったのかもしれない。

 神様がもう少しだけ、オークという種族に愛を込めて創造してくれたなら、俺の願いは叶ったのかもしれない。

 だけど、そうはならなかった。

 だから―――」


 白毛は眼を開く。その紅い瞳は夕陽のように澄んでいて、憎悪や混迷に満ちたものではない。


オーク族(俺たち)は滅ぶべきなんだ」


「シロゲ………」


「すでに俺たちはシルバー村という、人間たちの集落を次の標的としている。

 俺たちを生かしておけば、その村にもまた殺戮と蹂躙、それに陵辱が及ぶだろう。

 俺たちはそんな生き方しか出来ない種族だ。生きるだけで憎悪と悲嘆を撒き散らすだけの邪悪な種族なんだ」


「ヴァイスさん。どうか貴女に全てを終わらせて欲しい。

 この群れのオークたちを1匹残らず殲滅してほしい。

 これ以上、俺たちに蛮行を続けさせてはいけない」


 そう言って、白毛はヴァイスへ一つの鍵を差し出す。

 それはこの小屋の、繁殖用の女性を監禁している部屋の鍵であった。


「受け取ってくれるかい?」


 ヴァイスはその鍵を前に少し逡巡を見せるも、再び瞳に力を宿し、力強く鍵を受け取る。


「貴方の願い、貴方の思い。確かに受け取りました。

 約束しましょう、私は騎士の誇りにかけて、エルフたちを助け出します!」


 ヴァイスの眼には曇りなく、その瑠璃色は青空のように澄み渡っている。

 白毛はどこかその眼を眩しく感じながら、頭を垂れた。


「ありがとう………それと、すまなかった。

 君には随分と、酷いことをしてしまった。

 俺にこんなことを言う資格は無いが………彼女たちのことをよろしく頼む」


 ヴァイスはこくりと一つ頷くと、再び部屋を出て行く。

 もう彼女がここへ戻ってくることはないだろう。


 白毛は一つため息をつくと、再びその場に寝転がる。


「母さん、ごめん。

 やっぱり俺には、母さんの最後の願いを叶えることが出来なかったよ。

 だけど、わかって欲しい。

 俺の幸せはそもそも、あなた無しには成り立たないものだったんだ」


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