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村へ行くなら地下迷路をどうぞ  作者: 月 影丸
第2章 忘れたものを探して
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15話 飛び級試験

少しさかのぼり、6の月27日目。6月もあと1日残すのみとなり、ついに飛び級試験の日がやってきた。この日は朝からあいにくの雨であり、傘なしでは歩けないほどであった。湿気を含んだ生暖かい風が教室内にも入ってくる。


「ライナ。俺たちもう帰らなくちゃいけないが、応援してるからな」

「あぁ、ライナなら大丈夫だと信じてるけどじっとしていられない」

ティオとケリーは心配そうにライナを見つめた。ライナは二人に笑顔を向けた。

「二人とも、ありがとう。お守りもあるから大丈夫!がんばるね!」



午前は自分の学年の試験を受け、飛び級試験を受ける者は午後に引き続き飛び級試験に臨むことになるのだ。飛び級試験の受験資格は初等部五年目、中等部二年目の生徒のうち成績が基準に達している者に与えられる。中等部二年目で今年試験を受けるのはライナも入れて三人である。これは例年より多く、学年の生徒の半分が試験を受けることになるのである。


ティオとケリーは名残惜しそうに帰っていった。


ライナの他に教室に残ったのは本屋のルーの娘アデリナと肉屋のデリカの息子ジェイだった。

「ライナ、ジェイ、三人で食堂に行きましょ?」

ライナにそう声をかけたのはアデリナだった。アデリナは美しいウェーブがかった金髪に暗い琥珀色の瞳をもっている。頬にあるそばかすがチャームポイントの少女である。背丈はライナより少し小さく華奢である。彼女はケリーの熱狂的なファンでいつもタオルや水を差し入れしているうちの一人であった。

「うん」

「このメンバーで食べるは初めてだな」

そういうとジェイは明るい笑顔を見せた。ジェイは直毛短髪の黒髪に淡く青い瞳を持っている少年である。ティオよりも少し背が高く全体的にがっしりしている。

三人は試験に備えてイズール語で会話をしながら食堂を目指すことにした。

『アデリナが飛び級試験受けるのって、やっぱりケリー?』

『ふふ、それもあるわ。ケリーが見られなくなるのは辛いわ。あぁライナが羨ましいわ。あんなに抱きつかれて』

『幼馴染だからね。ジェイは何で受けるの?』

『俺は早く父さんの仕事を手伝いたくてさ。商売も狩猟も。下にたくさん兄弟いるし。ライナはどうなんだよ?』

『そっか、偉いなぁ。私は自分のことしか考えてないかも。早く学生の課程を終了して、おばあちゃんの元でちゃんと修行したくて。早く一人前になって村を出たいし』

ライナはニコリと微笑んだ。他意はなかったけれど、残る二人は少し困ったように眉をひそめた。

『事情は聞いてるけど、気にすることないわ。親は親、自分は自分よ』

『そうだ。ライナが居たいならずっと村に居てもいいんじゃないか?』

ジェイのその言葉にアデリナも首を縦に振った。それに対しライナは首を横に振った。

『ううん。どちらにしても村は出たかったの。薬草の知識を必要としてる人は世界中にいると思うし』

『そっか。でも、かっこいいわ。女薬師かぁ。ゾクゾクしちゃうわね』

『あ、ありがとう』

『ライナ、気をつけろ。狙われるぞ』

そのジェイの言葉にアデリナは誤解されるからやめてよね、と返した。ライナはそんな二人の様子を見てクスクスと笑った。

『アデリナとジェイは昔から仲がいいんだよね?』

『まぁな。ライナとティオとケリーの関係に近いかな』

『近所だしね。でも私はもっと爽やかな幼馴染がほしかったわ』

『俺ももっとナイスバディなちょっと年上のお姉さんとかが良かった』

『悪かったわね、何もなくて』

『はは。おかげで何も気にすることなく一緒に居られてるけどな』

ジェイがそういうとアデリナは頬を赤らめてそっぽを向いた。ジェイはそれに気づかずどんどん先に進む。

ライナはアデリナに耳打ちした。

『ジェイが好きなの?』

みるみるアデリナの顔が赤くなる。

『ち、ちがうわよ』

『ふふ、飛び級試験受ける本当の目的はこっちね』

『も、もう!黙っててよね!』

『ふふ。みんな青春だわ』

『ライナ、、』

その瞬間、アデリナの顔から赤みが引き、少しさびしそうな表情に変わった。

『どうしたの?』

『ううん、なんでもないわ。早く食堂に行きましょう』

アデリナはそう言うとジェイを追いかけるようにライナの手を引いて歩いていく。



ライナは先程のアデリナの様子を気にしつつも、目の前のアデリナの金髪に見とれていた。


"キレイな金髪だわ。って、私いつから金髪好きになったのかな?"


ライナは首をひねった。それでも答えは出てこなかった。



◇◆◇

試験は無事終わり、三人は教室で荷物をまとめていた。


「どうにかなったな。アデリナとライナはどうだった?」

「まぁまぁね」

「どうにかって感じ」

「もし三人とも受かったら、家でお祝いやらないか?母さんも二人連れてきたら喜ぶと思うし。あ、何ならティオとケリーも呼んでさ」

「それいいわね。なんかいきなりプレッシャーに押しつぶされて気持ち悪い。ケリーとご飯食べれるのなんて夢みたいだわ」

「試験終わったあとで良かったな」

「受かるまでは内緒ね。受かったらすぐ聞きましょう」



こうして三人は教室を出た。外はすっかり晴れ、日が西に傾きつつあった。

校舎を出たところでライナは二人とわかれた。別の門から出るためである。軽く言い争いをしながら歩く二人の後ろ姿を眺めながら、ライナは小さくため息をついた。

「はぁ。誰かを好きになれたら人生もっと楽しいのかしら?」

ライナはそういうとオレンジ色になりつつある空を見上げた。

空高くにオオワシらしき鳥が二羽旋回していた。

「鳥までも番か。やけちゃうな」

ライナは空に向かって舌を出した。

「私には誰かを好きになる資格はないのよ」


そうぽつりとつぶやいた瞬間にライナの頭の中で声が響いた。それはイズール語で、いつしか夢で聞いたのと同じ声だった。


『もっと自信を持ってほしい。周りの人たちと同じように、自分のことも大切にしてほしい』



「あなたは、誰なの?」

ライナは空に向かってつぶやいた。けれど答え返って来なかった。

また迷惑をかけてはいけないと、ティオ達には黙っておくことにした。

「今度のカウンセリングでおばあちゃんに聞いてみよう」



ライナはそう決意し、家路を急いだ。これからケリーとティオとお疲れ様会をやるからである。





◇◆◇

その日の夜。ティオはアベル宛の手紙を書いていた。明後日ウルマーがリズニアへ向けて出発するためだ。

「今回は鈴の説明も入れないとな。ふふ」

《ニヤニヤして気持ち悪いですよ、ティオ》

「だって、こっちも8の月の計画に向けて動けるようになったんだぞ?あいつにいい報告ができると思ったらつい嬉しくて」

《そういうもんですかね?人間は喜怒哀楽が豊かなんですね》

「お前だって、アベルに会えるの楽しみだろ?」

《そうですね、少しだけ楽しみです》

「ったく、素直じゃないな。それにしても、もうこのゲージも小さいな」

《もう小ウサギと呼べるサイズじゃなくなってきましたからね》

ヒースがイーリス家に来てから2ヶ月以上が経過していた。子ウサギの2ヶ月の成長はなかなかに大きい。


「わかった。ライナにも相談してみる。雑貨屋ならもう少し大きいのがあるかもしれないしな」

《巫女様とはもう相談済みです。近々買いに行く予定なんです》

「わかった。俺も付き合うな。あ、そうだ。先生から預かってたんだった」

そういうとティオは通学用カバンからカイから預かってきた2つの封書を机に出した。

《2つ、ですか?へぇ、エマさん宛にも。ふーん》

「だから勝手に心を読むんじゃない」

《なるほど。エマさんとカイ先生は同郷で同級生だったとは。再会して再燃したわけですか。人間とは素敵ですね》

「だから読むなって。まぁ、よかった。先生、女の人に興味があったんだって、少し安心した。手紙を俺に渡してきた時の先生、ちょっと照れててさ。先生も人間なんだなって思ったよ」

《それにしても失礼な言い方ですね。同性に発情することだってあるんですよ、動物界ではね》

「そりゃ人間界にもあるんだろうけどさ。俺はよくわからないけどな。そうか、ちょっと失礼な言い方だったよな」

《無意識って怖いですね。ね、むっつりなティオくん》

「あのな。本来のむっつりの意味は寡黙ってだけなんだからな!そしてお前のは意識的だからたちが悪いんだよ!」

《ふふ。ほら、あんまり大きな声を出すと巫女様に聞こえてしまいますよ》

「ウサギって、これからの季節だとどんな料理がいいだろうか。母さんに相談してみよう」

ティオは半ば真剣にそんなことを言ったのだった。



――

アベル

暑くなってきたな。そっちは大丈夫か?こっちはライナの飛び級試験が終わったところだ。結果は二週間後なので次の手紙で伝えるな。まず、8の月の計画のことだ。まだ仮決定ではあるが、許可が出そうだ。詳しくは父さんから聞いてほしい。ライナの体調が第一なので万が一だめだったらすまない。ライナの記憶は進展が見られない。でも周りの違和感には敏感だ。俺もケリーもごまかすのが下手くそだから正直ヒヤヒヤする。彼女は色々と感じ取っていると思う。来週末、カウンセリングが入ってるそうなのでまた何かあったら伝えるよ。

同封した鈴はライナの飛び級試験のために作ったお守りの余りだ。ちなみにケリーも俺も同じものを持っている。4人でお揃いだ。俺が言うと少し気持ち悪いか。これは魔道具のようになっていて、握りしめて鳴るな念じると鳴らなくなる。逆に鳴れと念じると鳴るようになる。鳴らないようにしてると魔力を食うし、魔力がなくなるとただの鈴になる。ちなみに魔力を込めたのはケリーで、そのときに例の結晶を粉末にしたものを練り込んでもらったんだ。たった少量ですごい効果だった。使い方に気をつけないとヤバイものが出来上がるな。俺も気を引き締めなければ。

長くなったがざっとこんな感じだ。8の月、会えたら会おう。変装、楽しみにしてる。リズニアの夏はイズールよりも厳しいと思うが、体調に気をつけろよ。  ティオ

――


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