夢
私は夜のネオン街を歩いていた。
ビルの隙間を縫うように、青とピンクのネオンが濡れたアスファルトに溶け出している。
私は夜の街を歩いていた。どこへ向かっているのかはわからない。ただ、耳の奥でジージーと鳴るネオン管のノイズだけが、私の世界を支配していた。
すれ違う人々はみな、顔にぼかしが入ったように曖昧だ。
一歩を踏み出した瞬間、不意に足元が軽くなった。
アスファルトが、温かいゼリーのように私を吸い込んでいく。
気づけば、私は水の中にいた。
息苦しさは全くない。むしろ、肺に満ちる水は微かに甘く、ソーダ水のようだった。
頭上を見上げると、さっきまで歩いていたネオン街の光が、まるでクラゲの群れのようにゆらゆらと揺れている。私はゆっくりと、まるで重力から見放された宇宙飛行士のように、暗い水の底へと沈んでいった。
どこまでも静かで、心地よい。
このまま底に足がつかなければいいのに――そう思った瞬間、私の背中は信じられないほど乾いた、固い布地の上に落ちていた。
「紳士淑女の皆さま、今夜のショーは一味違います」
パチパチと弾けるような拍手の音。
気がつくと、私は薄暗いサーカステントの観客席に座っていた。
目の前の円形ステージでは、ピエロが空中ブランコからぶら下がっているが、その体にはロープではなく、巨大なスパゲティが巻き付いている。
私はふと、隣の席に座っている観客の男の顔を見た。
男は仕立ての良いスーツを着ていたが、なぜかその横顔は、つきたてのお餅のように柔らかそうに弛んでいた。
返事はない。ただ、スクリーンに映る古い無声映画のように、じっと前を見つめている。
あまりに不思議で、私は吸い寄せられるように右手を伸ばした。
そして、彼の左頬を、親指と人差し指でそっとつまんでみた。
――パリッ。
驚くほど軽い手応えだった。
男の頬の皮膚は、まるで焼き立てのシュー生地のように、あっけなく私の指先へと剥がれ落ちた。
慌てて手元を見ると、私の指に挟まれていたのは、男の肉でも皮膚でもなく、ふっくらと弾けた一粒のポップコーンだった。ほんのりと香ばしいバターと、塩の匂いが鼻腔をくすぐる。
隣の男を見ると、頬を丸ごと一口分失ったはずなのに、傷口からは血の一滴すら流れていない。そこにはただ、新雪のように真っ白な、乾いたコーンの繊維が見えるだけだった。
男はゆっくりとこちらを振り向き、ぽっかりと空いた頬の隙間から、嬉しそうに白い歯を見せて微笑んだ。
「おひとつ、いかがですか?」
私は手の中のポップコーンを見つめ、それからステージのピエロを見た。空中ブランコのスパゲティが、一本、また一本と、観客の頭上へと降り注ぎ始めていた。
そこで目を覚めたんだよ!!!




