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有能侍女は幼馴染に囲われていることに気づかない  作者: HANABI


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第1話 (前半) :有能侍女と皮肉屋執事の、いつもの朝

秋の空気がほんのり冷たくなり始めた頃。

公爵家の大広間は、今夜の社交会に向けて慌ただしく動いていた。

「アルト、そこのカフスは金じゃない。銀よ。公爵様は今日は“控えめな威厳”の日だから」

「“控えめな威厳”ってなんだよ、その曖昧な概念……」

「分からないなら黙って従いなさい、アルト」

侍女の少女――リリアは、手元の衣装を整えながら一切振り返らずに言い放つ。

対するは、公爵家に仕える若き執事、アルト。

彼はため息をつきながらも、言われた通りにカフスを取り替えた。

「相変わらず命令が雑なのに的確だな、お前」

「“有能”ってそういうものよ」

「自分で言うか?」

「言うわよ? だって事実だもの」

リリアはさらりと髪をかき上げ、次の指示を飛ばす。

「ネクタイの角度、3度右。あとジャケットのシワ、そこ。……違う、そこじゃない。目が節穴なの?」

「お前、絶対わざと難しく言ってるだろ」

「簡単にしたらあなたが成長しないじゃない」

「余計なお世話だよ!」

アルトは軽く睨むが、リリアはまったく意に介さない。

むしろ、少しだけ口元を緩める。

「……でもまぁ、昔よりはマシになったわね」

「え?」

「昔は靴紐もまともに結べなかったでしょ、あなた」

「それは子どもの頃の話だろ!」

「そうね。泥だらけで泣きながら『リリアぁ〜』って縋ってきて」

「やめろ記憶を掘り返すな!!」

リリアはくすりと笑う。

その表情は、主に見せる完璧な侍女の顔ではなく――

幼馴染だけが知っている、少しだけ柔らかい顔だった。

「でも、その頃から変わらないわね」

「何がだよ」

「私の言うこと、結局ちゃんと聞くところ」

アルトは一瞬言葉に詰まり、すぐに顔を背ける。

「……仕事だからな」

「ふーん?」

「なんだよその顔」

「別に? 仕事“だから”ね」

わざと強調して言うリリア。

アルトは小さく舌打ちする。

「お前こそ、いつまで侍女なんてやってるんだよ」

「どういう意味?」

「もう20だろ。普通なら、とっくにどっかの貴族に見初められて嫁いでてもおかしくない」

リリアの手が一瞬だけ止まる。

でもすぐに、何事もなかったように続きを整え始めた。

「……興味ないのよ、そういうの」

「ほんとか?」

「ええ。本当」

「ふーん……」

アルトは少しだけ探るような視線を向ける。

「じゃあさ、公爵家の次男様が最近やたらお前に話しかけてるのは?」

ピタッ。

今度は明確に、リリアの動きが止まった。

「……それは、仕事の一環よ」

「仕事であんなに顔赤くなるか?」

「なってないわ」

「なってる」

「なってない」

「なってるって」

「なってないって言ってるでしょ!!」

珍しく声を荒げたリリアに、アルトは思わず笑った。

「はは、図星かよ」

「うるさい!」

「いやー、有能侍女様にも弱点があったとは」

「……あなた、今日の仕事量増やすわよ?」

「やめろ、それは権限の乱用だ」


そんなやり取りをしていると、奥の扉が開いた。

「準備はどうだね?」

公爵の落ち着いた声が響く。

二人は一瞬で表情を切り替えた。

「滞りなく整っております、公爵様」

リリアは優雅に一礼し、

「本日の装い、完璧にお似合いかと」

アルトも一歩下がり、完璧な所作で続く。

公爵は満足そうに頷いた。

「うむ、さすがだな」

扉が閉まると同時に、二人は小さく息を吐く。

そして――

「……ねぇ、アルト」

「なんだよ」

「今夜、忙しくなるわよ」

「だろうな」

「だから――足引っ張らないでね?」

「誰に言ってんだ」

アルトは軽く肩をすくめる。

「お前こそ、変なことで動揺するなよ」

「しないわよ」

「絶対する」

「しないって言ってるでしょ!」

また始まる言い合い。

けれどその声は、どこか心地よく響いていた。

社交会の夜は、もうすぐそこ。

そして二人の関係も――

少しずつ、変わり始めていた。


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