夢2
ポップコーンの香ばしい匂いが消え去ると同時に、私は強烈な光に包まれた。
視界を埋め尽くしたのは、息をのむほどの黄色。
見渡す限りのひまわり畑だった。頭上には雲ひとつない青空が広がり、ジリジリと肌を焼くような太陽が照りつけている。
パタパタと、耳元で無数の羽音がする。
見上げると、空を覆うほど大量の蝶が舞っていた。まるできらめく鱗粉の吹雪だ。蝶たちは私の周りを狂ったように旋回し、ひまわりの花弁から花弁へと、光の粒を運んでいる。
私はその美しさに圧倒されながら、一歩、畑の奥へと足を踏み入れた。
しかし、歩みを進めるうちに、奇妙な肌寒さを覚え始めた。
ざわめく葉の音に混じって、じっとこちらを凝視する「気配」がするのだ。
振り返っても、そこには大輪のひまわりが咲き誇っているだけ。……いや、違った。
ひまわりたちが、すべて私の方を向いている。
通常なら太陽を追うはずの花々が、私の動きに合わせて、ゆっくりと首を傾げるように回っているのだ。黒々とした種子の集まりが、まるで巨大なひとつの「瞳」のように見えてくる。
右を見ても、左を見ても、一万もの黄色い視線が私に突き刺さる。
それは決して刺すような悪意ではない。ただ、純粋で、圧倒的な好奇心。
世界中の目に見つめられているような心地よさと恐ろしさに、私は立ち尽くしてしまった。
「こんにちは」
声は聞こえなかった。けれど、確かにそう呼びかけられた気がした。
ひまわりの群れをかき分けて、ひとつの影がこちらに近づいてくる。
それは、仕立ての良い緑色のスーツを着た「人間」だった。しかし、首から上にあるべき頭の代わりに、大ぶりで立派なひまわりの花が、誇らしげに咲いている。
そよ風に吹かれて、彼の頭がゆらゆらと揺れた。
ひまわり頭の男は、私の数歩手前で足を止めると、すっと右手を挙げた。
シャツの白い袖口から覗くのは、紛れもない人間の手だ。彼はまるで、旅先で古い友人に偶然出会ったかのように、穏やかに、優しく手を振ってきた。
――怖くはなかった。
彼の「顔」である種子の中心からは、温かい日向の匂いがした。
悪意なんてどこにもない。彼はただ、この眩しい世界に迷い込んだ私を、歓迎してくれているのだ。
私は緊張を解き、蝶の吹雪の中で、そのひまわりの手に向けてそっと右手を振り返した。
男の頭が嬉しそうに大きく一揺れし、その拍子に、彼の黄色い花弁がひらひらと一枚、私の足元へ落ちていった。




