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06-54 湯屋

どこかの扉の向こうの温泉街で、

病気屋と熱屋が宿にやってきた。

「こりゃ歴史がありそうだ」

病気屋がつぶやく。

出迎えたものにチケットを見せると、

納得してもらえたらしく、部屋へと通される。

「旅館の中なら浴衣で歩いても結構ですよ」

そういわれ、病気屋はあらためて自分の白衣を思う。

浴衣なら、ちょっとは温泉街に馴染むかもしれない。


小ぢんまりした部屋に、病気屋と熱屋は案内され、

荷物を置いた。

「ぜひ温泉を楽しんでくださいな」

案内の者にそう言われ、うなずいて二人は足を伸ばした。

「長旅じゃないけど、なんだか気持ちがのびるなぁ」

「扉屋でひとくぐりだからな」

「列車の旅とかすれば、もっと気持ちいいのかな」

「わからんなぁ」

「いつか行こうよ、長旅」

熱屋の目が輝く。

少女と女性の間で止まった、

いつもうつろな熱屋の目が、

この旅で輝いている。

「旅が好きなのか?」

病気屋が問いかける。

「わかんない、お仕事としてのお店も好き」

「そんなに目を輝かせたのは、ずいぶん見ていなかったぞ」

「そうかなぁ?」

熱屋はゆっくり首をかしげる。

その仕草はいつもの斜陽街の熱屋だ。

病気屋は柄にもなく、どきどきする。

隣同士でいつも顔を合わせていたのに、

いつもと違う熱屋がそこにいる。

「温泉行こうよ」

「あ、ああ、そうだな」

二人は浴衣に着替え、宿の温泉へと向かった。


男女と別れたところを入って、

病気屋は温泉を堪能する。

一方の熱屋も温泉を堪能する。

「すごい熱の使い放題ね」

熱屋は自分の店の熱カプセルに換算して考えようとする。

すぐにやめた。どうしようもない。

うんと手と足を伸ばす。

硫黄のかすかなにおいが心地いい。

熱屋は病気屋のことを思う。

気がついてくれただろうか。

病気屋がいるから楽しいんだということを。

目が輝いているとしたら、

病気屋が一緒だから輝くんだということを。

熱屋には説明の出来ない感じだけれど、

温泉よりももっと深いところで、

病気屋がいつも熱屋をあたためてくれている。

いつも、いつも。

熱屋には扱えない熱なのだ。

「きもちいいね」

熱屋はつぶやく。

温泉は確かに気持ちいい。

古い宿に一緒なのももちろんいいかもしれないが、

何より病気屋を独り占めだ。

そこまで考えが至り、熱屋はひっそり笑う。

これは独占欲というものによく似ている。


熱屋は温泉でそんなことを思った。

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