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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第1章 はじまり
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小話3 護衛術(2ヶ月前)

まだ雪が村を覆っている頃のこと。ある平日の放課後、ライナは小雪がちらつく中、村役場を目指して雪道を歩いていた。座学用の茶色いディアンドルの上から白いポンチョコートを羽織り、足元は膝丈のファーブーツで寒さをしのいでいる。肩掛けの大きめのカバンは大きく膨らんでいる。

"まさか、ソフィーさんに護身術を習うことになるとは"

ライナは護身術を習うため、村長の秘書の一人であるソフィーを訪ねるところなのである。


ソフィーとはかれこれ10年の付き合いであり、歳の離れた姉のような存在である。



事の発端は1ヶ月前、ライナはティオと言い争いになり色々あって護身術を習うことになったのだ。ライナが校長のロドルフに相談したところ、自身の娘であるソフィーが適役だろうということになった。この件がうまくいけば、ロドルフは(ソフィー)に他の女子生徒の護身術もお願いしようかと密かに考えていたのであった。


ロドルフとソフィーと村長で話し合いをし、この日に初レッスンとなったのだ。場所は村役場の敷地内にある屋内訓練場。ここは村の警備隊が冬場などに訓練するため作られたもので、今の時間はソフィーが貸し切ってくれているらしい。


ライナが訓練場の中に入ると、ソフィーともう一人20代半ばほどの男性がウォームアップしているところだった。二人とも訓練着と呼ばれる上下黒の服を着ている。これは村の警備隊が訓練時によく着ているものだった。警備隊とは村の治安を守る組織のことでほとんどが男性である。ソフィーの訓練着は特注なようで、彼女のスタイルの良さがあまり強調されすぎないようになっている。彼女はピンクがかった茶髪を高い位置に一本に結い上げており、体を動かすたびに髪が優雅に揺れる。

「ソフィーさん、ギルさん、こんにちは。今日はギルさんも一緒なんですね」

「ライナ、久しぶりね、会いたかったわ。ギルは隊長から貸してもらったの」

「ソフィーさん、僕をモノのように言わないでください。ライナ、こんにちは。護身術を見せるのに相手役が必要だろうってことでね」

ギルと呼ばれた黒に金が交じる髪に褐色の肌の男は、グレーの瞳でライナにウインクした。

「警備隊の下っ端だし使い勝手がいいし、最適役よね」

「さっきからひどくないっすか?!別に俺より年下とか結構いるんですからね!しかも、こんなに爽やかでかわいい系他にいないのに」

「爽やかでかわいい系、ではないわよね。その厚い胸板で言わないでほしいわ」

ギルは身長はソフィーとほぼ変わらず、ガッシリしている体型である。

「お二人は仲良しだったんですね」

ライナは二人の会話からそう感じた。彼女の性格を知っているライナとしては少々意外性を感じたのだった。

「ふふ、ギルとは学生の時からの付き合いだし、言い寄ってこないから楽なのよ」


ソフィーは男が、特に自分に言い寄ってくる男が嫌いである。

かと言って女が好きというわけではないらしい。


「もはや警備隊の面々は言い寄らないですよね。見た目に騙されtっ痛い痛い!!!」

ソフィーがギルの手首を捻り上げた。

細身のソフィーがガタイのいいギルをいとも簡単に、である。

事情を知らない者が見れば思わず目を見開くところだろうが、ライナからすれば見慣れた光景である。


"前はロイスさんとスタンさんがよくやられてたなぁ"

二人は元気かなーなどと、ライナが少し現実逃避したのはここだけの話である。ちなみにロイスとスタンとはソフィーの友人であり、前者はリズニアの学園で学校医をやっており、後者は村役場で魔法研究に勤しんでいるのだ。


「おだまりなさいな、ギル。愛しのライナの前で何を言う気?」

「痛いっすてば!!ライナなんて昔からソフィーさんと関わりがあるんだから知らないわけn痛いですって!!!村長秘書でありながら警備隊の幹部隊員だなんて、完全にチートじゃないですか!」



そう、ソフィーの肩書は村長秘書だけではない。警備隊の幹部隊員という、実力主義の警備隊の中でも指折りの役職についているのだ。


ソフィーはギルの手首を離し、パンパンと手をはたいた。準備体操終了、と小さく漏らしながら。


「なんちゃって幹部でしょうよ。秘書とイズールの行き来がメインなんだから」


そして、彼女の最後の肩書、それが、イズール貿易担当者なのである。

むしろそれがメインであり、仕事の合間に秘書と警備隊を兼ねているのだ。秘書に関しては第2秘書が控えているため、村長が困ることはないらしい。


「「仕事中毒(ワーカホリック)だ」」

ギルとライナの言葉がピタリと一致した瞬間だった。


「まぁ、愛しのライナ!そんな言葉まで覚えちゃって!」

そんなことを言いながらソフィーはライナに抱きついた。

昔から抱きつかれているのでもはや解こうとはしない。


「美女と美少女の抱擁とか、需要ありまくりですよね」

ギルのそんな言葉に、ソフィーは眉をひそめた。


これは軽蔑の眼差しというやつである。



「ギル。そんないかがわしい目でライナを見ないでちょうだい。減るわ」

「何が減るんすか?!」



そんな会話をしつつ、ライナは更衣室で着替えることとなった。





警備隊の訓練はそこそこハードなものだと噂で聞いていた。夏場はよく村の外れでランニングなどもしている。


その中で女ただ一人上に上り詰めているソフィーの凄さを考えながら、ライナは仕度を終えた。


「ソフィーさん、ギルさん、おまたせしました」

ライナは実習服と呼ばれる上下グレーのつなぎに身を包んでいた。

彼女が着ると少々ダボついているように見える。


「私の天使(ライナ)は何を着てもかわいいわ。やっぱり男には触れさせられないわ!」

ソフィーがデレデレしているのを、ライナは苦笑しながら見ていた。相変わらずぶっ飛んでるなーなどと思っていたのは本人には内緒である。

「もしかして、ソフィーさんから立候補してくれたんですか?」

「そうよ。村長と校長に頼み込んだの」

ソフィーはそう言うと、暗めの琥珀色の瞳を細めてライナに笑いかける。

「まぁ、他の隊員が頼まれても怖くてできないでしょうよ。お嬢に触れたなんて、命がいくつあっても足りないすからね」

「お、お嬢?」

ライナは小さく首を傾げた。

「知らないんすか?ライナは隊員たちから"お嬢"って呼ばれてるんす」

「ふへ?!」

「そりゃ姐御のお気に入りすもん」

「ほら、無駄口叩いてないで始めるわよ」

ソフィーの声に二人はハイっと元気よく答えた。


「先生、お願いします!」

ライナが頭をぺこりと下げたのを見て、ソフィーはまたデレデレと表情を崩した。

「いいわ、先生って響き」

「ソフィーさん、よだれ拭いてくださいね」

「こんなに大きくなっちゃって!!しかも麗しいし!野郎どもには指一本触れさせないわ」

ソフィーは冷たい目でギルを睨む。

「怖っ。でもその目がたまらない」

「だまりなさい」

ソフィーはギルの足を思いっきり踏んだ。

「痛っ!でも、それ、逆効果っすよ」

ギルは嬉しそうにデレデレしている。

「そういうヤツだったわね」

ソフィーは少し青ざめた。

そんな二人のやり取りをライナは微笑ましく見つめていた。



こうしてソフィーとギルによる護身術が始まった。



◇◆◇


「そう、いいわ。ここで体重をこっちにかけて、、、」


ソフィーとギルがパターン別に実演して、それをもとにライナがソフィーに技をかけるということをしていった。

どの技も相手の重さを利用したり、急所を狙うものだったので小柄なライナでもどうにかできるものだった。


「こっちに体を向けて、そうそう、それで相手のすきを逃げるのよ」

「なるほど!」


「中途半端はだめよ。逆上させてしまうから。やるなら徹底的に」

「はい!」


「野郎どもは野蛮よ。こっちも手段を選ばないようにするのよ。使えるものはなんでも使いなさい」

「は、はい!」


休憩をはさみながら、数パターンの方法を教わった。

ライナは息が上がってしまったが、二人は平然としている。

"これが普段訓練している人との差か。二人ともすごい。でも、なんとかできそうかも"


「じゃあ最後のパターンね」

そういうと、ソフィーはライナの後ろに回り込み、ライナの胸部を両腕ごと腕でホールドした。それに加え、左足も絡め取られる。

抜け出そうにもライナの力では抜け出せない。教わったことを使おうにも手も足も動けないのだ。

「先生、動けません」

ライナはソフィーに助けを求める。

「そうでしょうね」

ソフィーは後ろから平然と答える。

ライナは少しパニックになり、抜け出そうと必死にもがく。

「っ!どうしよう、、」

ギルは斜め前にいるものの、距離があり助けてくれる様子はない。


その時、ソフィーはライナの左耳にそっと息をかけた。

「きゃっ!!」

ライナはいきなりのことにビックリし、体から力が抜けソフィーの方へ体を預けてしまった。ソフィーに背面から抱きしめられ地面に座っているような状態になってしまった。

「ソフィーさん?!」

ライナが後ろを向こうとしてもぎゅっと抑え込まれ身動きがとれない。ライナの体にソフィーの熱が伝わってくる。

"すごく恥ずかしい!"

ライナは耳まで赤くし下を向いた。

「恥ずかしがるライナの顔をちゃんと見れないのは残念だわ」

ソフィーがライナの左耳に囁く。

「あ、あの、ソフィーさん?離してください!」

「これが悪いやつならそんなこと聞いてくれないわ。いい、これから言うことをよく覚えておいてね?」

ソフィーは囁き続ける。


「一番マズイのは護身術を習ったからといって慢心してしまうこと」

そう言われてライナははっとした。

「「私は習ったから大丈夫」その慢心が一番の敵よ。訓練を積んでいるから大丈夫なんて思ってたけど、いざそのときになったら役には立たなかったわ」

ソフィーのその言葉は暗く冷たいものだった。

「ソフィーさん、、」


ソフィーの過去はそれとなく聞いていた。本人がポツリと語ってくれたこともあったし、村人伝手に聞いたこともあった。

彼女は村人の中でも特に劣悪な環境から救い出されたうちの一人だった。


だからこそ、彼女の言葉には尋常ではない"重み"があった。



「だからね、そうならないようにリスク管理することが大切なの。暗い道を一人で歩かないとか、怪しいやつについていかないとか、マズイと思ったらすぐに逃げるとか。もし万が一捕まってしまったら、どうにかこうにか抵抗して逃げ出すことを忘れないで」

そういうとソフィーは力を緩め、ライナを解放した。

ライナがソフィーを見ると少し寂しそうな笑顔を浮かべた。

「約束よ」

そういうとソフィーはライナを立たせた。

「ごめんなさいね、結構力を入れてしまったわ。怪我はない?」

そういうソフィーの表情はいつものものに戻っていた。

「大丈夫です。ソフィー先生、ありがとうございました。約束、守れるようにがんばります」

ライナは頭を下げた。



その後ライナは座学用学校着に着替え、身支度を整えた。

「私はちょっと村長のところに戻らないと行けないから、ギルがライナを送るわ。ギル、わかってるわよね?」

「わかってます!全力でライナを送り届けますよ!」

「お二人とも、今日はありがとうございました。すごく、勉強になりました」

「ライナ、約束よ」

「はい!」

「二人でさっき何話してたんすか?」

ギルは二人の会話について行けずライナとソフィーを交互に見た。


◇◆◇

帰り道、大きな満月が夜空を照らしていた。積もった雪に反射しているからか、道は普段より明るく感じる。

「雪やんでよかったすね。足元気をつけてね」

「はい。ギルさんたちはすごいですね。あんなにキツかったのに全然息が上がってなくて」

二人は雪道をひたすら歩いていく。

「まぁね。平和な村とはいえ、いざのときのために常に訓練してるんすよ。大切な村を守るために」

「ありがとうございます。私達が平和に暮らせてるのは警備隊の皆さんのおかげですね」

ライナが思い返してみると、雪で道がふさがってしまったときも、村付近で落石があったときも、村人同士でトラブルがあったときもすぐに駆けつけてくれたのは警備隊の人たちだった。

「そう言われると照れるっすね。俺は村にきてもうすぐ18年だけど、小さいときから座学は全然だめで。こっちのほうが向いてるんすよ」

へへっ、とギルは笑いながら言った。

「外に比べたら村は平和だよ、本当に。ライナが将来もし村の外にいくなら、本当に覚悟したほうがいい。ヤバいやつはたくさんいるし、薬師ともなればきっと君のことを利用しようとするやつがどんどん寄ってくる。よく見極めるんすよ」

ギルはライナの頭をくしゃっと撫でた。

「はい。わかりました」

ライナはそう言うと夜空に浮かぶ月を見上げた。大きな満月が見つめ返してくれているような気がした。




後日の学校にて

ライナが廊下を歩いているとロドルフ校長に会った。

「おぉ、ライナ!良いところにいた。護身術の件なんだがちょっといいか?」

「はい。その節はありがとうございました。」

「もし君が為になったと感じるならうちの女子生徒中心に習わせたいんだがどうだろうか?」

校長がそういうと、ライナは顔を赤らめた。

「そ、その、すごく為にはなったんですけど、は、恥ずかしかったです。あんなことされたことなかったもので。」

ライナがもじもじとしながら答えた。


(ソフィー、何をしたんだ。。)

ロドルフはため息をついた。


ロドルフの護身術をソフィーに担当してもらう計画は見事に崩れたのだった。

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