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クズが出会う話

 その機械で作られた声を聞いただけで、人間離れした勘の良さを持った者ならばあるいは気付いたかもしれない。だがこのクズがそんな便利なものを持っているはずもなく、

「いや、もう直で会ってんだから、機械介さなくてもいいだろ」

 と、突っ込みを入れた。

「ふむ、そこからでは私の姿が見えまい。こっちまで来てくれよ」

「はあ? そっちから来ればいいじゃないか」

「まあまあ、君はあくまでも囚われの身なんだから。ここは素直に私の言うことを聞いてくれないか」

 機械の声が言うと、老執事は再び無口に戻り、クズを強引に引っ張った。

「ちょ、自分で歩けるって」

 と、クズが老執事の腕を振り払う。クズの中では、そこそこの力を出した。いくらクズとはいえ、成人男性のそこそこの力である。普通の老人ならば、オットットとよろけるはずである。いや、それどころか尻もちをついて尾てい骨を骨折してもおかしくは無い。

 しかし、老紳士はよろけなかった。振り払った際に手は解いたのだが、それでも老執事は昂然として直立していた。

「ハッハッハ、君、老人は労わった方がいいよ。敬老の念を忘れちゃあおしめえだよ」

 機械の声が茶化す。

「いや、今のは違うでしょ」

 クズが反論する。して、この反論の文句を垂れる際に、クズの脳内ではあることに気付く。ようやく、気付く。

「え、お前、今の見えてたのか?」

 もちろん、クズから死角になるポイントに位置付いているだけかもしれない。だが先ほどから、クズと老執事はエレベーターの前からほとんど動いていない。降りた時の一歩と、引っ張られた時の二歩のみである。

「ハッハッハ、もちろん、この目ではっきりと見させてもらったよ」

 クズは思い返す。

(え、見えもしない位置から、どうして? え? あ、そう言えば、俺をさらった輩って、覆面をして……スタイルもサラッとしていて……そして何より……)

「そうか、爺さん、俺を誘拐したのはアンタか」

 時折、鋭い勘を見せたかと思えば、それが本人の中では全く違う方向に話を持っていってしまうことがある。クズは機械の声の正体を感じ取ろうとして、結句その先の自分を誘拐した人間について考察してしまったのだ。

「ん、まあ、それは確かにそこの老人が君を誘拐したんだけれども……君はよく、何かズレていると言われないかい?」

「言われる!」

 クズの気持ちは昂揚した。それは、あまり勉強せずに挑んだテストで、結果はイマイチだったにも拘らず、偶然にも正解率の低い問題に正解していた時のような高揚感であった。

 機械の声が話を戻す。

「まあ、それはいいから、ちょっとこちらに来てほしい」

 思考回路がシンプルにできているクズは、上がってしまったテンションに乗っかり、機械の声のする方へと歩み寄った。

「やあ、これが私だ」

 寄ると、文庫本くらい大きさのノートパソコンに繋がれた小さなスピーカーから、音声が発せられていた。

「え? 音声チャット? お前、姿を見せるとか言って、どっかからチャット飛ばしてんじゃねえよ」

 拍子の抜けた様な顔をしながらクズが言う。

「ゴメンね、これ、私の本体なんだ。このノーパソ、私ね」

「いやいや。スパコンじゃなくとも、少なくともデスクトップ型くらいじゃないと、騙せないだろ」

「ハッハッハ、君の着眼点はどこかズレているね。でもね、このノーパソ自体が、私の発明品なのだよ」

 画面は省エネモードで真っ暗なのに、何故だかしたり顔が浮かんでくる言い方である。

「いやいやいやいや。それだと、お前の発明品がお前ってことになるだろ。それじゃあ、元々のお前が居なくなって、結果的にお前を造るはずのお前もいなくなってるじゃないか。ん? どういうこと?」

 クズは自分の発言の意味を見失い、発言後に眼球だけ左斜め上に向けながら、頭の中を整理しようとする。すると、

「ハッハッハ、君は面白い着眼点を持っているけれども、やっぱりどこか抜けているね。私がこれを造った時は、もちろん人間として発明したよ」

「え、でもお前、ノーパソじゃん」

「ハッハッハ、話は最後まで聞いてくれ。このノーパソって言うのは、人体に直で接続することのできるノーパソなのだよ。まあスペック自体は高くないのだが、私の思考データを圧縮ファイルとして収めることくらいは可能な容量だったってわけだよ」

「はあ?」

 クズは顎に右手の平をついて、必死に話を理解しようと聞いた。

「で、私はこうなったってわけだ。わかったか?」

「いや、わからん」

 クズは右手の平で両目を覆う。

「ほう、何がわからないんだ?」

 クズは右手をそのまま額にスライドさせる。

「いや、ノーパソの中に入れるってのは何となくわかったんだけど、じゃあ何で今、入ってる必要があるんだよ」

「フム、悪くない着眼点だ。が、やはり想像力が足りないな」

「は?」

「いや、少し考えれば分かるだろう。こんなに素晴らしくスゲエ発明だ。誰かに盗まれちゃったんだよ。何と言うかひっそりと造ったはずなのに、地獄耳のやつはいるもんだね。まあ、データのバックアップは取ってあったから、こうしてこれがある訳なんだけどね。だが案の定、その盗まれたノーパソがどうやら敵の組織に悪用されているらしいんだ。まあ、そりゃそうだよね。これ、使い方によっては簡単に洗脳とかできちゃうから。で、私は考えた。何とかしてそれを取り返そう、と。で、それをぶっ壊しちゃえば、もう悪用はされない、とね」

 と、機械の声が捲し立てる。

「いやいや、普通そこまで推測出来ねえよ。てか、敵の組織ってなんだよ。俺にとっちゃ、お前らも十分敵の組織だよ。てか、今の話じゃお前がノーパソに入っている理由になって無くないか?」

眉間にしわを寄せながら聞いて居たクズは、しわを解きながらようやく突っ込みを入れた。

「ハッハッハ、まあ最後まで聞けって。ここからが私がノーパソに入っている理由なんだ」

「ふん」

 クズの眉間にしわが戻る。

「壊したとて、またこいつが盗まれたら意味無いだろ? だから、私が入ってしまうことによって、プロテクトしてしまうんだよ。っても、まあセキュリティソフトってよりはウィルスソフトって感じなんだけどね。毒を以て毒を制すってね」

「え、じゃあお前の人生はこれからずっとノーパソってことなのか?」

「ハッハッハ、ちょいと違うな。君、後ろを見てみな」

 クズが振り向くと、そこには老執事が立っていた。

「彼、言葉少なだったろう?」

「え?」

「彼が、私なんだよ」

 クズは絶句した。

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